走査
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走査 (scan)とは、テレビジョンやファックスなどの画像伝送技術において、画像を電気信号(映像信号)に変換する技術の一つである。
テレビで画像を送るには、まずカメラでレンズを用いて撮像管あるいは固体撮像素子の受光面に被写体の像を結像させ、光の強弱を電気信号に変換する。この2次元情報である静止画(フレーム)を時間軸上の1次元情報、すなわち時間とともに変化する信号の流れとして送る必要がある。
このため、図1に示すように受光面の平面を左から右へ、上から下まで順次なぞることで1次元情報に変換する。すなわち画面を縦方向に細かく分割し、分割した右端を直下の分割部の左端につなげて1本の「紐(ひも)」のような、1次元の信号の流れに変換する。白黒テレビではこの「紐」の各点が被写体の明るさ(輝度)を表現するアナログ量となる。
受信側では、この「紐」を画面の左右を区切りとして一本一本切り離し、もとの順番に並べて1枚の平面状の画面を再構成することになる。
この一本一本の「紐」を走査線と呼ぶ。走査線が多いほど縦方向の解像度は向上する。横方向の解像度はアナログ映像信号の場合、伝送帯域幅で制限される(走査線数・フレーム数 (fps) が一定の場合)。また、毎秒あたりフレーム数が多いほど動く被写体の動きの描写が滑らかになる。言い換えれば時間方向の解像度が向上する。
[編集] インターレース方式とプログレッシブ方式
テレビ放送を実用化するにあたり、伝送可能な帯域を考慮して走査線数と毎秒フレーム数を決める必要があった。白黒テレビ放送の開始時に実現可能だった約4MHz程度の帯域では、ブラウン管の画面サイズと視聴距離から必要な走査線本数を決めると、伝送可能な毎秒あたりのフレーム数が30程度になる。これでは滑らかな動きを実現するには足りないため、人間の目の残像特性を利用した飛び越し走査(2:1インターレース)方式を採用した。これは、画面を構成する走査線を1本おきに送ることにより、1フレームを二つの「フィールド」に分割して毎秒60フィールドを伝送するものである。
これに対し、飛び越し走査を行わない方式を順次走査(プログレッシブ走査)方式と呼ぶ。 コンピュータ・ディスプレイでは主として順次走査方式を採用するほか、デジタルテレビジョン放送やDVD-Videoでは順次走査方式を使用することも可能である。
図2に飛び越し走査方式と順次走査方式の走査の違いを示す。インターレース方式では左の図のように一旦実線部の走査線をたどって画面最下部まで走査し、ついで最上部に戻って点線部の走査線をたどって右下隅に達するように走査する。したがって、走査線本数が1/2の2画面に分けて送るのと同じことである。これに対し順次走査方式では右の図のように、一度に全画面を走査して送る。なおNTSC方式では走査が画面の左上隅から始まるフィールドを奇数フィールド、画面上端中央から始まるフィールドを偶数フィールドと呼ぶ。
順次走査方式で送る場合(図3右)に対し、飛び越し走査方式で送る場合(図3左)では実質的に毎秒フレーム数を1/2にした順次操作方式(図3中)と同等のデータ量、すなわち伝送帯域となる。また、飛び越し走査では図3中に比べフレーム数が2倍であるため同じ伝送量でも動画としての動きの滑らかさが劣化しないことになる。
但しテレビカメラもインターレース方式の場合、奇数フィールドと偶数フィールドでは1/60秒ずれた時刻の画像を伝送することになる。このため、インターレース方式の奇偶フィールドを1枚のフレームに重ねた場合、動きのある被写体を写すと走査線の奇偶でずれて表示される。人間がテレビ画面を視聴する場合にはこれは殆ど気にならないが、インターレースからプログレッシブへの変換を行ったり、またフレーム静止画表示を行った場合にはこのずれが知覚される場合があるので、映像制作上注意を要する。
[編集] ノンインターレース方式
ファミリーコンピュータやスーパーファミコン等の古い家庭用ゲーム機では、インターレース信号の片方のフィールドのみ60Hzで飛び越し操作で表示する。もう片方のフィールドは常に黒くなっているので、無数の横線が見えることになる。古いゲーム機ではビデオメモリの容量を大きくとれなかったので、解像度を半分にすることで対応した。インターレースのフリッカー(チラツキ)がなくなり、目が疲れにくいというメリットもある。