死神 (落語)
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『死神』(しにがみ)は古典落語の演目の一つ。原話はグリム童話の『死神の名付親』で、それを歌劇化した『靴直しクリスピノ』を三遊亭圓朝が日本に輸入し翻案したとされている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] あらすじ
何かにつけて金に縁が無く、子供に名前をつける費用すら事欠いている主人公がふと「俺についてるのは貧乏神じゃなくて死神だ」と言うと、何と本物の死神が現れてしまう。仰天する男に死神は「お前に死神の姿が見えるようになる呪いをかけてやる。もし、死神が病人の枕元に座っていたらそいつは駄目。反対に足元に座っていたら助かるから、呪文を唱えて追い払え」と言い、医者になるようアドバイスを与えて消えた。
ある良家の跡取り娘の病を治したことで、医者として有名になった男だが『悪銭身に付かず』ですぐ貧乏に逆戻り。おまけに病人を見れば死神はいつも枕元に・・・とあっという間に以前と変わらぬ状況になってしまう。困っているとさる大店からご隠居の治療を頼まれた。行ってみると死神は枕元にいるが、三千両の現金に目がくらんだ男は死神が居眠りしている間に布団を半回転させ、死神が足元に来たところで呪文を唱えてたたき出してしまう。
大金をもらい、大喜びで家路を急ぐ男は途中で死神に捕まり大量のロウソクが揺らめく洞窟へと案内された。訊くとみんな人間の寿命だという。「じゃあ俺は?」と訊く男に、死神は今にも消えそうなろうそくを指差した。曰く「お前は金に目がくらみ、自分の寿命をご隠居に売り渡したんだ」。ろうそくが消えればその人は死ぬ、パニックになった男は死神から渡されたロウソクを寿命に継ぎ足そうとするが……。
「アァ、消える……」
[編集] 具現化された死と生
「アァ、消える……」と呟いた後、演者は高座にひっくり返り『死』を暗示する。古典落語中、一、二を争うシビアな幕切れは人生のはかなさを鮮やかに描き出した名演出だ。
[編集] サゲのバリエーション
- もっとも標準的なのは「アァ、消える……」と言って演者がひっくり返るものだが、その直後にむっくり起き上がり「おめでとうございます!」などとロウソクの継ぎ足しに成功して生き残るサゲがある。正月や客層など縁起のからむ高座にかけるために三遊亭圓遊が改作したとされる、この場合は「誉れの幇間」とも呼ぶ。
- 上記のサゲから派生した、成功するが死ぬパターンもある。一つは成功するがくしゃみでロウソクを消してしまうパターン。もう一つはつぎ足した後に気が抜け、思わず出したため息で消すパターンである。
- また、ロウソクが消えても生きているパターンもある。ただし、この場合も実際には死んでいるか、まもなく死ぬようなサゲになる。
- 最後のセリフが「消える」となるのは六代目三遊亭圓生から。それまでは「消えた」と言っていた。これは圓生が、死んでしまったら「消えた」とは言えないはずだろう、と考えてアレンジしたとされる。圓生百席(レコード)では倒れるしぐさを見せることが出来ないため、全て死神のせりふにして「消(け)えるよ……消えるよ……消えたぁ」と演じている。
- 七代目立川談志は、自著の中で『死神が、せっかくついた火を意地悪で吹き消してしまう』と言う最悪のパターンを作り出した。
[編集] 呪文のバリエーション
死神から伝授される呪文も演者、演出によりそれぞれ若干ことなる。六代目三遊亭圓生は「アジャラカモクレン、アルジェリア、テケレッツのパッ!」や「アジャラカモクレン、ハイジャック、テケレッツのパッ!」・「アジャラカモクレン、キュウライス、テケレッツのパッ!」といった録音が残っている。他にも文化大革命の頃には「コーエイヘイ」、ロッキード事件の頃は「ピーナッツ」など、その時々の時事ネタにあわせさまざまな呪文が考案されているようである。 また呪文を唱えないバージョンも存在している。
[編集] その他
- 伊集院光が落語家を目指すきっかけとなった噺である(テレビ朝日系列「爆笑問題の検索ちゃん」で本人が告白)。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書籍
「落語『死神』の世界」 西本晃二著 青蛙房刊 ISBN 4-7905-0305-4