服装の乱れ
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服装の乱れ(ふくそうのみだれ)とは、人間の既存社会集団の規範に対して適合性が不十分な小集団または個人の服装の状態を指す言葉である。若者世代の服装に対し使用されることが多いのだが、そのような服装をしている本人が、必ずしも自らの服装を「乱れている」と認識しているとは限らない。
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[編集] 教育現場の服装の乱れ
主に中学校・高等学校において、生徒が制服に元々の型(デザイン)と異なる意匠を施したり、もしくはそのような型の衣服を着用するのが「服装の乱れ」とされている。どこまでを「乱れ」とみなすのかは、その学校の校則はもちろんのことだが、生徒を指導する立場にある教職員や、学校が今まで築いた伝統などの影響も左右するため、その学校ごとに異なっていて、多くの場合はケースバイケースである。
制服を改造する理由としては、単なる自己顕示欲によるものの他に、自らが華美な衣服を着用することで学校の規範に属しているのではなく、特に親密な友人同士のような自己の所属する集団の規範に属することを、他人に対して表現するためなど様々な説明がなされている。
一般的には、教育困難校と評される学校の生徒に多く・中堅校と評される学校の半数近くの生徒に見られ、逆に進学校や難関校と評される学校の生徒にはその傾向は少ないと言われている。しかし、生活指導が徹底している教育困難校や中堅校では服装の乱れが滅多なことでは見られない場合もある。また、進学校や難関校では生活指導が緩かったり、そもそも服装を定めた校則自体が皆無な学校もあり、むしろ教育困難校や中堅校並(もしくはそれ以上に)服装が乱れている場合もある。さらに、どのような学校においても、授業を終えて家に帰ることなく校外に赴く生徒の中には、校外ゆえに教職員の生活指導が緩くなるのを見通して、あえて服装を乱す生徒もいるために、生活指導が困難であるという学校も少なくない。
[編集] 服装の乱れとされる例
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- 校則に定められた形の通りに締めない。
- 装着時に第二ボタンまでボタンを止めるのみできちんと上まで締めない。
- 装着時にワイシャツのボタンを第二ボタンから下まで、ボタンを外して着用。
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- ブレザーやワイシャツやブラウスの袖を折る。
- ブレザーの場合は第二ボタンから下は外して着用。シャツの場合は胸元の第三ボタン辺りまで開けて着用。
- カラーシャツなど指定外のシャツを着用。
- ワイシャツをスラックスの中に入れない。または腰でダブ付かせる(下記の腰穿きでベルト位置が不自然に低いのを隠すため)。
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- 尻まで下げてバギーパンツ風にダブ付かせる腰穿き・胴長短足スタイル。
- 丈が長くとも裾を折らずに、裾上げもせずに履く。
- 夏服着用時には脛が見えるくらいに裾を折る。
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- 丈を指定より短くする。中にはパンツが見えるすれすれまで丈を短くする者もいる。
- 下にはスカートよりも丈の長いハーフパンツ、またはスウェットのボトムを着用する。(近年は服装の乱れの中で、このスタイルを最も問題視する声が多い。)
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- 冬服着用期間中に、制式外のセーターやカーディガン、コートを着用。
- セーターの袖をブレザーから出して着用。
- セーターをワイシャツの上に着用せず腰に巻く。
- 全般
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- 短ランや長ランなど、標準型以外の制服を着用する。
- 校章などが入った指定のものではなく市販品を使用。
- 革靴の踵を潰し、スリッパ状にして履く。
- 自分が通う学校とは別の学校のものを使用。
- ルーズソックスが流行した当時は、ルーズソックス自体を服装の乱れとして挙げる声があった。
- 指定の型の靴下を履かずに裸足で、またはスニーカーソックスを履いてから靴を履く。
[編集] 社会人における服装の乱れ
社会人の間でも「服装の乱れ」が課題として取り上げられることもある。問題にされるのは、ネクタイの締め方やカッターシャツのアイロンのかけ状態などである。
1990年頃からは、ビジネスカジュアルが取り入れられ、カジュアルな服装で勤務する日を設ける企業も増えたが、多くの企業ではジーンズやトレーナーといったラフな服装は認められていない。また、大事な商談ではスーツにネクタイを期待される場合がまだまだ多く、企業の中にはビジネスカジュアル自体が服装の乱れとみなされる場合もある。近年はクールビズやウォームビズが推奨され、導入する企業が増加の傾向にあるものの、夏期においても冬期においても、どのあたりまでが許容範囲とみなされるのか、模索している企業も少なくない。
近年は前述「教育現場の服装の乱れ」を社会人になってもそのまま続け、スーツのスラックスを尻で穿いている男性も見受けられる。
[編集] 服装の乱れは心の乱れ
1980年代頃から、服装の乱れは心の乱れ(ふくそうのみだれは こころのみだれ)という標語を掲げて、服装についての指導をしようとする機運も見られる。その背景には、1980年代以前の中高生に見られた「服装の乱れ」が、思春期の入り口で意図的に大人びた服装をしたい不安定な心境を表したものとみなすものの、彼らの心境の隙を衝いた不良集団による勧誘が後を絶たないと考えられていたことがある。
この標語の使用には否定的意見も多く出された。代表的な反論としては、以下のようなものがある。
- 「服装の乱れ」によって「心の乱れ」が生じているのか、はたまた「心の乱れ」によって「服装の乱れ」が生じているのか、という2つの事象の因果関係が明確でない
- 服装を取り締まることが、指導対象となる人の「心の乱れ」に対しての「心のケア」に役立つのか?
- そもそも「心の乱れ」とは何を指すのかが不明
[編集] 服装の乱れに対して過去に学校側がとった対策の事例 (中学校)
1980年代、男子生徒の制服ズボン改造に対する対策として、男子生徒に登校時にズボンを脱がせ、上はワイシャツや学生服を着た状態、下は短パンで下校時まで過ごさせた学校があった。これにより、ズボンの改造をする生徒がほぼ皆無となり一定の効果を得られたようである。また、短パンで過ごすことで寒さに対する鍛錬にもなったようで一石二鳥となった。 また、男子生徒の制服を半ズボンにして、子供っぽく見せる事で生徒に「自分はまだ子供」という自覚を持たせ、非行防止につなげる事を検討した学校もいくつかあったが、いずれも「男子の半ズボンは小学校卒業まで」という通念を覆すには至らず、実現した学校は皆無であった。過去に男子生徒に半ズボンを制服として穿かせたのは、首都圏の数校の私立校のみであった。