新大久保駅乗客転落事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
新大久保駅乗客転落事故(しんおおくぼえきじょうきゃくてんらくじこ)は、2001年(平成13年)1月26日の19時14分頃に東日本旅客鉄道(JR東日本)山手線新大久保駅で発生した鉄道人身障害事故である。
目次 |
[編集] 事故概要
山手線新大久保駅で泥酔した男性がホームから線路に転落し、その男性を助けようとして2名の男性がホームから線路に飛び降りたが、3名とも折から進入してきた電車にひかれ死亡した。
救助を試みて死亡したうちの1人が韓国人留学生であったことから、この事故は日本国内のマスメディアはもとより、韓国国内でも「美談」として大々的に報じられた。また、事故の犠牲者を追悼するプレートが新大久保駅のホームと改札の間の階段に設置された。なおその後救助を行った2名の遺族にも感謝状を進呈した。
通常JRでは人身事故を起こした人間に対し、損害賠償を請求しているが、この事故では最初に転落した者に加えて救出しようとした2人にも請求しようとしたところ、JRに非難の抗議が殺到し、結局2人には請求せず、最初の転落者の家族にのみ請求した。
また、最初に転落した男性が駅構内の売店で購入した酒を飲んでいたことが判明し、JR東日本は通勤圏の一部駅構内での酒類の販売を取りやめた(現在は再開している)。
[編集] 対策
ホームから人が転落し(あるいは自殺を目的として故意に飛び込み)、列車にひかれて死亡する事故はそれまでにもしばしば発生していたが、本事故がマスメディアで大きく報道されたことで、ホームからの転落事故に対する社会的関心が高まった。そのため、以下のような対策が施された。
[編集] 列車非常停止ボタンの整備
現在鉄道事業者では、線路への転落事故をはじめホーム上で危険な事象を目撃した場合は、「(列車の運転士が人間を確認してから車両が完全に停車するまでの制動距離は長いため、)危険であるから線路には絶対下りてはならず、とにかく列車および駅係員に知らせることを優先するよう」にと呼びかけている。この新大久保駅の事故を契機として、ホームに設置される「列車非常停止ボタン」の使用方法を積極的に車内広告やテレビCMでPRしたり、ボタンの設置場所が明確にわかるよう、柱などにマーキングが施された。また、ボタンそのものを増設することも行われた。
しかし、マスコミや一般市民へのボタンの認知度はまだ低く、2006年には同駅で転落した女性を助けようと韓国人留学生が飛び降りてしまった。幸い怪我はなかった。この事件に関してマスコミでは列車非常停止ボタンについて言及せず、ホームにいた日本人は何もしていなかったとして激しく非難した。だが、実際にはボタンが押されていたようである。新聞の投書欄等にも「日本人も飛び降り、助けるべきであった」とあったことからも、認知度の低さがわかる。
余談だが、「飛び降りたのは『韓国人留学生のみ』ではなく『留学生含む数人』であり、更には報道された留学生は別人」「親韓を掲げるマスコミによる故意の情報操作」という声もある。しかしその真偽は不明である。ともあれ、マスコミが報じるべきは美談としての事件より、こういう場合の「ボタンを押す。線路に降りない」という対処法であることはまず間違いない。
なお倫理的価値観は別にして、命の危険を顧みずに飛び降りて助ける法的義務は、一般私人はもとより鉄道職員や警察官にも当然に科されてはいない。鉄道事業者が非常停止ボタンを操作するよう告知するのも、そのためである。各方面からの飛び降りないことへの安易な批判は省みられる必要がある。
[編集] その他の設備の整備
本事故においては、ホームの下に隠れられるような空間が無かったことも問題視された。そのため、ホーム下を部分的にくり抜き、転落時に逃げ込むための空間を設けた例もある。
また、全国の鉄道事業者の多くの駅に落下物検知装置の設置、ホーム側面への非常用ステップの設置などが実施された。
この他、特に高い効果を持つ安全対策として、プラットホーム安全対策ホームドアの普及を促す声が高まっている。しかし、これは設置費用のほかに、ドア配置統一、停車位置制御の問題もある。
[編集] 類似の事故
1975年(昭和50年)12月27日 15時50分ごろ、山陽本線須磨駅において新快速の通過待避をしていた各駅停車の車掌が、新快速の通過する本線にホームから転落した泥酔の老人を救おうとホームから線路に飛び降りたが、結局老人とともに新快速にひかれて死亡する事故が起こった。車掌は入社2年目であり、この勇気を称えて須磨駅に碑が立てられている。