酸性紙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
酸性紙(さんせいし)は、製造過程で硫酸アルミニウム等を用いて製造された酸性の紙。
紙にインクを付着させるとインクが滲んでしまうため、活字や図画などを印刷するには向かなかった。しかしそれを解決するため、紙に滲み止め(サイズ剤)が塗布されるようになった。この滲み止めはロジンなどが用いられて、これを定着させるために硫酸アルミニウムが用いられた。硫酸アルミニウムが水分と反応して酸を生じ、酸性になることから酸性紙と呼ばれる。硫酸アルミニウムは紙を構成する繊維であるセルロースを徐々に加水分解する作用を持っており長い時間を経過すると最終的に紙が崩壊し、紙としての機能を果たせなくなる。
酸性紙はヨーロッパでの工業化に伴う紙の大量生産技術が開発された1850年代から大量に製造されるようになり、20世紀に入ってから紙の大部分がそれまで主であった植物の繊維から製造していた紙は木材のパルプから作り出した酸性紙へと取って代わった。しかし酸性紙は前述のように劣化が起こりやすいため、製造から50年~100年程経過した酸性紙が崩壊してしまう。この問題は本を大量に保管する図書館で特に顕著で、1970年代頃からアメリカやヨーロッパ諸国を中心に社会問題になり始めた。酸性紙に塩基性のガスを噴出し、中性紙へとする作業も行われるようになったが、作業の効率に限界があるため後回しにされたものが次々と崩壊している。
これらの問題を解決すべく、酸性紙の崩壊が社会問題化してきた1970年代に中性や塩基性の滲み止めを塗布して製造した中性または塩基性の紙である中性紙が広く用いられ始めた。中性紙は酸性紙と違い劣化が少なく、50年~100年程度の寿命であった酸性紙に比べ、飛躍的に長い年数を保持できるとされているため、今日では書籍や重要度の高い資料へ使用されている紙は多くが中性紙である。しかし酸性紙は中性紙に比べ長く製造されてきた紙であるため廉価に製造できることから、新聞や雑誌などの長期間の保存をあまり必要としないものでは酸性紙が多く使用されている。
酸性紙は硫酸イオンを含むため燃焼させると繊維が炭化し、黒色の炭化物が残る。