鬼平犯科帳
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鬼平犯科帳(おにへいはんかちょう)は、池波正太郎の時代小説。「オール讀物」に連載。火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を主人公とする捕物帳で、『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』とならび人気を保っている。テレビ・映画・劇画化されている。
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[編集] 概要
「オール讀物」1967年12月号に単発ものとして「浅草・御厩河岸」が発表され、この時点では連作小説の意図はなかったが、評判がよかったために次月号から同誌の巻末を飾る作品としてシリーズ化された(単行本掲載時にはこの作にかぎって順番の入替えがある)。『鬼平犯科帳』の題名が付されるようになったのは1968年1月号掲載の「唖の十蔵」からである。当時の編集長によれば、野村胡堂の『銭形平次』のように、巻末にあって「オール讀物」の顔となるような長期連載の作品として、『鬼平犯科帳』を考えていたという。テレビ版製作にあたっては原作をドラマ化するのみにかぎり、小説を使いつくしたらそこで打切るようにというのが作者の意向であったのは有名な話。
1968年には文藝春秋社から最初の単行本が刊行された。全部で135作で、ほか番外編が1作。このうち5作が長編、残りの130作が短編作品である。未完に終ったのは最後の「誘拐」1作のみで、これは作者急逝のため。現在は文春文庫におさめられ、全24巻(新装版)。
「鬼の平蔵」と呼ばれる長谷川平蔵の人情味あふれる人間性と悪を許さぬ不屈の意志が見ものである。平蔵は若い頃、深川近辺でその顔を知られ、放蕩三昧の生活を送っていた。その時の至らない経験の数々が、火付盗賊改方長官になった平蔵の人間性に深みを持たせている。平蔵は鬼と呼ばれる一方で捕らえた盗賊に対して友人のように接したり父親のような優しさを見せることもあり、単純な勧善懲悪ではない物語の深み、複雑な味わいを感じさせる。
また食通で知られる筆者ならではの江戸時代におけるグルメ描写があることでも知られる。
[編集] 時代背景
長谷川平蔵が火付盗賊改方長官であったのは1787年(天明7年)から1795年(寛政7年)まで。 1783年(天明3年)の浅間山大噴火や折からの大飢饉による農作物の不作により、インフレが起こる。 各地で打ち壊しが頻発し、世情は酷く不穏であった。田沼意次の失脚(1786年)を受けて1787年(天明7年)松平定信が老中に就任。寛政の改革が始まったが、このような経済不安から犯罪も増加し、凶悪化していった。長谷川平蔵が火付盗賊改の長官となったのは同年10月である。
[編集] 各話題名
鬼平犯科帳全作品一覧を参照。
[編集] 登場人物
- 長谷川平蔵宣以(長谷川平蔵) - 元京都西町奉行・長谷川宣雄の息子。火付盗賊改方長官。
- 秋山小兵衛 - 剣客。
- 天野彦八郎 - 久栄の伯父。小納戸衆。
- 阿部弥太郎 - 辰蔵の友人。
- 石坂太四郎 - 無頼浪人。
- 石島精之進 - 無頼浪人。
- 井関録之介 - 剣客。
- 大滝の五郎蔵 - 密偵。元本格派の盗賊の首領。おまさと結婚。
- 大橋与惣兵衛 - 久栄の父。
- 小川や梅吉 - 盗賊。
- 小野十蔵 - 火付盗賊改方同心。寡黙。
- 小野田治平 - 剣客。
- 傘山の弥兵衛(2代目) - 盗賊。本格。
- 岸井左馬之助 - 剣客。平蔵の旧知で盗賊改方を時々手伝う。
- 狐火の勇五郎(初代) - 盗賊。本格。
- 狐火の勇五郎(2代目) - 盗賊。先代の妾腹。本名・又太郎。本格。
- 木村忠吾 - 火付盗賊改方同心。色白でぽっちゃりしており、仲間の同心からは「兎忠(うさちゅう)」と呼ばれてからかわれる事も多い。旨い物や酒と女に目が無い為の失敗も有るが、憎めない性格とここぞという時の働きで、平蔵に叱り飛ばされながら可愛がられてもいる。
- 蛇(くちなわ)の平十郎 - 盗賊。長谷川平蔵の暗殺を何度も企む。
- 小金井の万五郎 - 盗賊。
- 小柳安五郎 - 火付盗賊改方同心。
- 小房の粂八 - 密偵。捕縛されていたが、放免される。
- 相模の彦十 - 密偵。平蔵とは古い付き合いで、無頼時代の取り巻きだった。
- 佐々木新助 - 火付盗賊改方同心。「あばたの新助」と呼ばれる。
- 佐嶋忠介 - 火付盗賊改方与力。
- 沢田小平次 - 火付盗賊改方同心。
- 血頭の丹兵衛 - 盗賊。かつて粂八は彼のもとにいた。
- 坪井主水 - 剣客。
- 津山薫 - 女盗賊。本名・森初子。
- 中村宗仙 - 医師。
- 霧(なご)の七郎 - 盗賊。小川や梅吉の弟。
- 鳴海の繁蔵(2代目) - 盗賊。先代とは違い、本格ではない。
- 墓火の秀五郎 - 盗賊。別名「川越の旦那」。
- 長谷川辰蔵宣義 - 長谷川平蔵の長男。遊び好きだがだんだん頼もしくなっていく。
- 浜崎の友蔵 - 盗賊。川越船頭。別名・友五郎。
- 瓢箪屋勘助 - 盗賊。表向きは料亭の主人。傘山の弥兵衛一味。
- おふさ - 服部角兵衛の妻。平蔵と左馬之助の憧れの人だった。
- 久栄 - 長谷川平蔵の妻。
- おまさ - 密偵。無頼時代の平蔵に憧れていた。五郎蔵と結婚。
- 松尾喜兵衛 - 剣客。
- 松永弥四郎 - 火付盗賊改方同心。変装が得意。
- 蓑火の喜之助 - 盗賊。本格。大滝の五郎蔵の師匠でもある。
- 山田市太郎 - 火付盗賊改方同心。
- お園 - 平蔵の腹違いの妹。平蔵の実母の名前でもある。
- 京極備前守高久(京極高久) - 幕府の若年寄(老中補佐)で平蔵の上司にあたる。平蔵を含め、火盗改方の良き理解者。
[編集] 用語
作中では主に盗賊たちが「盗み」のことを「つとめ」「おつとめ」「はたらき」などの言葉で表現する。これらの用語は殆どが原作者の造語である。
- 急ぎ働き
- 入念な準備をする伝統的な「盗み」ではなく、押し入って奪って他所へ素早く逃げるやり方。手口が荒っぽく、証拠隠滅のために殺生をともなう事が多い。現代の強盗・強盗致死に相当。
- 狗(いぬ)
- 盗人稼業から足を洗い、役所のために働く密偵の事を盗賊たちが蔑んでいう言葉。
- 畜生働き
- 殺生や強姦を伴う盗みのこと。強盗殺人・強盗強姦に相当。
- 盗みの三ヶ条
- 伝統的な「本筋の盗人」が守るべきとされる掟で「盗まれて難儀する者へは手を出さぬ事、人を殺めぬ事、女を手込めにせぬ事」の三ヶ条からなる。
- 引き込み
- 盗みに入る家の内部関係者となって、いざ決行となれば内から鍵を外し、仲間を引き入れる。奉公人や出入りの商人として、数年をかけて押し込み先での信頼を得る。伝統的な盗みには欠かせない役目。
[編集] テレビ時代劇
池波正太郎原作のテレビ時代劇。東宝(白鸚版・丹波版・萬屋版)および松竹(吉右衛門版)制作。NET系とフジテレビ系で放送された。主人公・長谷川平蔵を松本白鸚 (初代)、丹波哲郎、萬屋錦之介、中村吉右衛門 (2代目)が演じている。NET版は最初モノクロで、途中よりカラー放送となった。
TV作品における最初の長谷川平蔵役は歌舞伎役者の松本幸四郎 (8代目)(後の松本白鸚 (初代))で、このTVシリーズは「原作のイメージそのまま」との高い評価を受けている。これは幸四郎の演技力もあるが、池波が小説における長谷川平蔵の人物像を構築するのに、劇作を通じて親交のあった幸四郎をモデルとしたからでもある。のちにテレビ版4代目の長谷川平蔵を演じた幸四郎の次男・2代目中村吉右衛門はインタビューなどで、「あて書きなんだから親父は素のまま演じればよかったが、自分はそういうわけに行かない」といった内容の言葉を残している。
その吉右衛門は最初のTVシリーズでは平蔵の息子・辰蔵を演じ、親子共演している。彼は実父そっくりの風貌を理由に、2作目のTVシリーズを作成する時に是非長谷川平蔵を演じて欲しいと依頼されているが、実際の平蔵に比べ若すぎることを理由に断っている。そして4作目のTVシリーズになって、長谷川平蔵が火付け盗賊改方に着任した頃とほぼ同じ年齢になったため、ようやく演じることになったという経緯がある。なお、吉右衛門によれば、原作者の池波からも吉右衛門が平蔵と同年代になれば演じて欲しい(実は幸四郎は実際の平蔵に比べてかなり年上だった)と言われていたそうである。
ちなみにNET版で長谷川平蔵を演じていた丹波哲郎は、「老盗の夢」(フジテレビ版)で盗賊の“蓑火の喜之助”を演じていた。テレビ版のみのオリジナル要素として、沼田爆扮するグルメ知識を披露する料理好きの同心・村松忠之進、通称“猫どの”が登場する(フジテレビ版)。フジテレビ版は1995年に映画化された。
原作を使いきったらドラマは終了する、つまり原作に基づかないドラマは制作しないという原作者との取決めによって、中村吉右衛門版が全作品(池波の死によって未完となった遺作は、エンディングをシナリオライターが補った)をドラマ・映画化した際にいったん終了となっている。ただし幸四郎時代に、当時連載中であった原作小説が数量的にドラマの放送回数に足りなくなり、原作者の諒承を得てほかの池波作品から転用できるものを用いたドラマ・オリジナル脚本が数作あり、これは吉右衛門版でも使われている。また吉右衛門時代にも数篇の原作をひとつにしてスペシャル盤を制作することはよくあった。
しかし、鬼平ファンからの放送復活を望む声が強く、2005年から年1回程度のペースで鬼平犯科帳スペシャルが製作されている。
[編集] フジテレビ版
[編集] レギュラー出演者
[編集] 火付盗賊改方
- 中村吉右衛門 (2代目)(長谷川平蔵宣以)
- 高橋悦史(佐嶋忠介:シリーズ途中で逝去)
- 尾美としのり(木村忠吾)
- 篠田三郎(酒井佑助・第1シリーズ)
- 柴俊夫(酒井佑助・第2シリーズ)
- 勝野洋(酒井佑助・第3シリーズ以降)
- 真田健一郎(沢田小平次)
[編集] 密偵
[編集] その他
[編集] ゲスト出演者
- 近藤正臣
- 柄本明(「むっつり十蔵」(小野十蔵))
- 日下武史(「血頭の丹兵衛」(血頭の丹兵衛))
- 鹿内孝(「むかしの男」(近藤唯四郎))
- 島田正吾(「血頭の丹兵衛」(蓑火の喜之助))
- ガッツ石松
- 芦田伸介
- フランキー堺(「盗法秘伝」(伊砂の善八))
- 峰竜太(「おみね徳次郎」(徳次郎))
- 道場六三郎(「屋台の亭主」)
- 藤田まこと
- 岩下志麻(荒神のお豊)
- 山田五十鈴
- 石原良純
- 芦屋雁之助
- 池内淳子
- 丹波哲郎
- 橋爪功
- 小林稔侍
[編集] テーマ音楽
- インスピレイション / ジプシー・キングス
[編集] ナレーション
[編集] 劇画
さいとう・たかを作画・久保田千太郎の脚色による劇画。リイド社、文藝春秋より単行本が発行されている。ほとんどが原作に忠実であるが、その中には〔盗賊婚礼〕のように、原作と大きく異なる作品もある。(2代目傘山の弥兵衛が本格の盗賊ではない、鳴海の繁蔵と瓢箪屋勘助が同一人物である、など)
[編集] 関連書籍
- 池波正太郎・鬼平料理帳 (池波正太郎・佐藤隆介、文藝春秋) [ISBN 4167142341]
- 「鬼平犯科帳」お愉しみ読本 (文藝春秋) [ISBN 416714252X]
- 鬼平犯科帳の世界 (池波正太郎(編集)文藝春秋) [ISBN 4167142430]
- 『鬼平犯科帳の真髄』 (里中哲彦、現代書館、1998年) ISBN 4768467407 /(文春文庫、2002年)ISBN 4167656256
- 『鬼平犯科帳の人生論』 (里中哲彦、文春文庫、2004年) ISBN 4167679175
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