金沢21世紀美術館
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金沢21世紀美術館(かなざわにじゅういちせいきびじゅつかん)は金沢市にある現代美術を収蔵した美術館。愛称まるびぃ(由来は「丸い美術館」)。
もと金沢大学教育学部附属中学校・小学校・幼稚園があった場所に、2004年10月9日に開館された。金沢市でもっとも観光客を集める兼六園の真弓坂口の斜め向かいに当たり、金沢城を復元中の金沢城公園の入口からも近い。また、繁華街の香林坊や片町からも徒歩圏内にある観光都市の中心部に立地した美術館。周囲には、石川近代文学館、石川県立美術館、石川県立歴史博物館などテーマの異なる芸術関連施設があり、こうした資源の集積がはかられている。
初代館長は金沢市出身で米国に渡りインディアナポリス美術館東洋部長、シカゴ美術館東洋部長などを歴任してきた蓑豊が就任し、現在は金沢市助役を兼務している。
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[編集] 建築
建物は地上1階、地下1階建て。芝生の敷地中央にあり、円形総ガラス張りで正面といえる面がなく、逆に言えば全てが正面といえる。兼六園方面、香林坊方面、柿木畠方面等どの方向からも入場できる上に、無料入場できる範囲を広く取っており、多数の作品を無料で鑑賞することができる(有料エリアは中央の正方形状の部分であり、入口は兼六園側になっている)。
各展示室は現代美術の展示に適した白い壁面の空間(ホワイトキューブ)であり、個々の展示室はそれぞれ独立した立方体として円形の館内に配置されている。このため一応展覧会ごとに順路は決められているものの、鑑賞者はどれでも好きな展示室からランダムに見ていくことが可能であるとされている。 建築設計競技で選ばれた設計者の妹島和世と西沢立衛(SANAA)は、開館後に実際に展示を行う学芸員より、世界中の美術館の展示室をモデルに正方形や長方形、円形などさまざまなタイプの理想的な展示室の提案を受けた。それらの展示室を集落のようにおのおの独立させて配置し、天井と円形のガラスの外壁とで覆っている。
平面図からは迷路や村落のように見え、実際に自分の現在位置を把握しにくい館内だが、外壁同様各所にガラスが多用されているために館内の見通しが非常に利き、中央の有料エリアなどからでも建物外部の公園や道路を見ることができるため、閉塞感に襲われることはない。無料エリアの1階と地下1階には市民ギャラリーがあり、市内の芸術団体や学校の展覧会、新聞社主催の展覧会などに貸し出されている。また地下1階には劇場や来館者用駐車場、作品搬入口や収蔵庫など美術館の裏方となるスペースが広がっている。
設計者のSANAAは、この建物等によりヴェネツィア・ビエンナーレ第9回国際建築展の最高賞である金獅子賞を受賞している。
[編集] 収蔵作品
収集の方針は、
となっている。(「金沢21世紀美術館収蔵作品図録」より)
所蔵作品には体験型作品や、部屋の空間全体を活かしたインスタレーションが多く、無料入場エリアにはジェームズ・タレルの作品を恒久設置した部屋があるなど、現代美術をいつでも安価に体験できる環境がある。これらは実際にこの美術館のために作家に依頼して制作されたコミッション・ワークである。
収蔵方針に関し、1980年代以降を主としたことは知名度の低い作家ばかりとなる危うさもあるが、将来のための先行投資と見ることもできる。そのほか1990年代以降の国際美術展を騒がせた作家の作品など、最新のさまざまな美術潮流を反映して収集されているため開館前から世界的に美術界では話題になっていた。美術館側も、2003年のヴェネツィア・ビエンナーレにて開館告知パーティーを開催するなど知名度の向上に勤めていた。
1980年代より前の時代、例えばポップアートや印象派の有名作家の優品はすでにほとんどが各国の美術館やコレクションに納まっており、有名作家の作品を買おうとすれば大コレクションの売却を待つか、もしくは今マーケットに出ている二級品を高値で買うか、いずれにしろ身の丈を大きく超えた大金を使うことになる。比較的安価な現在進行形の美術に的を絞って今のうちに買い集める金沢の収集方針は、限られた予算を有効に活かして良いコレクションを購入できる案であると評価できる。また、作品を観覧する金沢周辺の児童学生や産業界や工芸デザインなどにも最新の刺激を与えて、地域社会を活性化させる効果も期待できる。
[編集] 市民に対する活動
各地で地方公共団体の財政難や公立美術館の赤字が問題になる中、当初金沢でも市立の美術館を新しく作ることに対し厳しい目が注がれていた。企画立案は、こうした市民との討論から始まった。同時代の美術を世界から収集し、金沢の工芸やデザインに刺激を与え活性化し、新しいものを生み出す土壌を育成するという新美術館の方針や効果は徐々に理解を得ていった。また収蔵品は1990年代半ばから収集が始められ、その一部は金沢市民芸術村や市内の学校、商店街などでプレオープン事業として公開され、シンポジウムやワークショップも多数開催された。これらは、市民の間に新しい美術館やその収蔵品、活動に対し理解を得るためのものであった。開館後も児童・学生や団体客に対する鑑賞教育活動はひきつづき盛んに行われている。
開館後の第一回展は収蔵品等を一堂に集めた展覧会のほか、無料ゾーンの市民ギャラリーで印象派以降現代に至る名品展が同時開催され、多くの観客を集めることに成功した。また市内の小中学生に対する無料招待は、後日家族連れで再来館するという効果を得た。公立美術館冬の時代と言われ、「ここがコケたら今後50年間は冬の時代が続く」と、各地の美術館から入館者の推移が注目されたが、開館から1年間で地方都市の公立美術館としては驚異的な157万人もの入館者を集めた。平成18年8月に、入館者数250万人を突破した。
[編集] 附属施設
- シアター21 - 演劇、音楽、講演等に使える182名の客席を備えた小ホール。
- プロジェクト工房 - 芸術家が制作を行うためのアトリエ。
- 茶室 - 「松涛庵」、「山宇亭」と命名された二つの茶室。