山陽電気鉄道270形電車

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山陽電気鉄道270形電車（さんようでんきてつどう270がたでんしゃ）は、過去に存在した山陽電気鉄道の通勤形電車。

陳腐化した100形の車体更新車として、1959年より1961年にかけて川崎車両（後の川崎重工業）で270～273・274～289の2グループ20両が建造された。当初は2両編成で特急から普通列車まで幅広く使用されたが、後年は250・820・850の各形式と組んで、あるいは同系車のみで、3両編成に再編の上、普通列車専用として使用された。

厳密には前世代モデルにあたる250形の一部をなす車両群であるが、本来の250形との形状・構造の差違が大きいため、便宜上270形と呼び習わされていた。

[編集] 概要

神戸姫路電気鉄道1形の機器流用車として誕生した、旧兵庫電軌・旧神姫電鉄線直通用複電圧車の51形をルーツとする、14m級狭幅車体（車体幅2.4m）の100形及び1000形は、第二次世界大戦後、運輸省から割り当てを受けて広幅車体（車体幅2.8m）の800形（後の700形）が入線する際にホーム幅が削られて車両限界が拡大した結果、他の在来車同様に張り出し式ステップの取付が実施されて乗降に不具合が見られるようになった。

このため、820・850形の増備が一段落した1951年から、850形に準じた車体幅2.8mの広幅ながら、台車の荷重制限の都合で車体長を15m級に短縮した車体を新造し、これと100形の車体を載せ替える工事が開始された。

250形と呼称されたこの車体更新車は、1951年から1954年の間に3回に分けて計8両が建造されたが、その間の急激な技術の進歩と乗客増によって毎回仕様が変更され、最後の第3次車（256-257）では850形と同等の17m車にスケールアップされるに至った。ところが、1955年に建造が計画された第4次車は、台枠の仕掛かり段階で予算が新型のWNドライブ搭載車である2000系第1編成に振り向けられたため、急遽工事が中止され、以後しばらくは老朽化した100・1000形がそのまま継続使用されることになった。

だが、特急車として2000系が増備される過程で、戦災復旧車を含んでいた100・1000形の著しい老朽化と、収容力及び乗降の安全性の不足、それに2000系との接客設備の極端な格差が問題点として指摘されるようになった。このため、再度100・1000形の車体更新が計画され、これらの電装品の一部を流用しつつ、2000系第3次車の車体をベースに新規設計された17m級広幅軽量車体と組み合わせることで、本形式が誕生した。

第1次車（270～273：1959年）、第2次車（274～283：1960・1961年）、第3次車（284～289：1961年）の3回に分けて更新工事が実施され、形状から第1次車と第2・3次車の2グループに大別される。

[編集] 車体

上述の通り、2000系第3次車の設計を基本とする準張殻構造の車体幅2.8m・車体長17m級の軽量全金属車体である。

但し、固定編成の特急車である2000系とは異なり、1両単位の増結が考慮され、800mm幅の狭幅貫通路が前後に設置された。

座席はロングシートとされたが、特急運用への充当を意識し、長時間の着席でも疲れずグレード感を演出できるよう、ソファの掛け心地を意識し奥行きを510mmとした低座面仕様となっており、座り心地は同時代の関西私鉄の車両中でも良好な部類に入った。またその後の各形式における座席設計の基礎となっており、現在の5000系列まで低座面設計は引き継がれている。

第1次車である270～273は客用扉幅が2000系に準じて設計されたため、窓配置がd1（1）D8D（1）2（d：乗務員扉、D：客用扉。Dに隣接する（1）が戸袋窓）であったが、274以降はラッシュ時対策として客用扉幅が拡大されたために扉間の窓が1枚削られてd1(1)D7D(1)2となり、窓そのものも換気改善を目的として上段下降、下段上昇式に変更された。

また、第2・3次車ではパンタグラフの取付位置が変更された。

第1次車では250形までに準じて各車の運転台寄りにパンタグラフが設置され、高圧引き通し管を屋根のほぼ全長に渡って設置し、連結面で床下に引き込まれていた。これに対し、第2次車では容量増が図られたこの高圧引き通し管が屋根上の美観を損ねるとして、パンタグラフが連結面寄りに移設され、続く第3次車でもこの配置が踏襲された。

第2・3次車のレイアウトの場合、同型車を背中合わせにして2両編成を組むとパンタグラフが隣接するため、架線の押し上げ力が過大になる恐れがあったが、本形式は基本的に普通列車用であって高速運転に供されなかったためか、最後までその配置のまま使用されていた。もっとも、特急運用に充当される事があった初期には、片方のパンタグラフを下ろして運用される姿も記録されており、やはり高速運転時には不都合があったことを窺わせている。

設計段階でほぼ完成の域にあったためか建造後の車体改造はほとんど無く、後年の改造は、前面貫通扉への種別・方向幕の設置と、列車無線及びATS導入に伴う保安機器の追加搭載、それに前照灯の白熱灯1灯からシールドビーム2灯（白熱灯時代のライトケースが流用され、俗に言う「豚の鼻」状の反射板に嵌めて装着された）への変更が実施された程度に留まっている。

[編集] 電装品・台車

主電動機は100形よりの流用品である芝浦SE-107を整備・改造^[1]の上で再用した。これに対し、制御器は種車の芝浦RPC-101の老朽化が著しかったため、これに代えて国鉄制式のCS-5・10が搭載^[2]された。なお、再用されなかったRPC-101はその後、旧兵庫電軌由来のK38形直接制御器を改造した、特殊な間接式制御器を備えていた200形前期車の更新時に、一部が流用されている。

また、台車は種車同様にボールドウィン系のBW-6（第1次車）・-6A（第2・3次車）釣合梁式形鋼組み立て台車を装着するが、これは100形より重く長い車体を支える必要から、川崎車両で新たに製作されたものである。この台車は時期的に日本国内向け新製釣合梁式台車の最終世代に当たり、枕バネのコイルバネ化とオイルダンパ装備（BW-6Aのみ）、それにホイルベースの拡大（1981mm→2200mm）で、オリジナルと比較して乗り心地が改善されていた。

本形式で特筆すべき事柄の1つに、1972年に富士電機の手で開発され、281で長期実用試験が実施された、抵抗制御チョッパ制御器の搭載がある。この制御システムそのものは量産に至らなかったが、空前絶後^[3]の吊り掛け駆動方式チョッパ制御車となった281自体は、そのまま廃車までこの制御器を使用し続けており、メンテナンス性は良好であったことが窺える。

なお、山陽電気鉄道ではこれ以外にチョッパ制御は採用されず、抵抗制御から5000系の界磁添加励磁制御を経て、5030系でVVVF制御へ移行している。

[編集] 運用

普通列車用として計画されたが、ラッシュ時の混雑の激化で特急列車にクロスシート車の充当が困難となったため、本形式が特急列車に充当されるようになり、この運行形態は3000系が出揃う神戸高速鉄道開業前後まで続いた。

以後は普通列車専用として、250・820・850形の2両編成に本形式の2次車以降を1両増結する、あるいは第1次車を含む本形式の基本2連に1両増結する、といった形で3両編成を組んで、本線及び網干線で長く運用された。

もっとも、車体と電装品の老朽化が進んだ事から、まず第1次車4両が3050系の増備で1983年までに廃車され、第2・3次車16両については1983年の850形全廃後に編成の組み替えを実施した。この際、同型車で3連を組む都合上余剰となった288は予備車扱いとなった後、1985年に廃車された。残る15両についても、翌1986年の5000系第1次車投入で全車が淘汰された。

その全廃に当たり、団体専用列車扱いでさよなら運転が実施されたが、これまで営業運転では例の無い、同型車による5両編成を組んで運行され、注目を集めた。

廃車後、一部は東二見工場に残存していたが、最終的に全車解体処分された。このため、吊り掛け式駆動の旧型車としては比較的遅くまで現存していたにもかかわらず、保存車は存在しない。

[編集] 脚注

↑ 山陽における公称性能は端子電圧750V時定格出力52kW/780rpm。耐久性向上を目的に、電機子軸を軸受部分の構造が許す最大径の物に交換されており、弱め界磁使用による連続高速運転にも良く耐えた。なお、SE-107はゼネラル・エレクトリック社製GE-263のスケッチ生産品であり、神姫1形にこの電動機が搭載されていたことから、宇治電51形（追加新造分）以降には国産のこちらが採用されたものである。
↑ 前者は800（700）形用の予備部品、後者は新品で、CS-5装備車は第2次車の後半（278～283）に集中していた。いずれも弱め界磁が機能するよう結線されており、特急運用時にはその機能がフル活用された。
↑ 機関車では国鉄EF67形電気機関車が吊り掛け式主電動機＋電機子チョッパ制御という組み合わせであるが、営業運転に供された電車では日本唯一である。