客車
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客車(きゃくしゃ)とは、鉄道において旅客を輸送するために用いられる車両を指す呼称である。おもに旅客を輸送する車両を指すが、手荷物・小荷物や郵便物を輸送する車両も客車に含まれる。貨物を運ぶ車両は貨車といい、客車とは区別される。ドアステップがついていることが多い。
狭義では、機関車などにより牽引される無動力の車両を指す。電車や気動車とは区別される。本稿では狭義の客車について記す。また、これ以降、特記ない場合は日本の客車について記す。
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[編集] 狭義の客車の車種
以下の車種がある(現存しないものもある)。
用途記号は日本国有鉄道(国鉄)で使われたものだが、今日のJRグループにも承継されているほか、私鉄でも多く使われている。
なお、座席車、寝台車については、現在用いられている記号を記す。過去の等級制度における記号は後述する。
- 営業用車
- 座席車(ざせきしゃ)
- グリーン車(グリーンしゃ) - 用途記号「ロ」。記号の由来は「イロハ」の「ロ」
- 普通車(ふつうしゃ) - 用途記号「ハ」。記号の由来は「イロハ」の「ハ」
- 展望車(てんぼうしゃ) - 用途記号「テ」(展望車には客室がついているので「ロ」、「ハ」と組み合わせて使う)。記号の由来は「展望」の「テ」
- グリーン客室のついた展望車 - 「ロテ」、「イテ」(現在はマイテ49 2のみ)
- 普通客室のついた展望車 - 「ハテ」
- お座敷列車など団体専用列車用の、いわゆる「ジョイフルトレイン」 - 用途記号は多くが「ロ」(グリーン車扱い)
- 皇室用 - 記号は付さず、番号のみ。御料車(ごりょうしゃ)と供奉車(ぐぶしゃ)がある。
- 寝台車(しんだいしゃ) - 用途記号「ネ」(かならず「ロ」、「ハ」と組み合わせて使う)。記号の由来は「寝る」の「ネ」
- A寝台車(エーしんだいしゃ) - 「ロネ」
- B寝台車 (ビーしんだいしゃ)- 「ハネ」
- 食堂車(しょくどうしゃ)(ビュッフェを含む) - 用途記号「シ」。記号の由来は「食堂」の「シ」
- 郵便車(ゆうびんしゃ) - 用途記号「ユ」。記号の由来は「郵便」の「ユ」
- 荷物車(にもつしゃ) - 用途記号「ニ」。記号の由来は「荷物」の「ニ」
- 暖房車(だんぼうしゃ) - 用途記号「ヌ」。暖房用のボイラーを有し、1960年代まで冬場に電化区間の客車編成の列車に暖房用の蒸気を供給していた。記号の由来は「ぬくい」の「ヌ」
- 座席車(ざせきしゃ)
- 事業用車(じぎょうようしゃ)
- 合造車(ごうぞうしゃ)(複数の別々の用途を持つ部屋を備えた車両)
- 該当する記号を組み合わせる。ただし記号を並べる順番は決まっている。以下に例を記す。
- グリーン客室と普通客室 - 「ロハ」
- A寝台室とB寝台室 - 「ロハネ」(「ロネハネ」ではない)
- 普通客室と食堂、またはビュッフェ - 「ハシ」
- 普通客室と荷物室 - 「ハニ」
- 普通客室と郵便室 - 「ハユ」
- 郵便室と荷物室 - 「ユニ」
- 普通客室・郵便室・荷物室 - 「ハユニ」
- 該当する記号を組み合わせる。ただし記号を並べる順番は決まっている。以下に例を記す。
- 緩急車(かんきゅうしゃ)(車掌室または手ブレーキを備えた車両)
- 記号の最後に「フ」をつける。ただし、「ユ」、「ニ」、「テ」には(かならず車掌室または手ブレーキがついているので)「フ」はつけない(「テ」については、JR化後に例外が生じている)。記号の由来は「ブレーキ」の「フ」
- グリーン車の緩急車 - 「ロフ」
- 普通車の緩急車 - 「ハフ」
- 寝台車 -「ロネフ」、「ハネフ」
- 記号の最後に「フ」をつける。ただし、「ユ」、「ニ」、「テ」には(かならず車掌室または手ブレーキがついているので)「フ」はつけない(「テ」については、JR化後に例外が生じている)。記号の由来は「ブレーキ」の「フ」
日本での形式表記は、重量を表すカタカナ一文字+用途を表すカタカナ一文字以上に、系列番号と車番を加えたものである。
[編集] 特徴
[編集] 長所
- 電車や気動車に比べ製作・保守コストが低い。
- 機関車の付け替えだけで電化区間(交流・直流、周波数、電圧などの違い)・未電化区間を直通できる。
- モーターやエンジン(一部電源車除く)がないため、騒音、振動が少ない。
- 組成時の制限が少ない。
- 最小1両単位での客車の編成が可能。
[編集] 短所
- 運転時分の短縮が難しい。
- 折り返し時分の短縮が難しい。
- 常に機関車を先頭にする必要があり、終着駅での付け替えを要する。特に、2列車を1列車に併合する場合は、駅構内での入れ替えが必要となり、時間がかかる。
ただし、海外(特に欧州・北米)の近距離列車などでは、一端に機関車を固定し、他端の客車に設けられた運転台から制御できる=機関車を最後部にした推進運転ができる=ものが多く見られる。特に欧州の車両は、日本や北米と連結器が異なるため推進運転に適し、乗り心地、速度とも他の動力方式と比べ遜色は無い。2列車を併結することもあり、その場合は、機関車+客車+機関車+客車のような編成となり、乗客の通り抜けはできない。また、機関車にも客室(1、2等合造の場合もある)を持つものがある。
- 常に機関車を先頭にする必要があり、終着駅での付け替えを要する。特に、2列車を1列車に併合する場合は、駅構内での入れ替えが必要となり、時間がかかる。
- ワンマン運転ができない。
- 重量や軸重の不均衡が大きい。
- 機関車の重量によっては、軌道や橋梁の強化が必要になる場合がある。
- 機関車の分だけ編成長が長くなる。
[編集] 現状
日本では、客車による定期旅客列車は1990年代以降、少数の寝台列車(夜行列車)を除き、電車や気動車に置き換えられて姿を消した。2005年現在で定期列車として使われる寝台車以外に残っているものは、一部の宗教団体(天理教、金光教など)関連や、旧盆・年末年始といったピーク時、蒸気機関車の運転といったイベント時に運転する臨時列車(波動輸送)用に少数の車両が残るのみであり、これについても電車などへの置き換えが進められて、運行本数を減らしている。
また、寝台車を始め現存する客車についても、「カシオペア」に使用されているE26系客車(1999年製造)を除いては、製作後30年以上経過しており、老朽化が始まっているために、削減の方向にある。
一方、欧米では大都市近郊の地下鉄や通勤路線以外は、ほとんど客車列車で運行されている。
[編集] 客車の等級
個々の客車の車内設備、サービスに応じ、同一列車でも乗車料金に格差を設けることが一般的に行われている。
古くは三段階(3等級制)に区別した(発展途上国等では4等級制も見られた)が、現在は二段階(2等級制)とする鉄道が世界の大勢である。
日本の国有鉄道等でもかつては3等級制(一等車「イ」・二等車「ロ」・三等車「ハ」)を用いたが、1960年に2等級制(一等車「ロ」・二等車「ハ」)へ移行した。さらに1969年にはモノクラス制を採用し、一等車をグリーン車、二等車を普通車にそれぞれ移行させた。
[編集] 旧等級制で見られた車両表記例
- 展望車
- 一等展望車 - 「イテ」
- 座席車
- 一等座席車 - 等級記号「イ」
- 寝台車
- 一等寝台車 - 「イネ」
- 合造車
- 合造寝台車の場合。「ネ」の前の等級記号すべてが寝台客室、「ネ」以降が座席客室となる。
- 一・二等寝台車 - 「イロネ」
- 一等寝台・一等座席車 - 「イネイ」
- 一等寝台・二等座席車 - 「イネロ」
- 二等寝台・二等座席車 - 「ロネロ」
- 二等座席・食堂車 - 「ロシ」
- 三等座席・食堂車 - 「ハシ」
- 緩急車
- 「フ」がつけられるのは座席車と寝台車、及びそれらの合造車のみ。展望車、荷物車、郵便車、事業用車には付かない。
- 一等座席緩急車 - 「イフ」
- 一・二等座席緩急車 - 「イロフ」
- 一等寝台緩急車 -「イネフ」
- 合造緩急車
- 一・二等座席緩急車 - 「イロフ」
- 一・二等寝台緩急車 - 「イロネフ」
- 一等寝台・二等座席緩急車 - 「イネロフ」
上記のように、同一車両に普通車室とグリーン車室(二等室と一等室)、あるいは郵便室・荷物室を混在させるケースも見られる。これを合造車と称する。
[編集] 客車の重量記号
客車は機関車に牽引されることから、運用する際には常に重量を配慮する必要がある。従ってその形式記号の最初に重量記号が含まれている。
ここでの「自重」とは、客車自体の重量に、定員分の乗客または規定積載量の荷物・郵便物の重量を加えたものを言う。従って、荷物車等には積載量を減らして重量クラスを落とす措置をしたものも存在する。
以下に旧日本国有鉄道およびJRグループでの客車重量記号を示す(多くは私鉄でも準用された)。重量記号には各クラス毎に語源がある。
[編集] 記号なし
二軸の四輪客車と三軸の六輪客車。単に「ハ499」「ロ4820」(いずれも実在車号)と等級記号だけで表記する。該当車は大正時代以前の木造車のみであったが、2001年に至ってワム80000形貨車改造のハテ8000形(8001)がJR北海道に登場し、このクラス唯一の現存例となっている。
これより上のクラスはボギー車となる。
[編集] コ級
コ=22.5t未満。「小型(こがた)」の略とされる。 明治時代のボギー客車に多く見られた。JR化後も1両だけ車籍を有していたのが新幹線車両輸送限界測定用の試験車、コヤ90 1(1961年にオロ31 104の車体を撤去して測定用の鉄骨を設置。1990年3月1日廃車)である。
[編集] ホ級
ホ=22.5~27.5t未満。「ボギー車→ボ→ホ」が語源という説と、「本型→ホンガタ→ホ」が語源という説がある。実際には「コ」級もボギー車である。明治末期~大正初期の二・三等用木造二軸ボギー客車である「中型基本客車」(ホハ12000形等)が代表的な例。
コ・ホ級は現存しない。
[編集] ナ級
ナ=27.5~32.5t未満。「中型→ナカガタ→ナ」、もしくは「並形→ナミガタ→ナ」が語源とされる。二軸ボギー車と三軸ボギー車とがあった時代に中型とされた二軸ボギー車が当初該当したと言われるが、後には軽量車両の記号となった。
大正中期の木造二軸ボギー客車である「大型基本客車」(ナハ22000形等)や戦後の軽量客車ナハ10系、特急用の20系が代表例。
ただし、20系は1970年代以降の改装で実際の車重が「オ」級に増大してしまったが、表向きの形式である「ナ」は変えず、識別符号(丸印)を付けるだけでそのまま済ませた。
ナ級はJR化後もナハフ11形(2021・2022)が車籍を有して残存していたが、1995年(平成7年)に廃車となり一度消滅した。しかし、4年後の1999年(平成11年)、JR北海道釧路運輸車両所に、イベント用としてワキ10000形から改造された「バーベキューカー」・ナハ29000形が出現したことにより復活した。
[編集] オ級
オ=32.5~37.5t未満。「大型→オオガタ→オ」が語源とされる。当初は木造三軸ボギー車が「大型車」として該当した(例・1912年に製作された木造展望車オテン9020形など)。昭和時代に入り鋼製車体が普及すると通常型の二軸ボギー客車が該当するクラスとなった。
12系・14系・24系・50系など、1970年代以降に製造された国鉄客車の多くはこのクラスに該当する。
[編集] ス級
ス=37.5~42.5t未満。「鋼鉄車→スチールカー→ス」が語源とされるが、「凄く大きい→ス」とする説もある。1927年以降鋼製車体の客車が登場したが、三軸ボギー車については重量が著しく増大したことからこのクラスとなった。二軸ボギー車でもスハ32形やスハ43形、スロ60形などかなり多数の形式が該当している。
戦後に軽量構造が一般化した後は、12系・14系の電源エンジン搭載車や24系の改造形個室寝台車などに該当車がある。寝台特急「カシオペア」用の二階建て客車E26系もほとんどがこのクラス。
[編集] マ級
マ=42.5~47.5t未満。語源は英語のMaximum(極大)から「マキシマム→マ」であるという説が有力である。「ますます大きい→マ」「まことに大きい→マ」という説もある。
昭和初期の鋼製三軸ボギー客車の中でも、一部の優等車と重量荷物車が該当。戦後は「ス」級展望車・優等寝台車の冷房化改造で重量が増加し、「マ」級が増えた。また、荷物車についても満載状態だと「マ」級に該当するものが多かった。
現在は24系の電源車や、事業用車両代用の元荷物車等の例外が少数在籍するに留まる。特殊な例としてJR西日本が保有するマイテ49形展望車がある。
[編集] カ級
カ=47.5t以上。語源は、並外れて大きいという意味の「濶大(かつだい)」から「カツダイ→カ」。
電気レンジを試験搭載した食堂車のカシ36形(1951年)や、改造試作荷物車のカニ38形(1959年)など、初期には特殊例があるのみである。
このクラスの多数形式としては、20系・24系等の電源荷物車が挙げられる。
中でも異例の重量車は20系のカニ22形である。本来のディーゼル発電機以外に、直流電化区間で発電するための電動発電機とパンタグラフを搭載、荷物満載時の車重は約60tに達した。この場合、軸重は機関車並みの15tで、主要幹線でしか走行できなかった。運用上不便なため、後に電動発電機とパンタグラフは撤去されている。
なお、E26系のカハフE26は、2階建て構造の1階を電源室としているため重量50.2tであるが、ラウンジカーのため普通車扱いとなり、普通車扱いの客車としては最も重い車両となった。
また、1987年にオリエント急行の客車が台車を履き替えた上でJR線上を走行した際、仮の形式称号が与えられたが、重量記号はいずれも「カ」級であった。