偏微分
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偏微分(へんびぶん、Partial derivative,differentiation)とは、多変数の関数に対し、ただ一つの変数のみを動かし、その他の変数を一旦固定して定数と見なして微分すること、またそのようにして得られた微分係数や導関数のことである。言い換えるとこれは、多変数関数に対し、任意の座標における各成分方向への瞬間の増分をしめす関数を与える操作のことである。
偏微分と言っても通常の微分と本質的意味においては何ら変わるものではない。複数の変数から構成された関数において着目する変数に関して微分するとき、他にも変数があるということを念頭に置く必要性があるときにそれを強調する為に特別な微分記号()を用いているのである。
物理学においては波動方程式などの偏微分方程式が重要な役割を演じる。波の形状をある瞬間に観察するときは 時間を止めて、つまり一旦、特定の変数を固定する操作をすることにより位置に対する波の波高値を観察する他、同様に時間に対する波の形状がそのままの形状を保持したまま(振動源が一様な動作の時)移動する様子を解析するなどに偏微分が用いられる。更に振動源が一様な動作のものでない場合は更に多変数の偏微分方程式による波動方程式を解かなくてはならない。群速度等もこれを駆使して解析する。
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[編集] 定義
簡単にするため、 2 変数の場合のみを詳しく述べる。 z = f(x, y) を R2 のある領域上で定義された実数値関数とする。多変数以上の場合は図形的に対応して理解は出来ないので空虚であるが定義づけるものである。
まず、y を任意の値で固定すると、さきの関数は z = f1(x) という一変数関数となる。「一変数関数」と殊更に表現したが、つまり、これは今まで取り扱った通常の関数であることは言うまでもない。このとき、この z = f1(x) に対して極限
が領域 D ⊂ R2 の各点で存在するとき、z は D において x に関して偏微分可能であるといい、この極限を z の x に関する偏微分とよぶ。 fx(x, y) などとも表す。 これは、D の各点 (x, y) における、z の x 方向の傾きを表している。
同様に、x を任意の値で固定してできる z = f2(y) という y についての関数が、ある領域 D に属する y について微分可能なら
を z の y についての偏微分といい、z は D において y について偏微分可能であるという。
なお一般の場合に u = f(x1, x2, ..., xn) の変数 xi (1 ≤ i ≤ n) に関する偏微分または偏導関数 ∂f /∂xi あるいは fxi とは、Rn のある領域において極限
が存在するとき、その極限として得られる D 上の関数のことである。
[編集] 高階偏導関数
一変数の微分に高階の微分が定義できるように、偏微分に関しても偏導関数をさらに偏微分することで高階の偏導関数を定義することができる。
たとえば 2 変数の関数 f(x, y) が偏微分可能で、さらに二つの偏導関数 fx , fy が偏微分可能なとき、f の二階の偏導関数は
- fxx , fxy , fyx , fyy
の 4 つが定義できる。ここで、二つの偏導関数 fxy , fyx は一般には異なる関数であるが、実用上は一致する。たとえば、これらの偏導関数が連続(つまりC2級)であるならば、両者は一致している。 また、一致しないものとしては、たとえば全平面で定義される関数
が挙げられる。実際このときは fxy(0, 0) ≠fyx(0, 0) となる。
[編集] 全微分
D 上定義された実数値関数 z = f(x, y) が x, y に関して偏微分可能であれば、各成分方向への瞬間の増分はその偏微分で与えられるので z の増分 dz は、大抵の場合(たとえば偏導関数が連続なとき)には
と表せる。このように各変数方向への偏微分と無限小の積を全ての変数について加えたものを z の全微分(Total derivative,differentiation)という。これは曲面 z = f(x, y) の点 (x, y) における余接平面を表す。
また、全ての変数の微分増分に対する増分の総量を示すことになる。 z が十分滑らかであれば、さらに dz を全微分して
となり、以下同様にして一般に二項係数を用いて
となることがわかる。これを以下のように略記する。
変数の数が増えても同様で、n 変数のとき十分滑らかな関数 u = f(x1, x2, ..., xn) の全微分は
であり、高階の全微分は
と書くことができる。なお、一変数の全微分は特に微分といいdy=fdxはdxに対する増分dyを指し、微分係数とは異なる概念である。
[編集] 多変数の合成関数の微分公式・変数変換
合成関数に関する偏微分には連鎖律 (chain rule) が成り立つ。
で定まる関数 z = f(x, y) = F(t) は、t の一変数関数である。これの微分は
で与えられる。これを、連鎖律の公式という。
一般に u = f(x1, x2, ..., xn), xi = xi(t) (1 ≤ i ≤ n) が t について微分可能ならば
となる。
また、変数 u = (u1, u2, ..., un) を
- ui = ui(t) (1 ≤ i ≤ n)
により変数 t = (t1, t2, ..., tn) に変数変換したときの関数行列式(ヤコビアン)を D(u)/D(t) と書くことにする。 さらに t を
- ti = ti(x) (1 ≤ i ≤ n)
により x = (x1, x2, ..., xn) に変数変換したとき次が成り立つ:
特に u = x のとき
が成り立つ。n = 1 のときは合成関数の微分公式 du /dx = du /dt · dt /dx であるからこれもその一般化になっている。
[編集] 多変数の平均値定理・テイラーの定理
一変数の場合を利用すると多変数の場合にもテイラーの公式を拡張することができる。 Rn の領域 D で定義された十分滑らかな関数 u = f(x) を考える。D の任意の点 x = (x1, x2, ..., xn) とその十分近くの点 x + h ∈ D (h = (h1, h2, ..., hn))に対し、F(t) = f(x + th) (t ∈ [0, 1]) は t に関して十分滑らかなのでテイラーの公式より
となる 0 < θ < 1 が存在する。ここで、
を代入して t = 1 とすると
を得る。これが多変数のテイラーの公式である。特に m = 1 のときの式は
で、これが多変数の場合の平均値の定理である。
[編集] 関連項目
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