P-T境界
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P-T境界とは地質年代区分の用語で、約2億5000万年前の古生代と中生代の境目に相当する。古生物学上では史上最大級の大量絶滅が発生したことで知られている。
古生代最後のペルム紀(Permian)と中生代最初の三畳紀(Triassic)の境目なので、両者の頭文字を取ってP-T境界と命名された。なお恐竜絶滅で有名な白亜紀(Kreide:ドイツ語)と新生代第三紀(Tertiary)の境目はK-T境界と呼ばれている。K-T境界は直径約10kmの巨大隕石がユカタン半島付近に落下したことが大量絶滅の原因として有力視されているが、P-T境界では巨大隕石の落下は確認されていなかった。 しかし、2006年6月に南極大陸でこの時代のものと思われる巨大な衝突痕が発見された。大きさはユカタン半島のチクシュルーブ・クレーターを遥かに凌ぎ、この隕石がペルム期末の大量絶滅及び超大陸分裂の引き金になった可能性があるとして、目下調査中である。
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[編集] 大量絶滅
一般に古生代の陸上生物は両生類、中生代は恐竜に代表される爬虫類の時代と言われている。P-T境界はこのきっかけとなった事件であり、絶滅した生物種はK-T境界よりはるかに多かった。例えばペルム紀末に海中に住んでいた海棲無脊椎動物の種レベルでの絶滅率は最大で96%と見積もられている。この中には三葉虫・古生代型サンゴ・フズリナなど古生代に幅広く棲息していた生物種が含まれる。その他脊椎動物・昆虫・植物などの陸上生物もたくさんの種類が絶滅した。
[編集] 超大陸の形成と分裂
2.5億年前、地表に存在するほとんど全ての陸地が1ヶ所に集合して超大陸パンゲアを形成した。パンゲア以外の地表はひとつの大きな海パンサラサ海となった。なおパンゲア大陸内部の地中海としてテチス海が存在した。一旦形成された超大陸パンゲアはすぐに分裂を始めたが、その際大規模な火山活動がありシベリア台地玄武岩が形成された。超大陸の形成と分裂については、プルームテクトニクスによる理論化が行われている。
[編集] スーパーアノキシア
スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な海洋酸素欠乏事件のこと。世界の各所に産出する当時の海洋起源の堆積岩(泥岩やチャートなど)を調べると、2億5100万年前の前後約2000万年にわたって海洋が酸素欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では100万年程度の酸素欠乏事件は何回か生起しているが、2000万年の間・全海洋で酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。
[編集] 想定されるシナリオ
これらをまとめて説明することが検討されている。一例として下記のシナリオが提案されている。
- 超大陸の分裂に際し、非常に大規模な火山活動が起こり火山性ガスが地球を覆って地表に達する日光の量が激減し、気温が低下した。
- 日光が減り植物の光合成が激減した。
- これらの影響で生物が大量に死滅した。
火山噴火で地表に達する日射量を左右するのは火山灰と火山性ガスの二種がある。火山灰は噴火当初は影響が大きいが、地表への落下も早いので長期間影響することは少ない。火山性ガスが大量に噴出した場合、大気の状態が元に戻るまで非常に長期間影響が残る。例えば1783年のアイスランド・ラキ火山の噴火による火山ガスの影響で北半球の気温が低下し、日本では1788年まで続く天明の大飢饉が起こり、またフランス革命の遠因ともなった。
[編集] 顕生代の内訳のグラフ
地質時代区分表は地質時代を参照。
- 上段:左から、古生代、中生代、新生代を示している。
- 下段:カンブリア紀から第四紀までを紀ごとに示している。(右端の第四紀は見えにくい可能性がある。)
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[編集] 関連図書
- 『生命と地球の歴史』丸山茂徳・磯崎行雄 岩波新書 ; ISBN 4004305438 1998年