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日本の戦争犯罪

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日本の戦争犯罪(にほんのせんそうはんざい)とは、一般に第二次世界大戦大日本帝国が犯したとされる戦争犯罪の事。

各地で開かれた軍事法廷などで戦勝国によって一方的に裁かれた戦争犯罪人は日本の国内法上犯罪人として扱われていないこともあり、日本において戦争犯罪として認知・認識されるに至っていない。

軍事法廷の評価・戦争犯罪とされた事例の存否・あるいは近年になって新たに提起されるようになった事例についての検証と議論が巻き起こっているが、それらを含んだ戦争賠償・補償ついては日本と被害各国との間で条約・協定等が締結、履行された事と各地の軍事裁判で判決を受け入れたことで償われており、国際法上、既に決着している。

目次

日本の戦争犯罪観

極東国際軍事裁判で裁かれた被告は、条例の第1条に「重大戦争犯罪人」と記されているが、国内では専らA級戦犯と呼称されているが日本国内法上A級戦犯という犯罪者は存在しない。それは条例a項目により裁かれたという意味合であるが、日本においては戦争を行ってしまった事が戦争責任として主に左派勢力から指摘追求される場合が多く、戦争を引き起こした人物達の「平和に対する罪」がもっとも重視されており、等級的上位を連想させるA級が定着したと誤解している人間も少なからず存在する。

日本が降伏するにあたって受諾したポツダム宣言には「戦争犯罪人」の処罰が規定されていた。アメリカ合衆国占領軍は日本占領直後から、戦争犯罪人には、捕虜を虐待したといった通常の戦争法規違反者と、戦争を国家の政策の手段とした者「政治的戦争犯罪人」の二種類があるとしており、それぞれに判定作業が行われていた。1945年(昭和20年)9月9日には第一号「政治的戦争犯罪人」として39名が指名され、指名を受けていた東條は、同月11日に逮捕される直前に自殺をはかっている。

日本は占領下にあったものの、ナチス政権瓦解により政府が機能しない状況下敗戦をむかえたドイツとは異なり、政府は存続し占領行政も日本政府を通じて行われていた。東條の自殺未遂は、当時の東久邇宮内閣にも衝撃を与え、戦争犯罪人の処置についての緊急閣議が開かれ、日本の事情をよく知らない相手に処置を委ねてしまう事は、勝者からの一方的な裁きとなる懸念があり、また日本側で処罰しておけば、その上に連合国側の裁判があっても過酷な量刑は避けられるのではという考えから自主裁判論が討議された。しかし、東久邇宮首相がこれを昭和天皇に報告すると、「敵側の所謂戦争犯罪人、殊に所謂責任者は何れも嘗ては只管忠誠を尽くしたる人々なるに、之を天皇の名に於いて処断するは不忍ところなる故、再考の余地はなきや」として一度は反対された。また、木戸孝一内大臣も自主裁判は国民裁判になるとして反対していたが、協議が重ねられ内閣側が国民裁判にはならないとして、天皇から自主裁判の許可を受けた。ただし、東久邇宮内閣が自主裁判の対象者としていたのは、主に捕虜虐待その他の通常の戦争犯罪人についてであった。

この頃、日本政府内部一部にある敗戦意識の欠如が、占領軍総司令部の中で問題視されはじめたとされており、 戦後政治として為すべき根本的改革に一向に踏み出せない東久邇宮首相は辞任。つづく幣原内閣は、戦争犯罪人の指名をうける可能性のある人物を排除する事を基本に、組閣に取り組んだ。だが、戦争責任を開戦の責任とだけ解釈したかのような組閣本部の見解は、日本を骨抜きにせんとするアメリカ占領軍総司令部に日本政府内の戦争犯罪への認識の大きなズレを再認識させる事となった。後に日本は自衛戦争を行なったと証言したマッカーサーの「すべてわれわれでやる。」の言葉通り、日本人による日本人の戦争犯罪を裁く自主裁判が実施される事はなく、日本にあって戦争犯罪を裁いたものは連合国(戦勝国)による極東国際軍事裁判であり、BC級戦犯を裁いた各国の軍事法廷のみであった。

この事が、ドイツにおける「裁いた罪」と日本における「裁かれた罪」といった、戦争犯罪への認識に格差を生じさせている一因と一部で言われている反面、民族抹殺計画を企てたナチスドイツとそのような犯罪を犯していない日本を同列で評価する一部勢力に対しての批判が多い。

戦争犯罪をいかに赦すか

日本には「勝者によって一方的に裁かれた裁判」という認識が根強くあり、研究者や思想家だけでなく、政治家の中にも個人的意見であるとしながら勝者による裁判は不当だという見解を示す者が少なくない。

問題点として「勝者が敗者を裁く構図であり『平和に対する罪』として起訴された者など、戦争の原因とされた者の主張は受け入れられにくい」といった点を指摘し、審理が一方的だったとする意見がある。

また、「戦勝国側の行為、特に アメリカ合衆国の広島長崎への原子爆弾投下は、非戦闘員への無差別殺害を意図したものだ」として、「第二次世界大戦における、ナチスのユダヤ人虐殺などと同じく国際法に違反するおそれが高い行為であり、b項の「戦争犯罪」として起訴されるに足る行為でありながら起訴されておらず、戦争犯罪を裁くための裁判であるなら、勝者の行為であっても公平に罪を問われるべきだ」という意見も多い。

その他にも、「平和に対する罪」「人道に対する罪」などは、日本とドイツを裁くために後付けで提唱されたものであるとして、法の不遡及罪刑法定主義が保証されず、法学的な根拠を持たないとする意見もある。

上官の命令に従っただけであるにも関わらず戦争犯罪人として起訴され、その主張が裁判官に理解されないまま、戦犯とされ処刑された苦しみと悲しみを描いた、『私は貝になりたい』などの作品に見られるように、戦争犯罪人に対して情状が理解されず酷薄な判決が出されていた事を、人間性の観点から問題視する意見も多い。

戦犯釈放を求める動き

1945年(昭和20年)の敗戦以降、日本人あるいは日本の軍人・軍属として5,423名が戦争犯罪人とされ、裁判開始後、刑務所や収容所が服役者で満杯になったことを背景に、1950年(昭和25年)3月GHQから「戦争犯罪人に対する恩典付与」として宣誓仮出所制度が設けられた。米国三人委員会とも略称される委員会が戦犯の刑期等個々の事情を検討、仮出所の諾否の勧告を行い、連合軍最高司令官がこれを決定するといったもので、この制度により早期に仮出所した者もいた。1952年(昭和27年)4月28日日本国との平和条約(サンフランシスコ講和条約)発効後は、アメリカ国務省に仮出所の勧告をする制度に改められたものの同委員会の活動は続いた。だが、距離の隔たりから講和条約発行前に比べ、後の方が戦犯釈放の機会が減るという事態となり、日本政府はアメリカ政府に対し、東京のアメリカ大使館に決定権を移転するよう再三要請した。

日本側には日本国との平和条約発効時に、戦勝国による東京裁判戦犯の全員釈放を期待する思いがあり釈放運動が活発化したが、当然ながら発行時には即実現はせず、その時点でシベリアに抑留されていた者等を除いて、日本の国内外には1,244名を越える多数の戦犯が服役したままだった。国の為に良かれと行動したA級戦犯、BC級戦犯は被害者でもあるとする国民意識から、1952年(昭和27年)6月、日本弁護士連合会が「戦犯の赦免勧告に関する意見書」を政府に提出したほか、戦争受刑者釈放を求めた署名運動もはじまり、国民運動として大きな広がりをみせ4千万人という署名を得た。

日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した1又は2以上の政府の決定及び日本国の勧告に基くの外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基くの外、行使することができない。

日本国との平和条約が発効し、日本国民の完全な主権が承認されたとは言え、上記の第11条の規定から、服役中の戦犯に対して日本が独自で釈放等を行う事はできず、仮出所といった便宜がはかれるのは、日本で服役している戦犯に対してのみであった。戦犯の釈放は、日本政府からそれを勧告し働きかける以外方法がなかった事から、日本政府は1952年(昭和27年)年8月にBC級戦犯服役に関わる関係各国に赦免の勧告を行い、同年11月に日本での立太子礼を理由にA級戦犯を含めた全員の赦免勧告を行ってる。国会として勧告を支援するべく決議を行うといった動きも活発化し、戦勝国によって裁かれた裁判だとして、早くから極東国際軍事裁判の否定とA級戦犯の名誉回復を掲げていた改進党(現自民党)や、被害者でもあるBC級戦犯という国民意識を背景にその釈放を掲げた社会党などが連携し、共産党や労農党が反対の立場を示したものの、戦犯の釈放や赦免を求める決議案は何れも国会において圧倒的多数で可決された。

だが、1952年(昭和27年)年8月と11月の日本からの赦免勧告を、関係各国がまとまって容れる事はなかった。戦犯全体としてではなく個々において事情を審理し、仮出所の適格性があれば仮出所を、仮出所の適格性の無い場合は赦免を、それができなければ減刑をしてほしいという勧告を出し、個々に釈放にこぎつけていったが、それにも関わらず戦後10年を過ぎた1955年(昭和30年)時点でも、国内外には1,000人を超える戦犯が拘留あるいは抑留されたままだった。

進展を見ない戦犯釈放の問題が大きく前進したのは、嘗てA級戦犯容疑者として巣鴨に拘留された経験のある、岸信介首相が1957年(昭和32年)6月にワシントンを訪問し、ダレス国務長官と「米国関係戦犯釈放に関する処置」について会談してからの事である。

  • (イ)A級については刑の軽減による刑期満了の措置で解決をはかること。
  • (ロ)BC級については日本政府が設置する調査会において、アメリカ側からイカンした裁判記録により再調査を行い、日本政府が赦免勧告を行えばアメリカはこれに従うこと。

上記2点が合意され、アメリカの他、イギリス・オーストラリア・オランダにより裁かれ、内地送還により巣鴨で拘留されていたBC級戦犯に対しても、各国が日米間の合意にならう姿勢を示したと思われる。

1957年(昭和32年)12月、アメリカ政府による裁判記録の提出が決定され、日本側は調査委員会を発足、翌1958年(昭和33年)初頭から活動を開始し、BC級戦犯に対して赦免勧告が提出され、アメリカ政府の承認を受け仮釈放が実施されていった。1958年(昭和33年)5月30日最後の服役者18名が仮釈放され、同年12月にはそれまで仮釈放だった48名が正式釈放となり、戦犯釈放問題は決着となった。また、BC級戦犯と異なりA級戦犯については減刑により刑期満了での出所であり、刑の執行からの解放を意味する「赦免」は行われていない。

「A級戦犯の名誉回復」

戦犯釈放を求める国民運動や戦犯の釈放や赦免がくり返し国会決議された事、1951年から戦犯に対しても公職追放の解除が進み、選挙権被選挙権等の公民権の回復、戦犯遺族救済のため戦犯刑死者を公務死と認定し、恩給法などの改正を経て、遺族や釈放された戦犯のうちの日本国籍の者に限り恩給を支給されるようになった事、あるいはA級戦犯として服役し、その後釈放された重光葵が鳩山内閣の副総理・外相となり、賀屋興宣は池田内閣の法相となるなど、嘗ての戦犯が政界に復帰できた事などを上げ、これらから戦犯は名誉回復されていると言われる。

こういった、すでに戦犯は赦されているとする意見や、靖国神社などが主張している戦勝国による極東国際軍事裁判そのものが不当であり、国内法上日本では戦争犯罪人はいないことから、「A級戦犯の名誉回復」及び日中戦争太平洋戦争自衛戦争の側面の大きい大東亜戦争であり侵略戦争と断じることのできない戦争あったとする主張の一環を成す。国際法学者で極東国際軍事裁判を正当とする学者は稀である。

ただ、日本政府は敢えて公式見解として戦犯の名誉回復を言及することはしておらず、2005年(平成17年)年6月2日の小泉首相の国会答弁でも「A級戦犯を戦争犯罪人とした東京裁判の判決を受諾したもの」という見解が示されている。また、戦犯刑死者の表記について一般には法務死とされる場合も多いが、A級戦犯と同じくこの用語が公文書に用いられた例は確認されていない。

その後、第3次小泉内閣下における民主党野田佳彦国会対策委員長の質問主意書に対して2005年10月25日に提出した答弁書において、政府は第二次大戦後極東国際軍事裁判所やその他の連合国戦争犯罪法廷が科した各級の罪により戦争犯罪人とされた(A級戦犯を含む)軍人、軍属らが死刑や禁固刑などを受けたことについて、「我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない」とした。また、戦犯の名誉回復については、「名誉」及び「回復」の内容が必ずしも明らかではないとして、判断を避けた。首相の靖国神社参拝に関しては、公式参拝であっても、「宗教上の目的によるものでないことが外観上も明らかである場合には、憲法20条3項の禁じる国の宗教的活動にあたらない」との見解を示した。

日本における国民意識

BC級戦犯は「戦争」のあるいは戦争指導者に踊らされた犠牲者であるとする意見から、極東国際軍事裁判を否定しA級戦犯まで自衛の為やむを得ず開戦に至らされた「戦争」犠牲者とする意見まで幅はあるものの、日本では「戦争犯罪」を一個人の責に帰さないという認知のある事が、ドイツとの大きな違いでもある。

一方、戦時下には報道されてこなかった各戦地での日本軍の行為とされる事例が極東国際軍事裁判において公表され、報道により広く国民の知るところとなり、また「平和に対する罪」として戦争を指導し行う事が罪と指摘された事は、降伏に至る過程での沖縄戦や原子爆弾などの一般市民への甚大な惨禍と相まって、戦後の日本人の心情に、もう戦争を望まないという厭戦意識を深く根付かせた。この厭戦意識から、戦争指導者の責を厳しく問う意見もある。一方、勝敗が明らかであった状況でのアメリカ軍の民間人に対する無差別殺戮に対して厳しく問う意見は意外と少ない。

だがこの厭戦意識は、「戦争」こそであるといった発想と同軸線上のものでもある事から、戦時中の日本軍の不法行為は戦場という異常な状態により行われたのであり、日本軍特有のものではなく、平時の殺人や強盗と言った通常の犯罪行為と残虐性は同一でありながら、事情が異なるのは言うまでもないが、いわば免罪意識の裏付けともなるもので、BC級戦犯はA級の指揮棒に踊らされたものだという考えにも見られるように、「戦争犯罪」の加害者でありながら被害者的側面でも理解されるなど、本来は戦争忌避の有益な意識ながら、戦場において個人が犯した「戦争犯罪」への認識を希薄化してしまう一助になっているなどという指摘もある。一方加害者でもあるが被害者でもあるとする事実の指摘も近年では多い。

日本では戦争放棄憲法にうたい、国として政府見解において戦争の惨禍をあるいは侵略戦争そのものを謝罪する事で、悪の根元としての「戦争」との決別を示すことで、既に裁かれた戦犯の個としての「戦争犯罪」を深く追求する必要性よりも将来を見据えた見解が多い。このため政府首脳や要人の発言や行動が、国として示している戦争への反省や謝罪に反して見える場合、その発言や行動の度事に「平和に対する罪」という「戦争犯罪」をどう自覚しているかについて、国内の左派勢力と軍備増強を図る中国や韓国などで論議をしばしば招く事を皮肉る指摘もある。

また「戦争」との決別意識は極東国際軍事裁判についての評価とは別に、積極的に国際刑事裁判所の設置を求める声ともなっている。

日本における補償

日本の戦争賠償と戦後補償を参照。

朝鮮人・台湾人の戦犯

終戦後には、当時日本国民であった朝鮮人台湾人の日本軍人・軍属もBC級戦犯として裁かれている。有名な例として比島捕虜収容所長を勤めその責任を問われてマニラで戦犯判決を受けて処刑された朝鮮人の陸軍中将であった洪思翊がいる。韓国併合以来、それまで徴兵の対象でなかった朝鮮人に対しては1938年から陸軍特別志願兵制度が、43年からは徴兵制が実施され、下級兵士としても日本軍に勤務するようになった。これらの朝鮮人兵士は南方戦線で捕虜収容所勤務に回されることが多く、死刑判決を受けて多数が処刑されている。台湾でも1942年から陸軍特別志願兵制度が、44年から徴兵制が実施されたが、台湾人の陸軍軍属董長雄はインドネシア憲兵隊通訳を勤め、戦後オランダ人捕虜虐待を理由に戦犯処刑されている。董長雄は遺書で自分の遺児が復興後の日本によって教育されることを熱望したが、日本の主権のない台湾で日本政府がその遺児に日本の義務教育を施し得るべくもなく願いは叶わなかった。


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