方向幕
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方向幕(ほうこうまく)とは、鉄道の列車やバス等の向かう方向や行き先や路線名などを明示するための装置または装備(主に幕によるもの)を指す。正面や側面につけられることが多い(バスでは最後尾に付くこともある)。板でできたものを中心にサボ(サイドボードの略)とも言われる。最近はLEDやオーロラビジョンRによるものもあり、都市部では次第に取って代わっている。行き先を表示するものは「行先字幕」や「行先表示幕」ともいう。
なお、鉄道車両の場合には種別用の装置である「種別幕」、バスの場合には系統番号などの運転系統や経由地などを表示するための「系統幕」を持つ車両もある。 列車では種別幕に行き先・方向幕に種別を表示したり、バスでは系統幕に種別を表示するなど当初の使い方と異なる使い方をすることもある。
鉄道の日や車両基地などのイベントで廃品として売られることが多く、その場合は短時間で完売になることも多い人気商品であるが、近年ではネットオークションや交通機関の古物商などでの転売あるいは保有目的の盗難が多発し問題視されている。
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[編集] 鉄道
[編集] 字幕
字幕・方向幕の変更は乗務員の手によって行われる。また運転業務で使用される指示書関連に方向幕関連の取り扱い(字幕に設定のない行先で運転する場合などに多い)が記載されることもある。
[編集] 表示の例
- 終着駅を表示(鉄道ではほとんどこれ)・・・A
- 中には両端の終着駅をしめすものがある(幕回転の手間を省きたいとき〔短距離を往復し続ける列車や手巻きの幕を装備した列車など〕や幕のコマ数を節約したいとき〔初期の電動幕や手巻きの幕を装備した列車など〕に装備される)・・・A1
- 種別および終着駅を表示するものもある・・・A2
- 主に優等列車であることを示すために使われる・・・A2-1
- 乗り間違えを防ぐため一部各駅停車でも表示する場合がある・・・A2-2
- 乗り間違えを防ぐため経由地または路線名および終着駅を表示することもある・・・A3
- 乗り間違えが多い路線の優等列車など、種別、経由地または路線名、終着駅と3つを表示することもある・・・A4
- 幕のコマ数の都合上などの理由で、終着駅を書かず、複数の終着駅でも同じ幕で使用できる場合(例:山陽電気鉄道3000系にみられる、「普通阪急方面」)・・・A5
- 種別のみを表示---B
- 正面の幕がこれである車両は多い(正面の幕が手巻きであるという伝統の名残)。
- 側面にも普通・快速・回送・臨時・試運転など種別のみのコマがあることは多い(営業列車でないときや装備していない行き先の列車として走っているときに表示する)。
- 誤乗防止のため、JR西日本などのように、色で種別を分けたり(例:快速→オレンジ)、走る路線のラインカラーを加えている例もある。また、以前東急大井町線では、二子玉川園駅の到着ホームに応じて、黄緑(田園都市線と同一のホームに到着)・黒(新玉川線と同一のホームに到着)と地の色を変えていたこともある。
路面電車などでは、最終便となる場合には幕を照らすライトを赤くしたり、その1本前の便のライトを緑色にすることもある。また、ライトを変える代わりに方向幕の地の色を変えている所もある。
- 路線名のみを表示---C
なお、一部の路線では方向幕に記載の駅まで優等運転をしその駅から各駅停車に変わる場合など、終着駅のかわりに運転系統の変わる駅などが記載されていることがある。
[編集] 方向幕の回転の方法
列車が折返し運転などで行き先を変えたりするときどのように方向幕の表示を新しい行き先にする方法は、以下のようになる。
- 手巻きの幕の場合、乗務員がハンドルを回して回転させる。
- 現在運用中の車両のうち新造されたものではJR701系0番台の種別表示、121系の前面行先表示及び譲渡・購入されたものでは秩父鉄道1000形電車などがこれにあたる。
- 電動幕を装備する車両の場合、その編成中のすべての字幕表示機をつかさどることの出来る指令機というものが乗務員室に装備されている。駅名対照表という、行き先からあわせる番号が一目でわかる表を見て、乗務員は指令機のダイヤルを望む行き先の番号にあわせ、伝令を全字幕表示機に送り行き先を表示するのである。
- 電動幕でも車両によって回り方が分かれる大別すると次の二つに分かれる。
[編集] バス
正面より側面の方が書かれる経由地が多いことが多い。
- 終点のみを表示・・・A
- 系統番号などが付加されていないか表示する必要のない路線の経由地を明記する必要のないもの
- 経由地と終点のみを表示・・・B
- 系統番号などが付加されていないか表示する必要のない路線の経由地を明記する必要のあるもの
- 系統番号などと終点のみを表示・・・C
- 系統番号などが付加されている路線で経由地を明記する必要のないもの
- 系統番号などと・経由地・終点を表示・・・D
- 一般に上に該当しないもの
系統番号のみもしくは系統番号及び経由地などを方向幕とは別の幕に記載することもある。
このほかに、多くのバスに「回送」もしくは「回送車」のいずれかの幕がある。また、一部のバスにはバスジャック対策として「緊急事態発生」などの幕がある。 都営バスなどでは、幕を照らすランプの色を変えて最終の1本前(緑色)・最終(赤色)を示しているところがある(LEDに取り替えられた路線では端のLEDの点灯色を赤や緑としてしめしている)。
LED式の場合、表示の変更が容易なため、走行中に途中経由地の表示を変えることができる。 また、幕式のものと違って物理的な限界がないため、コマ数を増やすことも可能である。 これを利用して鹿児島市交通局の回送バスは、正月三が日には前面の回送の下に小さく-謹賀新年-、側面には前面と同様に-謹賀新年-と表示し、その下には右から順に、明けまして,おめでとう,ございます,<交通局>と表示している。
また、行き先となる駅が何線の駅であるかとか、この路線が駅から見てどの方向に向かうのかとかの情報を方向幕の地の色によって示している路線もある。
路線バス後部の方向幕は、北海道では装備していない事業者が多い。特に道央圏で顕著と言われ、交通バリアフリー法が施行される2002年以前に導入された路線バス車両は9割以上が非装備となっている。なお、現在はじょうてつバスでは1997~2000年に自社発注で導入、及び札幌市営バスから引き継いだ同時期のバス車両には、方向幕のLED化と並行して後部に方向幕が装備されるようになった。
この他に、かっては名古屋鉄道が昭和50年代(おおむねディーゼル車の排気ガス規制がK-(昭和55年規制)の適用を受けていた時期まで)に導入していた路線車両でも、後部方向幕を装備していない車両が多かった。また、遠州鉄道も交通バリアフリー法が施行されるまでの導入車では、後部方向幕を装備していなかった。
特殊な例として、熊本バスの車両の後方方向幕のほとんどは「熊本バス」「回送」「臨時」しか表示しない。
[編集] ヘッドマーク
ヘッドマークとは、鉄道車両やバス等で、その車両または、列車・系統番号等を示すために先頭部・後尾部・車体側面に取り付ける板ないしはそれを表示する方向幕のこと。とりわけ、板状のものを愛称板(あいしょうばん)とも称される。また、後尾部に取り付けられているものをテールマークともいう。先頭部に付けられた、板状で主に目的地を記したものは、鉄道ファンの間で俗に前サボとされ珍重される。意味としては「前サインボード」。
一般には、列車名・種別等を告知するために使用されるが、新幹線車両など例外的に前面部に技術的に取り付け不可能な場合や、一部の鉄道車両のように不要なケースなどもある。
日本では鉄道車両とりわけ特別急行列車に使用される列車愛称とそれにちなんだ絵柄を用いたものが広く知られている。
通常運用以外にも、イベント列車、記念列車、あるいは車両の引退間際や車体広告などにも特製のヘッドマークがつけられることがある。かつては標準だった鉄板製はコストがかかるため近年はシールも多い。期間限定のため、このヘッドマークの有無が、列車の写真の価値を左右することがある。ただし、最近は盗難や写真撮影を巡ってのトラブルが多いため、JR東日本千葉支社のように特急列車以外でのマークの貼り付けを一切しないところも多い。同支社の管内となる千葉県では県の屋外広告条例でヘッドマーク自体が規制されている事も関連しているが、1999年11月23日に下総中山駅で団体列車として運転された総武快速線の113系(さよなら運転)を撮ろうとしてカメラマンが線路に降り、それが原因で総武線各駅停車がストップした事件以降、イベントとして一切しなくなった。
上記の中で、「千葉県では屋外広告条例に抵触する」とは、多くの場合ヘッドマークも「広告物」として扱われるためで、最近は以前のようにマークを付けることが少なくなってきた理由の中に、「トラブル防止」以上に、この屋外広告条例による規制が大きくなってきたのも影響している。
このヘッドマークの装着なども乗務員か行うことが多い。このためヘッドマークの取り扱いも運転業務に関係している場合もある。その為、1970年代には特別急行列車で定期客車列車が寝台列車(つまり、ブルートレイン)による運行のみとなったことにより、牽引機関車にこれを設置しないで運行される事例が多く見られることがあった。これは、当時の労使関係によるところが大きいとされているが、この当時でも例外的に東京駅発着で東海道・山陽本線経由の列車(いわゆる、九州ブルトレ群)については設置されていた事例が多い。
[編集] 関連項目
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