受信機
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受信機(じゅしんき)は通信機のうち、信号を受け取り、復調して情報を復元する装置のことである。また、信号の送り出し側は送信機である。レシーバー、チューナー、RXとも呼ばれる。
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[編集] 受信機の構成
受信機の基本機能は、入力信号を選択後、適切なレベルまで増幅して復調するものである。 図はラジオ放送、短波放送、アマチュア無線の通信などを受信するための受信機の構成例で、真空管を用いた時代に「高1中2」として知られたものである。古い技術であるが概念を理解するのには有効である。
- 高周波増幅器:入力された信号を選択および増幅する低雑音増幅器である。信号が微弱な場合、初段に増幅段を設けると信号対雑音比(SN比)の良い装置にすることが可能である。現在ではUHF帯などでは低雑音のHEMTなどのトランジスタが用いられる。UHF帯以上の受信機では、LNA(Low Noise Amplifier)と呼ばれることが多い。入力信号が十分大きい場合や要求仕様によっては、フロントエンドの高周波増幅段は省略可能である。高周波増幅器の隠れた役目として、ローカルリークと呼ばれるアンテナからの不要電波放射(局部発振器(ローカル)→ミキサ→高周波増幅器→アンテナ)を押さえる役目がある。増幅器は順方向にはゲインがあるが、逆方向に対してはマイナスゲインとなり、逆流してくるローカル信号を減衰させる。
- 周波数変換器:局部発振器と混合器(ミキサまたはミクサとも言う)から構成される。受信信号を、その周波数に関係なく一定の低い周波数(~中間周波数。図の例の中波帯(531~1602kHz)の場合は455kHzの中間周波数が多い)に変換(ヘテロダイン検波)する回路である。ここで周波数変換する理由は、以下の通りであり、受信回路の中でも特に重要な意味を持つ。
- 受信対象信号の周波数のままで復調可能なレベルまで増幅しようとすると正帰還が生じて発振するなど増幅器が不安定になりやすい。
- 受信対象信号の以外の信号を狭帯域のフィルタで減衰させないと、混信や後段アンプの飽和が発生してしまうが、高選択度の狭帯域フィルタの同調周波数を可変するのは容易でないこと、低い周波数の方が高選択度の狭帯域フィルタ作りやすいことから、一定の低い周波数(=中間周波数)の信号に変換する必要がある。
- 後段の受信処理回路は、ある程度低い周波数の方が作りやすいため、一定の低い周波数(=中間周波数)に変換する必要がある。
これをスーパーヘテロダイン(略称・スーパーまたはシングルスーパー、但し古い言い方)方式と呼ぶ。Edwin Armstrong によって発明された。周波数は、入力信号と局部発振器出力の差の周波数に変換される(最近では中間周波数が受信周波数よりも高い場合もあり、その場合には和の周波数という構成もありうる)。なお、スーパーヘテロダイン方式では、受信対象の周波数以外にイメージ周波数も受信してしまう(イメージ混信)欠点があることに注意したい。イメージ周波数の信号を受信しないためには、ミキサに入る前に、フィルタでイメージ周波数を十分に減衰させる必要があるが、最近の受信機、例えば、Bluetoothの受信回路ではイメージリジェクション型のミキサが使われるようになってきており、その必要が無くなってきている。
- 中間周波増幅器:この増幅器の目的は、(1)復調可能なレベルまでの増幅、(2)隣接した周波数の不要信号を除去するためのフィルタ機能、(3)入力信号の強弱によって増幅率を可変して復調器への入力信号レベルを一定に保つ自動ゲイン制御(AGC)機能などである。
- 復調器:受信する通信方式によって必要な復調機能を備える。ここでは包絡線検波器を仮定した。
- 低周波増幅器:検波器の出力である可聴周波数信号をスピーカーを鳴らせるレベルまで電力増幅する。
スーパーヘテロダイン以外の回路方式には次のものがある。無線分野で現在の主流は、ダブルスーパーヘテロダイン方式とダイレクトコンバージョン方式である。AM、FM受信機はスーパーへテロダイン方式がいまでも主流である。
- ストレート: 受信した高周波信号を周波数変換を行わないで増幅後あるいは増幅せずに検波器に入力し、低周波信号を得るもの。実用上はほとんど用いられない。電子工作キットのAMラジオなどに現在でも見られる。
- レフレックス: 高周波信号を1個の真空管・トランジスタで増幅し、検波したのち、再び同じ真空管・トランジスタの入力に戻して低周波の増幅を行うもの。真空管やトランジスタが高価であった時代の受信機によく見られた構成。電子工作キットのAMラジオなどには現在でも見られる。
- 再生式: 高周波信号の一部を入力側に戻す(正帰還)方式。簡単な回路で高い増幅度が得られる一方で、再生の帰還量が強すぎると発振してしまう欠点がある。意図的に発振を断続(クエンチング)させることで帰還量の調整を不要とした方式があり、超再生と呼ばれる。現在ではほとんど用いられていない。高周波増幅段を持たない構成(並三、並四など)は、帰還量過大で発振した場合に信号がアンテナから電波として放出される―不要輻射となるので、第二次大戦後は製造販売が禁止された。
- ダブルスーパーヘテロダイン: スーパーヘテロダインのIFアンプの後に、もう一つミキサと局発を用意して、もう一回周波数変換する方式である。最初のIFを1stIF、局発を1stローカル、二番目のIFを2ndIF、局発を2ndローカルという。二回に分けて周波数を落としていくため1stIF周波数を高くでき、イメージ周波数を離すことが出来るため、簡単なRFフィルタでイメージ妨害に強くできるメリットがある。無線機等で現在、もっとも普及している方式である。なお、理屈上はミキサと局発は数を増やせば増やすほどイメージ妨害を回避でき、段数によってトリプル(3回)、クワドラプル(4回)のものもあるが、実際はRFフィルタで十分にイメージを落とすことが可能であるため、現在では非常に特殊である。ペンタプル(5回)はまだ現れていない。2ndIFは、かつては455kHzが使われることが多かったが、最近は、PLLの基準発振器と2ndローカルの発振器を共用するために450kHzが使われる場合もある。また、2ndIFフィルタをIC内部のアクティブフィルタで構成する場合もあり、この場合はさらに低い周波数が使われる。
- ダイレクト・コンバージョン: 局部発振器の周波数を受信周波数とほぼ同一にして、中間周波数を用いず可聴周波数を直接得る方式。古くは、単側波帯(SSB)、振幅変調による電信(CW)の受信に用いられるのみであったが、大きくて高価なIFフィルタを無くせるため、近年は携帯電話での採用が盛んである。
[編集] 古典的な受信機の例
- ラジオ受信機(ラジオ)
- 下図は真空管時代(1955年頃)の5球スーパーラジオ(初期のミニアチュア(MT)管を使用したトランス付きラジオ)の構成である。
- 5球スーパーラジオの真空管例
用途 | ST管 | GT管(*) | MT管トランス付き | MT管トランスレス | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
高周波増幅 | (UZ)6D6 | 6SK7 | 6BA6 6BD6 |
(**) | 高級機6球スーパのみ |
中間周波数変換 | 6WC5 | 6SA7 | 6BE6 | 12BE6 | |
中間周波数増幅 | (UZ)6D6 | 6SK7 | 6BA6 6BD6 |
12BA6 | |
検波・低周波増幅 | 6ZDH3A | 6SQ7 | 6AV6 | 12AV6 | |
電力増幅 | (UZ)42 6ZP1 |
6F6 6V6 |
6AR5 6AQ5 |
30A5 35C5 |
|
整流 | (KX)80 (KX)12F |
6X5 5Y3 |
5MK9 6X4 |
35W4 |
- (*)日本ではGT管は一般的でなかった。
- (**)MT管トランスレスは1958年頃からの真空管末期の製品としてコストダウンが優先されたためと、回路上の制約から高周波増幅はほとんどない。
- テレビ受信機(テレビ受像機あるいは単にテレビ)
- テレビ放送を受信するための受信機。ブラウン管、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの表示装置と、ラジオのような音声受信機能などをもつ。
[編集] ゼネラルカバレッジ受信機(ワイドバンドレシーバ)
1980年代以降、業務用無線受信用途、アマチュア無線受信用途などに、局部発振器としてアナログ式発振回路ではなく位相同期回路(PLLシンセサイザ)を用い、中間周波数(IF)を巧く設定することにより、長波から極超短波までを機械的な切り換え無しに受信する方式が主流となった。これをゼネラルカバレッジ(ゼネカバ)受信機、または、ワイドバンドレシーバという(ゼネカバは受信範囲が短波までの物に対して使われ、また戦前は同種のものが「オールウェーブ」と呼ばれていた)。
ケンウッドのRZ-1、八重洲無線のFRG-965はCATV用チューナを転用している。信和通信機のSR001(受信周波数範囲:25~1000MHz)は、局部発振周波数を約1~2GHzにして1stIFをパーソナル無線の周波数付近に取り、パーソナル無線機の受信回路を転用している。この受信機は回路構成上は、長波から受信可能であったが、性能保証できないため、マスクしたと言う裏話がある。
[編集] 新しい方式の受信機
2000年代には、受信した信号を直接、もしくは周波数変換後にアナログ-デジタル変換回路へ入力し、演算処理を行って出力を得るDSP方式も実用化されている。このような受信機をソフトウェア受信機またはソフトウェアラジオ、略称SDR(Software Defined Radio)と言う。
[編集] パソコンを使ったソフトウェア受信機
- アンテナで捉えた受信信号を、パソコンのサウンドカードの扱える周波数までダウンコンバート(周波数変換)した後、パソコンのサウンドカードに入力し、ソフトウェアによって、選局・復調処理をおこなう方式の実験が、三浦一則によっておこなわれている。