翔べ! 必殺うらごろし
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『翔べ! 必殺うらごろし』(とべ! ひっさつ - )は必殺シリーズの第14作目として、朝日放送と京都映画撮影所(現・松竹京都映画株式会社)が制作し、1978年12月8日から1979年5月11日にかけてテレビ朝日系列で放映された時代劇。全23話。
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[編集] 作品内容
本名も分からず、摩訶不思議な力を持つ行者の「先生」を中心に、
記憶喪失の元殺し屋で、生き別れの子供を捜す「おばさん」
人並みはずれた体躯ゆえに女扱いされず、世をすねて、男として生きてきた「若」
江戸で、殺しの斡旋業をしていた「正十」に
熊野権現のお札を売り歩く渡り巫女の「おねむ」らが、
死者の恨みの声を聞き、その恨みを晴らしていく。
[編集] 制作の背景
本作は主題としてオカルトを取り上げ、特に定職を持たぬ放浪者らが、旅先の各地で起こる超常現象の源である市井の怨みを晴らしていくという、必殺シリーズ中でも、珍しいコンセプトで作られている(某大学のオカルト研究会に協力を仰いでいる)。
その斬新過ぎるコンセプトと、準備期間の短さもあってか、視聴率は必殺シリーズ中過去最低となり、一旦はシリーズ打ち切りが決定し、当時、必殺シリーズ最後の作品として予定され、原点回帰した次作の第15作目『必殺仕事人』が制作された経緯がある。
が、決してドラマとしての質は低い訳ではなく、メインライターである野上龍雄の書く脚本は、市原悦子演じる「おばさん」の迫力もあいまって社会の枠から完全に外れたヴァガボンドたちの、この世の条理ではどうしようもしがたい恨みの仕置が描かれている。
その設定故に本作の悪人は、女子供でも躊躇なく惨殺し、その上遺体を焼き払ったり、心中に見えるよう偽装するなど、完全犯罪を仕組もうとする極悪人が多く、それに立ち向かう先生たちが見せる豪快な殺し技(普通の必殺シリーズでは悪人は「暗殺」されるが、本作での悪人は文字通り「惨殺」される)は他の必殺シリーズとは異質のカタルシスを感じさせる。
このチームは、マネージャー役の正十を除いて、全員が出身、本名など一切が不詳である。その正十も、『新・必殺仕置人』、『江戸プロフェッショナル・必殺商売人』で中村主水と組んでいた正八と、同一人物ではないかと思わせる描写が各所にある。
- 必殺フリークで知られる作家の京極夏彦は、自作に出てくるキャラクターである榎木津礼二郎のモデルが、本作の「先生」であることをインタビューで明らかにしている。
- 後年、和田アキ子は過去を振り返る番組に出演した際、「若」役で出演し、ただ、ひたすら殴り殺すシーンが取り上げられた際「やめてよ~」とぼやいていたと言う。(オファーが来た時は「必殺に出られる」と喜んだが、設定が男と間違われる大女で、殺し方も相手をひたすら殴り殺すという話を出演が決まった後に聞き、かなりショックを受けたらしい。が、後の「テレビ探偵団」(TBS)では殺しのシーンをきれいに撮ってくれた事に触れて述懐してもいた)。
ちなみに、撮影中に先生役の中村敦夫が負傷。さらに、おばさん役の市原と若役の和田が病気を患う等、オカルトチックなトラブルが相次いだ。
音楽は平尾昌晃が劇中の担当を離れ、植木等の子である比呂公一が担当している。
[編集] オープニングナレーションについて
本作のオープニングナレーションは、全『必殺シリーズ』中でも異色の物である。
これまでの歴代各シリーズは、全てのオープニングナレーションに、登場人物の写真を陰影処理して来た。これは、各登場人物の表と裏の顔を表現した物であると言える。しかし本作は、先生以外の登場人物-おばさん、若、正十、おねむ-は、オープニングナレーションには一切登場せず、立ち昇る煙と、ひたすら印を結ぶ正面から見た先生の姿のみを映し出すといった、歴代シリーズでも例を見ない物となっている。本作と並ぶ異色のオープニングナレーションとしては、後の第29作『必殺剣劇人』があり、こちらは、かつての無声映画+白黒時代劇を思わせる物となっている。
また、本作のオープニングナレーションは、第5作『必殺必中仕事屋稼業』に続き、二度目の登板となる中村主水役の藤田まことが起用され、第1話から最終回まで藤田のナレーションに変わりはなかったが、一部地方の放送分では、第1話のみ藤田のナレーションではない。
本作は劇中、各回の事件のきっかけを作る「超常現象」を説明するため、野島一郎のナレーションが使用されたが、 一部地方の第1話放送分は、野島によるオープニングナレーションが使用された。映像も、通常の物とは違い、 先生のファイティングポーズを延々と映し出すといった異色な物となっている。
[編集] 殺し技
本作の殺しは太陽を信仰する行者である先生が朝日を浴びる事で超能力を発揮するため、ほとんどが早朝に行われる。むろん夜に「仕事」を実行することが多かった必殺シリーズ中では異例中の異例である。
- 先生…座禅を組み、印を結び、立ち昇る朝日を浴びる事で、毎回の話で起こる事件の被害に遭った死者の最期の状況を知り、痛切な恨みの声を聞く事ができ、その魂と一体化することで、先生の身に超人的な能力が宿る。そして馬にも負けないほどの速さで悪人の居場所に駆けつけ、常に持ち歩いている大日如来を示す梵字が書かれた旗の旗竿で、悪人の急所を突き刺し、心臓を貫く。
- 相手は旗竿に刺し貫かれ、地面や建物などに釘付けにされた状態のまま、倒れることもできずに絶命する。旗竿は木の枝を削って作られたものだが、その先端は人間に刺さるほど鋭く加工されているわけではない。しかし先生が扱うと、突き刺すばかりか槍の如く投げつけて悪人を仕留めたり、刀の一撃を受け止めたり…という凄まじい威力を発揮する。
- 補助的な技として念力を使うこともある。倒れた悪人の両足首を掴み、ハンマー投げの如く悪人をぶん回し、木の幹に頭を叩きつけたり(第4話)、刀を使って斬り殺した事もある。
- おばさん…悪人の通り道に先回りして待ち伏せ、通りがかった所でぼそぼそと話し掛け油断した所を、匕首で急所を刺す。
- 最初に悪人に話し掛けるときは殺気のかけらも感じさせないが、懐に隠し持っている匕首を握った瞬間、本来の殺し屋の本能が目覚め、鋭い身のこなしで相手を一突きで仕留める。刺された瞬間、相手は何が起きたか理解できない表情をしていることもしばしば。
- 刺した後、匕首をえぐり抜いて致命傷を負わせることが多い。普段の姿とはかけ離れた、鬼気迫る表情で悪人に捨て台詞を吐く。
- 若…怪力で、力任せに相手を殴り殺す、蹴り殺す。
- 食らった相手はあまりの力のため、首が180度回った形で崩れ落ちることもあるほど(第1話、第9話など)。この技は「必殺裏返し」というらしい。顔面にフック数発→ボディーブロー猛連打→とどめの一撃、というパターンが多い。
- また、素手で殴る他に、話によっては相手の頭を踏み潰したり、大きな石で頭を潰す、階段を転がり落とす、大樽の中に放り込んで樽ごとエルボーで止めを刺す、鉄拳で肋骨をぶち抜く、アルゼンチンバックブリーカーの体勢から上空に放り投げる、などの技(?)を見せる。
- 演じていた和田の体調不良のため、21、22話は休演、23話(最終回)でも長時間の出演はできず、若は殺しのシーンに参加していない。最終回の悪人3人は先生が一人で片付けることになった。
[編集] キャスト
- 先生 … 中村敦夫
- 若 … 和田アキ子(第21、22話除く)
- 正十 … 火野正平
- おねむ … 鮎川いづみ(現・いずみ)
- ※第1話のエンディングでは「お眠む」と表記。
- おばさん … 市原悦子(第14、16話除く)
- ナレーション
語り …
- オープニング:藤田まこと(第1話のみ、一部地方向けは野島一郎が担当)
- 劇中・エンディング:野島一郎(ABCアナウンサー(当時)。キャストロールに表記なし)
[編集] 主題歌
- 「愛して」
- 作詞・作曲:浜田省吾 編曲:井上鑑 歌:和田アキ子
- 発売:RCAレコード(現・BMG JAPAN 原盤権はホリプロが所持しているため、現在は移籍先であるテイチクエンタテインメントから発売)。
※第1話のみ「やさしく愛して」と表記(一部地方向けに放送されたフィルムのみ)。
原曲は浜田省吾のオリジナル曲「愛を眠らせて」(作詞:三浦徳子)。ちなみに、レギュラー出演者が、番組主題歌を唄うきっかけを作ったのは、この和田が最初である。
(以後、『必殺仕舞人』本田博太郎→『新・必殺仕事人』『必殺まっしぐら!』三田村邦彦→ 『新・必殺仕舞人』西崎みどり(現・緑)→『必殺仕事人III』『必殺仕事人IV』『必殺仕事人V・激闘編』鮎川いずみ→『必殺渡し人』中村雅俊→『必殺仕切人』中条きよし→『必殺仕事人・激突!』藤田まこと に受け継がれて行く)。
[編集] 放映リスト
※内部リンクは出現した超常現象
- 仏像の眼から血の涙が出た
- 突如奥方と芸者の人格が入れ替った
- 突然肌に母の顔が浮かび出た
- 生きてる娘が死んだ自分を見た!
- 母を呼んで寺の鐘は泣いた
- 男にかけた情念で少女は女郎に化身した
- 赤い雪を降らせる怨みの泣き声
- 足の文字は生れたときからあった
- 家具が暴れる恐怖の一夜
- 女は子供を他人の腹に移して死んだ
- 人形が泣いて愛する人を呼んだ
- 木が人を引き寄せて昔を語る
- 手が動く!画家でないのに絵を描いた
- 額の傷が見た!恐怖のあしたを
- 馬が喋べった!あんた信じるか - テレビ岡山(現・岡山放送)がこの話でネットを打ち切り。岡山県ではその次の2話分が放送されなかった。
- 病床で危篤の男が銭湯にいた!
- 美人画から抜け出た女は何処へ?
- 抜けない刀が過去を斬る! - 香川県の瀬戸内海放送が岡山県にエリアを拡大したため、岡山県でのネットを再開。
- 童(わらべ)が近づくと殺人者(ころし)が判る
- 水探しの占い棒が死体を見つけた
- 夜空を飛ぶ女が見た悪の罠
- 死人が知らせた金のありか
- 悪用した催眠術!先生勝てるか
[編集] 関連項目
テレビ朝日系 金曜22時台 | ||
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