交響曲第5番 (ブルックナー)
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アントン・ブルックナーの交響曲第5番変ロ長調は1875年から1878年にかけて作曲された。初演は1894年4月8日グラーツにおいてフランツ・シャルクの指揮による。但し、シャルクによる改竄版による。
金管楽器によるコラールの頻出やフーガをはじめとした厳格な対位法的手法が目立つ。作曲者自身はこの交響曲を「対位法的」交響曲あるいは「幻想風」交響曲と呼んでいた(ほかに、国ごとに「信仰告白」「ゴチック風」「悲劇的」「ピッツィカート交響曲」などの愛称もある)。構築性とフィナーレの力強さにおいて、交響曲第8番と並び立つ傑作という評価もある。
ブルックナーの交響曲としては珍しく、改訂されていない。したがって、「原典版」であるハース版(1935年)、ノヴァーク版(1951年)には誤植の修正程度の違いしかない。
原典版の初演は、1935年10月20日ミュンヘン ジークムント・フォン・ハウゼッガー指揮でハース版により行われたものである。
演奏時間約75分。
目次 |
[編集] 献呈
カール・リッター・フォン・シュトレマイアー(ウィーン音楽大学の講師就任を働きかけてくれた文部大臣)
[編集] 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バス・テューバ、ティンパニ、弦五部。
[編集] 楽曲の構成
[編集] 第1楽章 アダージョ - アレグロ
変ロ長調。2/2拍子。序奏付き、三つの主題を持つソナタ形式。序奏は低弦のピッツィカートで始まる。ヴィオラ、ヴァイオリンが弱音で入ってくると、突如として金管のコラールが吹き上がる。律動的になって高揚し、収まったところで主部にはいる。高弦のトレモロの中をヴィオラとチェロが特徴的な第1主題を出す。この主題は全管弦楽に受け取られ、魅惑的な転調を見せる。第2主題は弦によるやや沈んだ表情のもの、第3主題は牧歌的で繰り返しながら高まっていく。約20分。
[編集] 第2楽章 アダージョ
ニ短調。2/2拍子。ABABA+コーダの形式をとる。ただし、各部は再現のたびに展開される。Aは弦の三連音のピチカートに乗ってオーボエが物寂しい主題を吹く。この主題は全曲を統一するものである。Bは弦楽合奏による深い趣をたたえた美しい旋律。コーダは、Aの主題をホルン、オーボエ、フルートが順に奏してあっさりと終わるため、ブルックナーの緩徐楽章としては小粒な印象を与えるが、約17分かかる。
[編集] 第3楽章 スケルツォ モルト・ヴィヴァーチェ
ニ短調。3/4拍子。複合三部形式。主部は、せわしなく駆り立てるような第1スケルツォとヘ長調でテンポを落としたレントラー風の第2スケルツォが交錯する。中間部は変ロ長調。ホルンの嬰へ音に導かれて木管が愛らしい旋律を奏でる。約13分。
[編集] 第4楽章 アダージョ - アレグロ・モデラート
変ロ長調。2/2拍子。序奏付きのソナタ形式にフーガが組み込まれている。序奏は、第1楽章の序奏の再現で始まる。クラリネットがフィナーレ主題の動機を奏し、第1楽章第1主題、第2楽章第1主題が回想される。この手法は、ベートーヴェンの第9交響曲のフィナーレに通じるもの。その後チェロとコントラバスが第1主題を決然と出して主部が始まり、フーガ的に進行する。全休止の後ヴァイオリンが第2主題を軽快に出す。再び全休止の後、金管が荘重なコラールを奏する。展開部では、コラール主題に基づくフーガ、これに第1主題が加わって二重フーガとなる。コーダでは第1楽章第1主題の動機を繰り返して高揚し、フィナーレの第1主題の動機、コラール主題が全管弦楽で強奏され、圧倒的な頂点を形作る。最後に第1楽章第1主題で全曲を閉じる。約25分。
[編集] シャルク改訂版
初演者のフランツ・シャルクは、初演時にブルックナーのスコアに大幅な改訂を施している。第3楽章や第4楽章を大きくカットし、第4楽章には別働隊の金管やシンバル、トライアングルを補強している。さらに目立つのはオーケストレーションの変更である。シャルクの改訂は、長大かつ難解なこの交響曲を普及させるためという「好意的」な目的であったが、その改訂はブルックナーの管弦楽法とはいささか異なり構造上の難点も挙げられ、現在では「無残な改作」とされ弟子たちによる改訂の中でも、このシャルク改訂版の第5番は最も悪名高い。
その上にグスタフ・マーラーがさらなる手を加えたが、“マーラー版第5番”のスコアは現在残っていない。更なる200小節のカットと、第4楽章を自らが再作曲したものに置き換えたという説がある。
ブルックナーはこの初演を病気のために欠席しているが、実際この欠席は、シャルクの改訂に対する抗議の気持ちが込められていたとの憶説もある。とはいえブルックナー自身は一様に改訂を許可しており、近年では、この曲も含め弟子たちの改訂は、師の音楽の普及のために誠心誠意尽くしたものと再評価する動きも近年高くなっているが国際ブルックナー協会から出版されるにはまだ至っていない。結局、ブルックナーはこの曲を実際に耳にすることができなかった。
シャルクによる改訂版は1896年(ブルックナーの死の年)に出版され、ハース校訂による第一次全集が出版されるまではほとんど唯一のスコアとして演奏されていた。それでも1950年代まではアメリカを中心に演奏されていたが1970年代以降はほぼシャルク版での演奏はなくなり、現在ではこの改訂版はほとんど演奏されない。録音ではハンス・クナッパーツブッシュが指揮したものが有名である。最近では1998年に、レオン・ボッツタインがこのシャルク改訂版をテラーク社からCDリリースした。