証人喚問
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証人喚問(しょうにんかんもん)は国会の各議院の国政調査権に基づいて、証人を喚問すること。証人喚問というと、普通は国会の証人喚問のことを指す。
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[編集] 概説
憲法62条では、「国会の各議院は、議案等の審査及びその他国政に関する調査のため、証人を喚問し、その証言を求めることができる」としている(議院の国政調査権)。この証人喚問権は各議院の権限であるが、各議院規則では、委員会にその権限を行使させることとなっている(衆議院規則第53条、参議院規則182条第2項)。
証人喚問に関する手続きについては、各議院規則(参議院規則第54条、第257条、参議院規則第182条~第185条)に定められているが、証言義務の強制手段については議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(「議院証言法」、昭和22年法律第225号)に定められている。
出頭した証人には、「議院に出頭する証人等の旅費及び日当に関する法律」により、原則として旅費及び日当が支給される。ただし、証人が国会議員やその秘書、国会職員、各議院の議長が協議して定める法人の役員・職員の場合は支給されない(同法第1条)。
議院証言法により証人は、喚問の始めに宣誓を行う。喚問中は証言の拒否が禁止され、真実を述べなければならず、嘘をついた場合は偽証罪で訴追される(刑法169条ではなく議院証言法6条)。ただし、証言によって自身或いはその周囲が刑事訴追や有罪判決を受ける恐れがある場合などは証言を拒否することもできる。かつては、喚問終了時に委員長より控室内もしくは20分以内に国会へ再出頭出来る場所に待機するよう求められたこともあった。
喚問のスタイルとして、1人の証人に対して2時間程度の喚問が行われるのが基本的だが、複数の証人が同時に喚問を受ける場合もある。1976年に発覚したロッキード事件では、複数の証人を同時に呼び対決喚問させた。
ロッキード事件の証人喚問では、当時の国際興業社主であった小佐野賢治が喚問をうけ、証言拒否を避けつつ質問に対する本質的解答をしない「記憶にございません」という発言を連発し、当時の流行語となった。
1979年に発覚したダグラス・グラマン事件の証人喚問では、証人として出頭した海部八郎がペンを震わせながら宣誓書へ署名する姿など、非常に生々しい中継映像が注目を集めていた。ロッキード事件に関し疑惑を持たれ、証人喚問を受けた一人である中曽根康弘は、自身の喚問の際、喚問中のテレビ撮影を証人を晒し者にするとして人権上問題として訴え(日本の裁判では裁判中継を画像や動画で記録することは禁止されている)、自民党がこれを受けて撮影の禁止を主張するようになる。
1988年、リクルート事件が発生すると、自民党は喚問中の撮影禁止を条件に証人喚問を受け入れると野党に提案し、共産党以外はこの条件を受け入れたため、同年の第113回国会で議院証言法が改められ、喚問中のテレビカメラによる撮影や、カメラマンによる写真撮影が一切禁止されるようになった(当時の議院証言法第五条の三)。
この後、証人喚問が開始される直前には、議長によりカメラマンが退去させられる姿やカメラを天井に向ける姿が映し出され、テレビ中継では、喚問前に撮影された映像からの静止画面と音声だけの中継、という形式が定着する。
1993年にテレビ朝日報道局長の椿貞良が、民放連の会合で「非自民政権発足の手助けになるような放送をした」と発言(椿事件)し、放送法違反が疑われた際に行われた証人喚問でも、静止画による撮影のみが行われた。
しかし、汚職事件追求の過程での撮影禁止は世論の批判を招き、さらに、「映像が見たい」「本当に証人喚問が行われているのか」という声や、メディアの要望も強かったため、10年後の1998年には再度法律が改正され、撮影について喚問の冒頭に委員が認めた場合には許可されるようになった(証人に対しても事前に意思確認は求められるが、委員の意見が優先される)。
これにより、1999年の商工ローン事件以降、外務省との不適切な関係や汚職を追求された鈴木宗男の証人喚問などは喚問中の撮影が行われている。
[編集] 参考人招致との違い
誤解を招きやすい事柄として『参考人招致』があるが、これは証人喚問とは異なるもので、「関係者に話を聞かせてもらう」ことを目的としている。虚偽の証言を行ったとしても偽証罪に問われることはなく、撮影も自由である。
[編集] 過去に注目された証人
地位・役職は、喚問当時のもの。
年月日 | 証人 | 地位・役職 | 案件 | 注目された発言 |
---|---|---|---|---|
1976年2月16日 | 小佐野賢治 | 国際興業社主 | ロッキード事件 | 「記憶にございません」を連発 |
1979年2月14日 | 海部八郎 | 日商岩井取締役副社長 | ダグラス・グラマン事件 | |
1979年5月24日 | 松野頼三 | 元自民党総務会長 | ダグラス・グラマン事件 | |
1988年11月21日 | 江副浩正 | 前リクルート会長 | リクルート事件 | |
1989年5月25日 | 中曽根康弘 | 元首相 | リクルート事件 | |
1993年2月17日 | 竹下登 | 元首相 | 佐川急便事件 | |
1993年2月17日 | 小沢一郎 | 元自民党幹事長 | 佐川急便事件 | |
1993年10月25日 | 椿貞良 | 元テレビ朝日報道局長 | 椿事件 | |
1994年6月21日 | 細川護煕 | 前首相 | 佐川急便事件 | |
2001年2月28日 | 村上正邦 | 前自民党参院議員会長 | KSD事件 | 「刑事訴追の恐れがありますので証言を拒否します」を連発 |
2002年3月11日 | 鈴木宗男 | 前衆院議院運営委員長 | 外務省問題 | |
2006年1月17日 | 小嶋進 | ヒューザー社長 | 耐震強度偽装問題 | 「刑事訴追の恐れがありますので証言を拒否します」を連発 |
[編集] 過去に行われた証人喚問
[編集] 日当の内訳
上でも述べたが、証人には「議院に出頭する証人等の旅費及び日当に関する法律」に基づいて、日当が支払われる。内訳は、
- 4時間以上の喚問:24800円
- 4時間未満の喚問:20300円
- 喚問期間中に国会に出頭しない日:1日3000円
- 喚問期間中に宿泊する場合:1泊14800円
- 旅費:原則として鉄道、航空機、自動車、船舶を使うことを前提とする。
このような日当支給には、証人は喚問への出頭が義務付けられており(正当な理由なく休んだ場合は罰せられる)、仕事を休んだ日数だけの給与を補填するという目的がある。
ただし、国会議員やその秘書、国会職員、各議院の議長が協議して定める法人の役員・職員の場合は支給されない。
[編集] 証言拒否事由
- 次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあること。
- 証人自身
- 証人の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は証人とこれらの親族関係があつた者
- 証人の後見人、後見監督人又は保佐人
- 証人を後見人、後見監督人又は保佐人とする者
- 医師、歯科医師、薬剤師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職にある者又はこれらの職にあつた者が業務上知り得た他人の秘密に関すること。ただし本人が承諾した場合は拒むことができない。