便所
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便所(べんじょ、英Toilet)とは、大小便など排泄の用を足すするための設備を備えている場所。様々な呼称がある。呼称に関しては後述の呼称についてを参照されたし。
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[編集] 概要
[編集] 便所の設備
この施設は、悪臭を放ち周辺の環境を汚損するおそれのある汚物(主に糞・尿・吐瀉物)を衛生的に処分するための機能を持っている。近年の文明社会の多くでは、これら施設の多くは水洗(水の流れる力を用いて、強制的に汚物を流し去る)の物が見られるが、宇宙船の中では乾燥させたりするものもあり、1970年の大阪万博ではガスによる燃焼方式も見られるなど、衛生的に処理できれば、特にその方法は問わない。乾燥地帯では砂を掛けて糞便を乾燥させて処分する様式も見られる。(水洗便器の詳細は便器が詳しい)
便所内は臭気が発生するため、換気扇や換気筒などの換気設備を使い、他の室よりも負圧になるように工夫されている。また、便所の壁にはトイレットペーパーを掛けるペーパーホルダーのほか、タオル掛け、手摺など設置されることもある。
気候・風土・生活習慣によって、求められる機能も様々であるため、世界各地には様々な便所が存在する。(→スカトロジー)
[編集] 汚物の処理
これらでは放置すれば病原菌や不快害虫の発生源となりやすい汚物を衛生的に処理するため、様々な工夫が凝らされる。特に船舶や鉄道の列車内・航空機内等の長時間の移動を行う交通機関では、乗っている乗客の排泄に供するため、各々に工夫された便所があるのが通例である。(後述)
これによって処分される汚物であるが、古くは河川にそのまま流される様式が多かった。しかし都市部では、人口の集中によって汚物が自然の浄化能力を超えて発生する事から、水質汚染(富栄養化)を発生させる。このため便所は下水道に接続され、各々の家庭・施設に備えられた便所から排出された汚物を汚水として一括処理する社会インフラも必要となる。
[編集] 呼称について
あからさまに口にすることが「はばかられる」ために、日本語においては、古くは「はばかり」や「雪隠(せっちん)」「厠(かわや)」「手水(ちょうず)*」、昭和以降は「お手洗い」「化粧室」「ご不浄」と言い替えたり、外国語(あるいは和製英語)を使い「トイレ」「W.C」「LAVATORY」などと表記したり、男女を示すピクトグラムのみで表したりすることが多い。
現在では、単に「トイレ」といわれることが多い。
英語でも、「トイレ」という表記の元になる「トイレット」 (toilet) 自体が「化粧室」を意味しているほか、住居では隣に設置されることが多い風呂と合わせて「bathroom」と呼んだり、公衆便所を本来「休憩室」を意味する「rest room」と呼んだりすることなどがある。
女性トイレを丁寧語を用いて「御婦人室」と明記した場合、中国語では「御 二(スル)婦人一(ヲ) 室」(すなわち女性を犯す部屋)という意味になってしまう。
[編集] 便所の様式と設備
- 和式トイレ - 床にしゃがみこむタイプ、トルコ式ともいう
- 洋式トイレ - 椅子に腰掛けるタイプ
便所には、便器が設置されている場所と、手洗いのための場所が併設されていることが普通である。男性の場合、大便用の個室と小便器が壁にそって並べられている。男性用の場合、便所によっては壁から水が流れているだけで小便器が設置されていない便所もある。大便器は和式、洋式が併設されている施設もあり、1990年代以降は、バリアフリーの観点から、障害者や乳児のおむつ交換などへの対応を兼ねた、広い面積の個室が設けられる場合が多い。
女性用の個室では、用便時の音を隠すために洗浄水を流すことが多く、水の使用量が必要以上に多くなってしまうために、洗浄水を流す擬音を発生する装置が取り付けられていることもある。
なお、トイレ(便器)にもJIS規格によりその大きさ(長さ、深さ、幅など)が定められているがかなり前に設定された大きさであるため現在の日本人の体格からして以下に示すような問題がある。
和式トイレ 長さが短く性器が金隠しに当たらないようにしゃがむと糞が便器の後ろあるいは便器に落ちてしまう。 また金隠しの高さが低すぎるため女性が使用すると尿が金隠しに当たることがある。
洋式トイレ これも長さが短く陰茎の大きい男性が使うと陰茎が便器全体に当たる(先割れ便座の場合や丸便座の場合便座に陰茎が当たる)非常に不衛生で性病に感染する危険がある。最近は温水洗浄便座が普及し丸便座のため余計不衛生になりつつある。
こういったJIS規格の問題から鉄道車両のトイレでは独自規格の長いタイプの便器が使われることがある。
欧米や、日本でもホテルの客室にある場合は、同一空間に便器と洗面台、シャワーを持った浴槽(バスタブ)が設置されていることが多い。これを三点ユニットという。
[編集] トイレの設備
括弧書きの設備はホテルやマンションや病院などで使われている三点ユニットのみにある設備
[編集] 汚水処理の方式
[編集] 世界の便所
便所は多くの国で個室となっているが、中には仕切りのない国もある。また、用を足したあとの始末にはトイレットペーパーを用いず水洗する習慣を持つ国(写真のインドやトルコのように、個室内に蛇口がある)もある。水を用いる地域は気温の高い場所であることが多い。世界的に見れば完全に他人の視線を遮断する日本式の公衆トイレのほうが例外的でもある。日本人は排泄をする姿を他人に見られることを極度に嫌い、その逆に入浴を見られることは抵抗感を感じない国民である。欧米では完全に密室にすることは犯罪の温床となると考えられている。
[編集] 中国の便所
中国の便所といって、よく連想されるのが俗に「ニーハオトイレ」と呼ばれる仕切り無しの共同便所である。近年は外国人観光客対策や衛生上の問題などから水洗トイレが推進されてきており、都市部では少なくなってきたが、地方の農村などではまだまだ多く見られる形式である。一応仕切り板で仕切られており、中は個室となっているが、大抵は扉が存在せず、他の利用者に丸見えである。しかし、中国では、古来、排泄行為は他国のようにその姿を憚り他人を遮断することはなく、むしろ便所は住民同士が会話を行う一種のコミュニティの場と見なされており、地方では現在もその習慣が残っているためにこのような便所になったのである。そしてすれ違う利用者に挨拶を交わしていた。これが「ニーハオトイレ」と外国人から揶揄される理由であるが、これは文化的な差異であると見なすべきであろう。また、「ニーハオトイレ」とは言うものの中国の伝統的な便所は男女別に区別されており、近年、個室水洗トイレの導入に伴い便所を男女兼用にする傾向に対して違和感を訴える市民も多い。
便器の形式として縦溝式と横溝式がある。縦溝式は直接便槽に排泄するタイプであり、これは農村の共同トイレなどでよく見られる。そしてこれらは溜めた屎尿を堆肥として利用することが多い。掘られた穴の上に木板などを敷いた簡易式のものもある。横溝式は縦溝式の発展型であり、個室に深さ50cm~60cmの溝があり、その間に跨って排泄する。排泄物は定期的に放水される流水によって流され、便槽に落下する仕組みとなっている(バケツやレバーを使って、利用者が流すタイプもある)。学校など大がかりな施設でも設置できるのが利点だが、糞便が目詰まりしやすい、また他の利用者が排泄した屎尿が流入、それによって悪臭が発生する、など問題もある。日本でも山間部などの公衆便所などで稀に見られる。
更に簡易式のものでは便槽という仕組み自体を持たず、共同便所にバケツや桶などを置いているだけというものも見られる。その屎尿は家畜の飼料、堆肥などに利用される。
なお、2006年9月に溝形式の学校便所に転落し女学生2名が死亡する事故が報じられ、旧時代の便所を改修せよとの声が高まっている。(新京報Webサイト)。
[編集] トルコの便所
トルコ式という言葉があることからもわかるように、トルコにおいて大便器はまたがり式である。小便器のほうは、日本や欧米のものとなんら変わりがない。ただし、大便器は日本のものとは異なり、いわゆる金隠しがない。また、一部外国人向けのものを除いて、用を足したあとの始末には、トイレに備え付けの取手付きの小型の容器に入った水と、左手を用い、紙は使用しない。また、便所内には、洗浄に用いる小型容器に水を供給するために、専用の蛇口が用意されていることが普通である。洗浄後、臀部をふき取ることはしないが、これは、上達すれば驚くほど少ない水量で洗浄が可能であることによるものである。この方法は痔になり難いと言われている。
トルコにおいては、一般に公衆トイレは有料である。また、地域に限らず公衆トイレはジャーミー(camii:モスク)が経営していることが多い。これらのトイレでは、多くの場合手を拭くための紙が使用後無料で渡される。また、サービスの良い一部トイレではコロンヤ(kolonya:トルコ語でコロンのこと。ほぼ全てがレモン臭)を手に振りかけてくれる場合もある。トルコ式トイレは、西ヨーロッパでも、田舎や場末のトイレではよく見られる。
この方式はインドにおいても普及している。肛門を洗う左手は不浄の手と見なされ、食品を扱ったり、握手をしたりすることはない。
日本においてはこの便器をモチーフにした製品をかつてスターライト販売が生産していた。黒色プラスチック製のたらいに足場を設けたような風貌で、便器全体を洗浄するという非常に画期的な便器であった。かつては国鉄の主要駅や全国の公衆便所でみられたが現存数は少ない。
[編集] ヨーロッパの便所
ローマ帝国の滅亡後、インフラの劣化した中世のヨーロッパ都市では、部屋の中の出窓のように拡張された一角で、目隠しのついたてなどした中でおまるを使い、排泄物は、「水!気をつけて」の声を出してから、窓から通りに投げ捨てられた。そのため、路地の汚物で衣裳の裾が汚れないよう、オーバーシューズやハイヒールが発明され、街頭から建物の中に入るのに段差をつけたりといったしきたりが始まったと言われている。
貴族の館、ベルサイユ宮殿などでは、トイレがなく、広大な庭園のバラ園に限らず、花壇が用足しの場所であったという。貴族の女性の大きなフレアの広がりのあるスカートは、そのまましゃがんで、他人から見られることなく、用を済ませるための工夫でもあったという。「ちょっと花を摘みに」という女性の、用足しの言い訳は、ここから由来している。
こうした不衛生きわまる社会的インフラの不幸な結果が、ペストの大流行である。以後、公衆衛生学の発展と共に、こうした実情は徐々に改善されていった。
ヨーロッパでは、幾多の戦乱による被災を免れた築2~3百年の建物(もっと古いものも多い)が現役として使われているが、トイレが各家庭に普及したのはほんの百年ぐらい前なので、古い建物のトイレは階段の下や物置の一角などの隙間に設置され狭苦しく感じるものも多い。
[編集] 日本の便所
日本の便所については日本の便所を参照。
[編集] 高山のトイレ
富士山などの高い山に設置されるトイレの場合、物理的に汚物の処理が困難なことから、シーズンが終わると貯留された汚物をそのまま山肌に放流する事が行われた。その結果、悪臭が発生したり、水に溶けないティッシュペーパーで美観を損ねたり、地下水などの汚染の原因となる。ガソリンを掛けて燃やすこともある。高山の場合気温が低く、冬季に完全に生物分解が進まないことが間々ある。富士山が世界遺産の登録から漏れたのは、このトイレ問題のためといわれている。また、公衆トイレを利用しないケースも多く、そのまま山肌に排泄する、いわゆる野外排泄(登山家の間では「キジ撃ちに行く」)が行われることもあり、現実的には後者の方が深刻な問題である。
2000年から富士山のトイレの改善対策が始まった。富士山クラブが、バイオトイレの設置を行ったり、静岡県、山梨県管理の公衆トイレの改良を行ったり、各山小屋のオーナーが環境問題に取り組む事により富士山のトイレの改良が進んでいる。2006年頃までにほとんどの場所で、山肌に放流する旧式トイレを新しいトイレに改良する予定である。富士山の新しいトイレは汚物の処理やトイレの維持、新しいトイレの開発、設置にお金がかかるため、利用する際は必ずチップを支払うようにしてほしい(※有料トイレもある)。また、トイレの使用方法は普通のトイレとは異なるので、必ず説明を読んでから使用すること。
[編集] 飛行機のトイレ
飛行機のトイレは、古くは汚物を空中散布したり、現代の簡易トイレのような汚物貯蔵タンクを備えたりしていた。現代では、水洗トイレと同様のシステムを用い水を再循環利用するタイプが採用されていたが、水を節約するために飛行機内の与圧と外部との気圧差を利用して汚物を吸引するタイプに置き換わりつつある。
[編集] 列車のトイレ
(詳細は列車便所の項を参照のこと)
列車内のトイレでは、新幹線や一部の路線を除き、長い間汚物を線路上に落下させる「垂れ流し式」(便器の穴から線路が見える)であったが、沿線への飛散問題から1990年頃から、貯留式への改造や古い車両の廃止、新車への取り替えが進められ、2000年以降は垂れ流し式はほとんど姿を消した。しかし、これと引き換えに、一部の地域(特にJR東海、JR西日本、JR四国の地域)では車両基地での汚物処理体制の問題から、車内のトイレ設置自体がなくなってしまう路線が発生し、大きな問題となっている。
[編集] 携帯トイレ
近年は携帯トイレというものも商品化している。仕組みは単純で特殊な加工を施した袋に排泄物凝固用の薬剤を混ぜ、ゴミとして廃棄する。主な用途は自動車利用中における渋滞などのトイレ対策であり、大抵は小用に用いる。登山、アウトドア用や緊急時用のものもあり、これらは小便のほか大便にも利用できる。近年では一部の登山家によって自主的にこの携帯トイレを利用する運動が行われているが、全体から見るとまだまだ普及していないのが現状である。アウトドア用では便器付の大がかりなものやトイレ用のテントも商品化している。また、近年は防災用品としての需要も高まっている。
[編集] バイオトイレ
- 近年ではバイオトイレと呼ばれる新たな仕組みのトイレが注目されている。
- 仕組みは単純で、便槽の中におがくずを詰め込んであり、攪拌することで排泄された糞尿をオガクズの中に住み込んでいる好気性のバクテリアが分解し、最終的には土と水のみが生成されるものである。
- このトイレの利点は、汚物を蓄積しないことで悪臭が発生しない点、そして水洗式でないために、保温用、攪拌用の電源さえあれば、どんな場所にでも設置できるという点である。
- 近年問題になっている登山愛好者の排泄物問題解決の糸口としても注目されている。実際に山小屋などにバイオトイレの設置、稼働させている場所もあり、環境負荷の軽減に効果を発揮している。
- また、設置は比較的簡単であり、都市公園のトイレなどに設置されている例も見受けられる。近年は個人宅のトイレにも設けられることがある。
- 水回りの工事が不要となるため、経済的な面でも注目されているが、保温用、攪拌用の電力料金は使用頻度や機種によってかなり高額になることもあり、使用条件をよく検討する必要がある。