マジックナンバー (プロ野球)
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プロ野球におけるマジックナンバーとは、他の全てのチームに自力優勝の可能性が無くなった時点で、自力優勝するために必要な勝利数である。他のいずれかのチームに自力優勝の可能性がある場合にはマジックナンバーは点灯しない。
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[編集] 概説
自力優勝の可能性について例を挙げて説明しよう。残り試合数がともに60試合である60勝20敗のAチームと40勝40敗のBチームにおいて、直接対決の回数が19試合しかない場合、Aチームは仮に直接対決で全敗しても、残り41試合で全勝すれば101勝39敗であり、Bチームが残り60試合を全勝しても100勝40敗で追いつけないので、この場合Bチームには自力優勝の可能性はない。
ただし、2位のチームに自力優勝の可能性が無くなったとしても、残り試合数の多い他のチームに自力優勝の可能性がある場合が存在し、この場合にはマジックナンバーは点灯しない。
また一度点灯しても、試合を消化するうちに、マジック点灯チームの負け・引き分けにより再び他のチームに自力優勝の可能性が出てきた場合に消えてしまう。
マジックナンバーは点灯させているチームが勝利すると1つ減り、またマジックナンバーの対象チーム(全勝した時に最も勝率が高いチーム)が敗退すると1つ減る(ただし対象チームが交代する可能性もあるため必ず減るわけではない)。マジックナンバーが増えることはなく、一旦消滅した後に再点灯した場合も、消滅した時の数字より小さくなる。
マジックナンバーが0になると、点灯させているチームが全敗して、他のチームが全勝しても逆転不可能となるので、優勝が決定する。
[編集] 計算方法
マジックナンバーの対象チームの現勝数に残り試合数を足して、最高勝数を求める。それにマジック点灯チームの現勝数を引いて1足せば、マジックナンバーを求めることが出来る。この1足すというのは、点灯チームが対象チームに対して1つ多く勝つ(あるいは対象チームが1つ多く負ける)ことが必要ということである。ただしこれは点灯チーム、対象チームそれぞれ引き分け数がなかった場合のみに適用される。
[編集] 逆マジック
マジックナンバー点灯チームが必ずしもその時点での首位のチームとは限らない。ある日付に残り試合数が異なっていると、残り試合の多い方が最終勝率・勝利数を高められる場合があるためである。マジックナンバー点灯チームよりマジックナンバー対象チームが上位にいる場合「逆マジック」という。
なお「逆マジック」はあと何敗すると最下位が決定するか、もしくは優勝やポストシーズン進出が消滅するかといった、敗北状態へのカウントダウンのために用いられる場合もある。特に前者の意味では「裏マジック」という言葉もある。
[編集] プレーオフマジック
2004年からパシフィック・リーグにプレーオフが導入された。4位以下(Bクラス)の全てのチームに自力で今いる順位に入る可能性がなくなった場合にそのチームに点灯する。主な概要は優勝マジックと同じである。
[編集] マジック点灯のスピード記録
※パ・リーグの前後期優勝、ならびにプレーオフ進出マジックは含まない
- 7月6日 南海ホークス M62(1965年)
- 7月8日 阪神タイガース M49(2003年)
- 7月22日 オリックス・ブルーウェーブ M43(1995年)
- 8月12日 中日ドラゴンズ M40(2006年)
[編集] 日米のマジックナンバーの見解の相違
同じ「マジックナンバー」でも、NPBとMLBでは意味合いが異なる。例えば以下のケースで考えてみよう。
- 1位 Aチーム 89勝46敗1分 勝率.659 残り試合4
- 2位 Bチーム 86勝50敗0分 勝率.632 残り試合4 3.5ゲーム差
- 残り試合は全てA、B両チームの直接対決
(注)MLBにおいて通常引き分けは存在しないが、ここでは分かりやすさを重視するため、あえて付けておくことにする。
NPBにおける「マジックナンバー」は上の説明通りなので、Bチームが4戦全勝した場合に90勝50敗0分(勝率.643)のBチームが89勝50敗1分(勝率.640)のAチームを逆転して優勝する可能性が残っているため、「マジックナンバーは点灯していない」ということになる。
NPBでこうしたケースが起こった例として次のケースがある。
- 1973年のセントラル・リーグで、10月19日の段階で1位の阪神タイガースは残り2試合の段階で1勝でもすれば優勝という状況であり、この時点では「マジック1」が点灯していた。しかし、20日の中日ドラゴンズ戦で星野仙一の前に敗戦を喫し、最終戦で直接対決する2位の読売ジャイアンツに自力優勝の可能性が復活したため、マジックは消滅した。
- 1996年のセントラル・リーグで、9月28日の段階で1位の読売ジャイアンツにはマジック3が点灯していた。この時点でのマジック対象チームは2位の広島東洋カープと3位の中日ドラゴンズで、広島はすでに巨人戦を終えていたが中日は巨人戦を2試合残していた。29日に巨人が負けたため、この日試合がなかった中日に自力優勝の可能性が復活し、巨人のマジックは消滅(ちなみに広島は勝利)。その後、中日は10月1日・2日の広島との直接対決に連勝し、巨人もこの2日間は連勝したため広島は脱落。巨人は2日の時点であと1勝すれば優勝であったが、残り試合が全て中日戦だったため「マジック1」は点灯しなかった(中日が巨人戦2試合を含む残り試合に全勝すると、巨人と中日が勝率で並びプレーオフになる)。
これに対し、MLBにおける「マジックナンバー」とは「相手がどこであるかは関係なく、チームがあと何勝すれば優勝できるか」を表すものである。したがって、Aチームは4試合のうち1勝すれば残り3試合に負けたとしても90勝49敗1分(勝率.647)となり、89勝51敗0分(勝率.636)のBチームを上回るため、「Aチームのマジックナンバーは1」ということになる。
なおNPB式の計算ではマジック点灯チームの敗戦等でマジックが消滅することもあるが、MLB式の計算ではマジック消滅はないことになる。
さらにNPBでは、マジックナンバーを早くから計算する傾向にある。MLBでの話になるが、2001年にアメリカン・リーグ西地区のシアトル・マリナーズが独走した時、シーズン前半にして早くも地区優勝マジック点灯を話題にしていた。しかしこの時のマジックは97で、秒読みの数字という本来の意味合いから大きくかけ離れていた。
現地時間の2001年5月31日の試合を終えた時点で、アメリカン・リーグ西地区の成績は
- 1位 マリナーズ 40勝12敗 勝率.769 残り試合110
- 2位 アスレチックス 26勝26敗 勝率.500 残り試合110 14ゲーム差
- 3位 エンゼルス 24勝28敗 勝率.462 残り試合110 2ゲーム差
- 4位 レンジャーズ 19勝33敗 勝率.365 残り試合110 5ゲーム差
で、この時点でのマリナーズとアスレチックスとの残り直接対決数は13試合であった。アスレチックスが残り110試合に全部勝てば136勝26敗(勝率.840)になるが、マリナーズがアスレチックス戦を除いた97試合に全部勝つと137勝25敗(勝率.846)となるため、アスレチックスの自力優勝は計算上では消滅していることとなる(エンゼルス・レンジャーズも自力優勝は消滅していた)。しかし97勝13敗というペースは勝率にすると.882になり、明らかに非現実的である。
またメジャーに限らず国内でも8月の時点でマジックを話題とするなど、「秒読みの数字」という本来のコンセプトから大きくかけ離れている。
それに対し、アメリカでは「マジックナンバーは優勝が目前に迫ったときの秒読みの数字」という本来のコンセプト通り、早くからは計算せず10を切ったあたりから話題にする。
[編集] 特異例
2006年のパシフィック・リーグでは、9月22日に1位の北海道日本ハムファイターズ以外のチームに自力シーズン1位の可能性がなくなったにも関わらず、日本ハムにマジックナンバー(レギュラーシーズン1位決定マジック)が付かないという異例のケースが起こった。
9月22日時点でのパ・リーグの1位から3位までの順位を下に示す。
- 1位 日本ハム 80勝52敗0分け 勝率.606 残り試合4(ソフトバンク2・ロッテ2)
- 2位 西武 78勝52敗2分け 勝率.600 残り試合4(ロッテ2・楽天2)
- 3位 ソフトバンク 75勝51敗5分け 勝率.595 残り試合5(日本ハム2・オリックス2・楽天1)
※4位以下(ロッテ・オリックス・楽天)はすでにBクラスが確定
一方、上位3チームが残り試合を全勝した場合の勝率は以下の通りである。
- 日本ハム 84勝52敗0分け 勝率.618
- 西武 82勝52敗2分け 勝率.612
- ソフトバンク 80勝51敗5分け 勝率.611
すでに日本ハムとの直接対決を終えていた西武の自力シーズン1位は消滅していた。しかし、ソフトバンクは日本ハムとの直接対決を2試合残していた。ソフトバンクが残り試合に全勝した場合、日本ハムは最高でも2勝2敗しか出来ない。この場合、日本ハムの最高勝率は.603(82勝54敗0分け)となり、ソフトバンクが日本ハムを上回ることになる。そのソフトバンクも、直接対決がもうない西武の勝率を自力で上回ることは出来ないため、自力シーズン1位はやはり消滅していた。
以上をまとめると、「自力で1位になれるのは日本ハムだけだが、ソフトバンクは自力で日本ハムの勝率を上回ることが出来る」という状況であった。NPBでは1位チームの勝率を自力で上回れるチームがあれば、そのチームが2位チームでなくとも、また自力優勝(1位)の可能性がなくともマジックは付かないので、日本ハムのマジックは点灯しなかった。
ちなみに22日は3チームの中で西武だけが試合があり、西武が負けたためこのような状況になったが、21日の段階では西武が2位ながら日本ハムに対しても自力で勝率を上回ることが出来たので、西武に「逆マジック5」が点灯していた。「逆マジック」も数年に1度程度しか出ないものであり、いかにこの年の1位争いが熾烈だったかが分かる。
なお、MPBでは上述の通り、「1位チームがあと何勝すれば1位を決めるか」だけを考えるため、この方式だと日本ハムにマジック4が点灯することになる。日刊スポーツ北海道版は一時ネット上で「日本ハムに1位通過マジック4が点灯」と誤報を流していた。
[編集] 実際の経過
- 9月23日 日本ハム● 西武○ ソフトバンク● ※西武が首位に立ち、1位通過マジック3が点灯
- 9月24日 3チームとも● ※西武のマジックは2
- 9月26日 西武● 日本ハム○ ソフトバンク● ※西武の1位通過マジックが消滅。日本ハムが首位に立ちマジック1が点灯。ソフトバンクの1位は消滅
- 9月27日 日本ハムが勝ったため、日本ハムのシーズン1位が決定
最終戦までもつれ込んだ1位争いを制した日本ハムは勢いに乗り、プレーオフ第2ステージではソフトバンクを3勝0敗(1勝のアドバンテージを含む)で破って25年ぶりのリーグ優勝を決め、さらに日本シリーズでは中日ドラゴンズを4勝1敗で破り、44年ぶりの日本一に輝いた。また、それまで新庄剛志のパフォーマンスの試合ぐらいしか満員にならなかった本拠地の札幌ドームは9月以降は連日満員状態(もちろんほとんどが日本ハムファン)。この盛り上がりもあり、札幌ドームでのポストシーズンの試合は全勝であった(前年まで日本ハムに所属した岩本勉は「日本ハムが札幌ドームで負けるとは考えられないから日本シリーズは4勝1敗で日本ハムの優勝」と予想していたが、その通りになった)。