葉隠
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「葉隠」(はがくれ)は、江戸時代中期(1716年ごろ)に出された肥前国鍋島藩藩士、山本常朝の武士としての心得について見解を「武士道」という用語で説明した言葉を田代陣基が筆録した記録である。全11巻。
「我が身を主君に奉り、すみやかに死に切って幽霊となりて二六時中主君の御事を嘆き」云々、没我的な主従道徳を鼓吹した。「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」の文言は余りに有名。常に死を意識して自省する態度を説く。同時代に著された大道寺友山『武道初心集』とも共通するところが多い。
当時の儒学の思想とは大きく離れたものであったので藩内でも禁書の扱いをうけたが、徐々に藩士に対する教育の柱として重要視されるようになり、「鍋島論語」とも呼ばれた。明治中期以降、新渡戸稲造によりアメリカ合衆国で出版された英語の書『武士道』が逆輸入紹介され、当時の大和魂など精神主義の風潮が高まると再評価された。
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[編集] 「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」
葉隠の記述の中であまりにも有名な1文であり、葉隠の全体を理解せず、この部分だけ取り出して武士道精神と曲解されあるいは解釈されている事が多い。実際、この1文を曲解解釈された物が軍隊教育に利用され、太平洋戦争中の玉砕や自決を推奨する理由にもなった事実もあり、戦後は軍国主義を推奨した悪書として理解されていた事もあった。 しかし山本常朝自身「我人、生くる事が好きなり(私も人である。生きる事が好きである)」と後述している様に、葉隠は死を美化したり自決を推奨する書物では無い。葉隠の中には嫌な上司からの酒の誘いを丁寧に断る方法や、部下の失敗を上手くフォローする方法等、現代のビジネス書や礼法マニュアルに近い内容の記述が殆どである。また衆道(同性愛)の行い方を説明した記述等、一般に想像されている『武士道』とはかけ離れた内容もある。 戦後、軍国主義を推奨した書物と云う誤解から一時は禁書扱いもされたが、近年では生活に根ざした書物として再評価されている。
[編集] 刊行書
- 徳間書店 全2巻 ISBN 4192421445 ISBN 4192424886
- 角川文庫 ISBN 4043216017
- 岩波文庫 全3巻 ISBN 4003300815 ISBN 4003300823 ISBN 4003300831
[編集] 関連書
- 小池喜明『葉隠 武士と「奉公」』(講談社学術文庫、1999年) ISBN 4061593862
- 山本博文『『葉隠』の武士道 誤解された「死狂い」の思想』(PHP新書、2001年) ISBN 4569619401