風呂
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風呂(ふろ)とは、容器(浴槽、バスタブと呼ばれる)に湯を満たして人が浸かり、温浴する設備をいう。あるいは湯を使わず、内部を蒸気などで加熱した建物などを指しても使われる。また、漆器に塗った漆(うるし)を乾燥させるために蒸気を満たした室も風呂と呼ばれる。
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[編集] 語源
日本語の風呂の語源は、2説ある。
- もともと「窟」(いわや)や「岩室」(いわむろ)の意味を持つ室(むろ)が転じたという説
- 抹茶を点てる際に使う釜の「風炉」から来たという説
英語のbathは、イギリスにある温泉場の街の名前、バースが語源といわれている。
[編集] 日本の風呂
風呂はもともと、蒸し風呂を指す言葉と考えられており、現在の浴槽に身体を浸からせるような構造物は、湯屋・湯殿などといって区別されていた。その後、戸棚風呂と呼ばれる下半身のみを浴槽に浸からせる風呂が登場。慶長年間の終わり頃に、すえ風呂、または水(すい)風呂と呼ばれる全身を浴槽に浸からせる風呂が登場した。
[編集] 種類
[編集] 蒸し風呂
蒸し風呂(むしぶろ)は、蒸気により体を蒸らす風呂である。前述のように、元々は日本で風呂という場合はこれを指していた。蒸気が豊富な温泉でもよく見られる。箱型の1人用蒸し風呂は、特に箱蒸し風呂と呼ばれる。
[編集] 岩風呂
岩風呂(いわぶろ)は、主に瀬戸内海など海岸地帯にあった蒸し風呂である。天然の石窟などの岩穴の中で、火を焚いて熱する。適当な温度になったところで灰の上に海藻や海水で濡らした莚(むしろ)を引き、その上に人が横たわる形で入浴をした。
[編集] 釜風呂
釜風呂(かまぶろ)は、主に内陸部で広まった蒸し風呂である。特に京都の八瀬の竈風呂が代表的。岩で直径2メートル程度のドーム型に組んだ下側に小さな入口がある構成。最初にドーム内で火を焚き熱する。加熱後に換気を行い、塩水で濡らした莚を引いて、その上に人が横たわる形で入浴をした。
[編集] 五右衛門風呂
五右衛門風呂(ごえもんぶろ)とは、鋳鉄製の風呂釜に直火で暖めた湯に入浴する形式。風呂釜は高温になっており、触れると火傷するため、入浴の時は浮いている底板を踏んで入浴する形式を取る。厳密には、全部鉄でできているものは「長州風呂」と呼び、五右衛門風呂は縁が木桶で底のみ鉄のものを指す。厚い鋳鉄製のため、比較的高い保温力が期待できる。
名前の由来は、安土桃山時代の盗賊石川五右衛門が京都の三条河原で釜ゆでの刑に処せられたところからと言われている。東海道中膝栗毛(十返舎一九作)で主人公の1人である喜多八が、小田原宿の五右衛門風呂で下駄を履いたまま入浴し、底を踏み抜く話でも有名である。
かつての日本の風呂場
日本式風呂桶(五右衛門風呂, 長州風呂)と洗い場。洗い場に置かれているのは脚付きの盥(たらい)と脚付きの洗面桶。風呂桶に水を満たし薪を焼べて風呂釜を外側から直火で熱する方式。風呂釜の底面は直火で熱せられ、側面も高温の煙で熱せられるため風呂釜全体が高温になる。足裏が風呂釜に直に触れないように木製の踏み板や下駄を湯桶に沈めて湯浴みする。洗い場からは一段上がった風呂桶に跨いで入る。風呂桶の縁は桶から溢れた湯が洗い場側に流れ落ちるように一段下がった設えになっている。画面右側の壁には上段に薪を焼べる穴と下段に薪が燃えた後の灰を掻き出す穴が穿たれている。この例では火勢が落ちないようレンガを穴に挿し込んで蓋をする構造になっている。水道が無い時代は外部から湯桶に水を汲み入れたり、入浴後の風呂桶の残り湯を外へ運び出したり、外部で汚れた足を洗い流せるように洗い場から一段下がった部分は土間の三和土(たたき)になっている。
[編集] 木桶風呂 (鉄砲風呂)
ヒノキで造った大型の小判型木桶に、火を焚く為鋳物製の釜と煙突が付いた形状をしている。煙突の付いた釜の形状が鉄砲に似ている為『鉄砲風呂』と呼ばれる事もある。江戸時代から存在したが、一般に普及したのは明治時代から大正時代にかけてと言われている。現在ではガス湯沸し器型の風呂が普及した為、五右衛門風呂と同じくあまり見られなくなってきている。
[編集] ユニットバス
壁・天井・浴槽・床をあらかじめ工場で成型し、現場に搬入して組み立てる風呂。トイレと一体型となっているものもある。第二次世界大戦前のアメリカで特許が取られたが普及せず。日本では、1960年代にホテルや集合住宅向けに、大量かつ容易に組み立てられる浴室として普及した。最初に大量納入されたのは、東京五輪に向け突貫工事が行われていた東京のホテルニューオータニ。最初は、繊維強化プラスチック(FRP)製の浴槽であったが、素材の開発が進んだ1980年代以降は、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂を用いた人工大理石浴槽や、保温性の高いステンレス浴槽を用いたものも出現した。
[編集] ジャグジーバス
ジャグジーバスとは、浴槽内に勢いのある泡を出す風呂全般を指す。浴槽内を照らす照明を備えるものもある。
[編集] 住宅の浴室
現在使われる住宅用浴槽には洋式、和式、和洋折衷式の3種類がある。洋式は長さ1400mm~1600mmで長く、深さ400mm~450mmで浅い。和式は長さ800mm~1200mmで短く、深さは450mm~650mmと深い。これは入浴方法の違いによるもので、体を伸ばして洗う洋式と、肩まで湯につかる和式の違いの表れである。単純に浴槽を大きくすれば両用に耐えるが、必要な湯量が増えるため、中間的な大きさである和洋折衷式がよく使われる。
浴槽が深い場合、入る際に足を高く上げなければならず危険である。浴槽の設置方法には埋め込み式、半埋め込み式、据え置き式があり、浴槽の設置方法もまたぐ高さを抑える半埋め込み式が最も安全である。
住宅の室は床下からの害虫の侵入、湿気によるカビの繁殖を防ぐために通常、床下空間が設けられるが、タイルを貼るような浴室は浴槽の埋め込みや、耐水性のある床仕上げを行うために直接地面に接して作られる。冬での高温多湿の状態が維持される浴室回りはカビや害虫(例えばシロアリ)の温床になりやすい。これらから被害を食い止めるためには、日ごろから点検を行うこと、また点検ができる作りにしておくことが重要である。ユニットバスの場合、通常地面から離れた状態で設置されるため、直接地面と接していないが、やはり高温多湿の状態が起こるため、同様の注意は必須である。
近年、都市部では狭小地を有効利用するため、上階に浴室を設置することがある。木造住宅の場合、木材の伸縮によって防水層が破断することは十分考えられ、漏水には十分注意が必要である。また、水が液体であることや、水を張った浴槽を人が持ち上げることがないために重さを実感しにくいが、水はたったの一立方メートルで1000kgもの重量があることを忘れてはならない。浴槽に入浴に適した程度の水を張った状態でも数百kgもあり、これは大型家具や普通に室内にある重量物の重量をはるかに超える。地震の際に水を張ったままの浴槽が上階にあると、家屋の倒壊の原因になるとの指摘もなされている。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ドミニック・ラティ 高遠弘美 訳 『お風呂の歴史』 文庫クセジュ 白水社 ISBN 4560508976