キーロフ級ミサイル巡洋艦
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キーロフ級ミサイル巡洋艦(Киров)は、旧ソヴィエト連邦海軍・ロシア海軍のProject1144.1/1144.2「Orlan」重装原子力ミサイル巡洋艦(巡洋戦艦)。1番艦の就役時の艦名から「キーロフ」級と呼ばれる。ソ連邦崩壊後、1番艦は「アドミラル・ウシャコフ」と改名されたが、現在でも「キーロフ」級と呼ばれる事が多く、「アドミラル・ウシャコフ」級と呼ぶケースはほとんど無い。ソ連・ロシアにおいては、「重原子力ミサイル巡洋艦」。
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[編集] 概要
「キーロフ」は第二次世界大戦後に建造された艦船のうち、航空母艦を除けば世界最大の軍艦として、1977年12月にレニングラードのバルチック造船所で進水した。「キーロフ」は当初、敵潜水艦および航空機を発見これを撃破することを目的として計画され、ソヴィエト連邦海軍が当時計画していた航空母艦の護衛任務部隊として行動することが目的であったが、長距離艦対艦ミサイルのグラニッドを装備されてからは、より能力の高い軍艦となった。「キーロフ」級は大型ミサイル巡洋艦に分類されているが、その船体排水量はかつての英国戦艦ドレッドノートより大きく、ジェーン海軍年鑑では巡洋戦艦に分類している。ただし艦載兵装などの点で巨砲を搭載したかつての巡洋戦艦とは全く違うものであり、巡洋艦をスケールアップしたに過ぎない。ロシア海軍においては、本級は「"重"原子力ロケット巡洋艦」に分類されており、普通の「ロケット巡洋艦」よりもワンランク上の存在と見なされており、こちらの名称のほうが本艦の性格をよく表しているという意見もある。なおソヴィエト海軍・ロシア海軍では「ミサイル」と「ロケット」は区別されておらず、同義語として扱われており、ロシア語の正式表記では「ロケット○○艦」と表される。
[編集] 特徴
キーロフ級は世界ではじめて艦載ミサイルをVLSとし、レーダー反射面積低減を狙った「ステルス」デザイン(1番艦キーロフがデンマーク海峡を通過する際、NATO軍のレーダーには「2,000t程度の小型フリゲート」にしか写らなかったという逸話は有名である。つまり、レーダー反射面積は10分の1以下という事になる)、アメリカのイージスシステムに数年先駆けて同時多目標対処可能な艦隊防空システム「フォールト」を採用し(本級の場合、同時12目標対処可能)、30mm機関砲と近接防空ミサイルを組み合わせた「コールチク」CIWSや、現代では珍しい連装砲(AK-130 130mm砲)を採用するなど技術的に特徴の多い艦である。
また、現代の軍艦には珍しく、艦の主要部に装甲が施されており、特に艦中央の「バイタル・パート」が重点的に装甲防御されている。なお、「フォールト」対空ミサイル垂直発射機区画は、甲板下の自律格納庫に収まっている事や、内部には発射コンテナもあるため、「グラニート」区画のように舷側装甲は必要無いと判断された。これに前述のステルスデザインと相まって、キーロフ級は非常に生存性の高い軍艦と言える。
本級は、原子力推進艦にも関わらず煙突が有り、原子炉の他に重油焚きボイラーも搭載している。この件に関し、西側では長い間「原子炉が供給する蒸気をボイラーで追い炊きして改質する"スーパーヒート"推進システム」であると信じられていたが、ソ連崩壊後にロシア側から明らかにされた資料によると、単なるバックアップ用であった。本級の計画時、海軍総司令官ゴルシコフは、原子炉の他に「17ノットの速力が出せる予備ボイラーの設置」を要求し、これを受け入れたがための結果であった。
[編集] 現状
本級は、7隻が計画され(9隻という説も有る)、5隻が起工されたが、竣工したのは4隻であった。建造が長期に渡った事もあり、竣工した4隻は、微妙に装備が異なる。この内4番艦は、艤装中にソ連邦が崩壊したために一時工事が中断したが、極度の財政難にも関わらず、エリツィン大統領の指示で1990年代半ばに工事が再開され、1998年にようやく就役した(だがこのため、細々と建造中だった他の艦は工事が中断してしまった)。5番艦は1989年に起工されたが、1990年10月4日付で建造中止が決定された(ちなみに、5番艦の予定艦名は「アドミラル・フロータ・ソヴィエツカヴァ・ソユーザ・クズネツォフ」であったが、建造中止となったため、同日付で改名が決定した就役目前のプロジェクト11435重航空巡洋艦(旧名トビリシ)の新艦名に「流用」された)。ソ連邦崩壊後の1992年5月27日、就役済みの3隻と艤装中の1隻は、ソ連邦時代の人名から、帝政ロシア時代の人名に改名された。
本級は出現当初より西側の注目を集めたが、ソ連邦崩壊後は、ほとんど外洋に出る事も無くなった。1993年春に発表されたロシア海軍の「艦艇整備10ヵ年計画」のリストからは、本級の名前は消えていた。早期に退役させる予定であったが、本級が消えるのを惜しむ者は海軍部内及び部外には多く、上述のように、この計画が発表された5年後、4番艦が就航した。
現在、稼動状態に有るのは、4番艦のみとなっている。3番艦は、セヴマシュ・プレドプリャーチェ(北方機械建造会社、第402海軍工廠、セヴェロドヴィンスク市)で改装工事を行っている。この改装は、対艦ミサイル等兵装や電子機器類の換装も含む大規模なものであり、工事完了は2007年の予定である。
ソ連崩壊後のロシア海軍においても、21世紀初頭までは4隻全てが艦隊に在籍していた。1番艦は1990年代末期に除籍されそうになったのだが、ロシアの連邦議会から「待った」が掛かり、一転して「除籍は認めず。修理して現役復帰させるべし」という決議が採択されてしまい、除籍は撤回されセヴェロドヴィンスク造船所に回航、「修理待ち」状態となった。しかし結局、同艦の修理は行われずに除籍される事になり、2004年9月、同艦の解体工事が発注された。
[編集] 「キーロフ」級諸元
- タイプ:大型ミサイル巡洋艦
- 排水量:基準24,300t、満載26,500t
- 寸法:全長252m、全幅28.50m、喫水10m
- 機関:KN-3加圧水型原子炉×2基(この他、予備の重油ボイラー×2基)
- 出力:140,000馬力
- 推進器:2軸
- 速力:30kt(56km/h)
- 火器兵装
- P-700グラニート(SS-N-19シップレック)長距離艦対艦ミサイル垂直発射機×20基(ミサイル20発)
- フォールト(SA-N-6グランブル)広域艦対空ミサイル8連装垂直発射機×12基(ミサイル96発):1~3番艦のみ
- フォールトM(SA-N-X-20)広域艦対空ミサイル8連装垂直発射機×12基(ミサイル96発):4番艦のみ
- キンジャール(SA-N-9ガーントレット)短距離艦対空ミサイル8連装垂直発射機×8基(ミサイル64発):4番艦のみ
- オーサM(SA-N-4ゲッコー)短距離艦対空ミサイル連装発射機×2基(ミサイル40発):1~3番艦のみ
- AK-130 130mm対空対水上連装砲×1基:2~4番艦のみ
- AK-100 100mm対空対水上単装砲×2基:1番艦のみ
- コールチク(CADS-N-1)30mm機関砲/SA-N-11ミサイルCIWS×6基:3、4番艦のみ
- AK630 30mmガトリング砲CIWS×8基:1、2番艦
- メチェーリ(SS-N-14サイレックス)連装対潜ミサイル発射機×1基(ミサイル16発):1番艦のみ
- RBU12000対潜ロケット10連装発射機×1基:3、4番艦のみ
- RBU6000対潜ロケット12連装発射機×2基:1、2番艦のみ
- RBU1000対潜ロケット6連装発射機×2基
- 5連装533mm対潜魚雷発射管×2基(2番艦以降は、ヴォドパート(SS-N-16スタリオン)対潜ミサイル発射管兼用)
- 電子兵装
- トップ・ペア3次元レーダー
- トップ・スティア3次元レーダー:1、2番艦のみ
- トップ・プレート3次元レーダー:3、4番艦のみ
- トップ・ドームSA-N-6発射管制レーダー×2基:1~3番艦のみ。4番艦は、トゥーム・ストーン×1基、トップ・ドーム×1基
- ポップ・グループSA-N-4発射管制レーダー×2基:1~3番艦のみ。4番艦は、クロス・ソード(SA-N-9管制用)×1基
- パーム・フロンド航海レーダー×3基
- カイト・スクリーチ130mm砲射撃指揮レーダー
- アイ・ボウルSS-N-14発射管制レーダー×2基:1番艦のみ
- バス・ティルトCIWS射撃指揮レーダー×4基:1、2番艦のみ
- サイド・グローブ電波探知機×1基
- ベル・シリーズ電波妨害機×10基
- ラム・タブ電波妨害機×4基
- ポリノム低周波バウ・ソナー×1基
- ホース・テイル中周波可変深度ソナー×1基
- 搭載機:カモフKa-25ホーモンまたはKa-27へリックス対潜/ミサイル誘導ヘリ×3~5機
- 乗員:727名
- 装甲
- 艦前部「グラニート」対艦ミサイル垂直発射機区画:舷側・喫水線以上100mm、喫水線以下70mm(傾斜装甲)、甲板70mm
- 艦中央部主戦闘指揮所、戦闘情報所区画、補助蒸気ボイラー区画、原子炉区画:舷側100mm、隔壁及び上部75mm
- 艦尾ヘリコプター格納庫、航空燃料保管庫、艦載機用弾薬庫、舵区画:舷側70mm、上部50mm
[編集] 同型艦
- キーロフ(Киров:スェルギェーイ・ミローノヴィチ・キーロフ:レニングラート・ソヴィエト議長を務めたソ連の革命家):→アドミラール・ウシャコーフ(Адмирал Ушаков:ウシャコーフ海軍大将):北方艦隊所属。1990年、推進器事故を起こして予備役編入、その後、セヴェロモルスク基地に係留されていたが、1990年代末にセーヴェロドヴィンスク市に回航され、修理を行う予定であったが結局断念され、2004年9月、同艦の解体工事が艦船修理工廠「ズヴェズドーチカ」に4,000万ドルで発注されたと伝えられたが、2006年に至るも解体工事は着手されず、セーヴェロドヴィンスク市に係留されたままとなっている。なお「アドミラール・ウシャコーフ」の名は、2004年6月、ソヴレメンヌイ級駆逐艦「ベスストラーシュヌイ」に受け継がれた。
- フルーンゼ(Фрунзе:ミハイール・ヴァスィーリイェヴィチ・フルーンゼ:ロシア革命におけるボリシェヴィキーの指導者のひとり)
- →アドミラール・ラーザリェフ(Адмирал Лазарев:ラザリェーフ海軍大将):太平洋艦隊所属。ソ連崩壊後は、ストレローク(ウラジオストクから南東数十キロに位置する軍事機密都市)市アルベーク湾埠頭にて係留保管されていた。1993年に小事故を起こした際、原子炉が緊急停止された。原子炉の再起動には、艦隊司令官の許可が必要だったのだが、当時、太平洋艦隊司令部は不祥事が相次いで司令官を初めとする司令部要員が頻繁に交代しており、誰も、そこまで気に掛ける余裕が無かったため、再起動命令が出されないまま時間が過ぎ、現在に至る。原子炉が停止した後、グリーンピースのD.ヘンドラーが同基地のラーザレフを視察し「この艦の原子炉は蒸気発生器が老朽化し、原子炉の再起動手順を知っている専門家が居ないため、原子炉を再起動出来ない」などという見当違いもいいところの結論を下した事があった。2002年12月6日にも小火災を起こしたが、すぐに鎮火された。2004年以降、原潜修理工廠「ズヴェズダー」が有るボリショイ・カーメニ市に回航され、オーバーホールを待っている。資金の都合が付けば、現役復帰の可能性も有る。
- カリーニン(Калинин:ミハイール・イヴァーノヴィチ・カリーニン:ソ連の国家元首を務めた古参ボリシェヴィーク)
- →アドミラール・ナヒーモフ(Адмирал Нахимов:ナヒーモフ海軍大将):北方艦隊所属。現在、セーヴェロドヴィンスク造船所にて近代化改装工事中。
- ユーリイ・アンドローポフ(Юрий Андропов:ユーリイ・ヴラヂーミロヴィチ・アンドローポフ:ソ連の首相を務めた)
- →ピョートル・ヴィェリーキイ(Петр Великий:ピョートル大帝):北方艦隊所属。現在、北方艦隊旗艦。2004年3月に「核爆発」騒ぎが有ったが、誤報であった。当時の海軍総司令官クロエドフ元帥が、艦長ウラジミール・カサトーノフ大佐の叔父イーゴリ(元海軍大将、海軍総司令官第一代理)と不仲であったため、「嫌がらせ」にこのようなデマを流したようだ。
- ジェルジンスキー(Dzerzhinsky)→アドミラル・クズネツォフ(Admiral Kuznetsov) :5番艦。1989年起工、1990年10月建造中止、廃棄
[編集] 関連項目
[編集] 登場作品
- エースコンバット5 :ユークトバニア海軍の艦艇として登場。
- 鋼鉄の咆哮 :敵艦として登場。
- エナジーエアフォース :敵艦として登場。
- 沈黙の艦隊
[編集] 外部リンク
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