ボツリヌス菌
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ボツリヌス菌(学名Clostridium botulinum)は、クロストリジウム属の細菌である。グラム陽性の大桿菌および偏性嫌気性菌。土の中に芽胞の形で広く存在する。菌は毒素の抗原性の違いによりA~G型に分類され、ヒトに対する中毒はA,B,E,F型で起こる。
ボツリヌスの語源はラテン語のbotulus(腸詰め、ソーセージ)であり、19世紀のヨーロッパでソーセージやハムを食べた人の間に起こる食中毒であったためこの名がついた。1896年、ベルギーの医学者エミール・ヴァン・エルメンゲム(Emile van Ermengem)により発見・命名された。
ボツリヌス菌が作り出すボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)は毒性が非常に強く0.5kgで全人類を滅ぼす事が出来ると考えられていたため、生物兵器として研究開発が行われた。炭疽菌を初めとする他の生物兵器同様、テロリストによる使用が懸念されている。
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[編集] 致死量
ボツリヌス毒素の致死量はヒトに対しA型毒素を注射した場合、体重1kgにつき約1ng〜2ngと考えられており、ボツリヌス毒素1gの殺傷力は約1000万人とも言われる。自然界に存在する毒素としては最強。
[編集] ボツリヌス症
多くはボツリヌス毒素を含んだ食物を食べることで起こる。傷口にボツリヌス菌が感染して起こることもあるが、それほど多くはない。
[編集] 乳児ボツリヌス症
通常のボツリヌス症と異なり、ボツリヌス菌の芽胞を摂取することにより起こる。芽胞は乳児の体内で発芽し、ボツリヌス毒素を作り出す。原因となる食物はいくつか考えられているが、蜂蜜について因果関係が明白になっている。そのため、乳児に蜂蜜を与えてはならない(芽胞は高温に耐える(下記参照)ため、一般的な加熱調理では蜂蜜中の芽胞の除去は困難である)。 また、2006年12月8日、厚生労働省は飲料水による症例を世界で初めて確認した、と発表した。
[編集] 症状
ボツリヌス毒素は主に四肢の麻痺を引き起こす。重篤な場合は呼吸筋を麻痺させ死に至る。その他、複視・構音障害・排尿障害・発汗障害・喉の渇きがみられる。一方、発熱はほとんどなく、意識もはっきりしたままである。
[編集] 予防と治療
ボツリヌス菌は芽胞となって高温に耐えることができるが、ボツリヌス毒素自体は加熱することで無害化する。A、B型菌を死滅させるには100℃で6時間、120℃で4分間の加熱が必要であるが、ボツリヌス毒素自体は100℃で1~2分の加熱で破壊できる。このため、ボツリヌス菌による食中毒を防ぐには、食べる直前に食品を加熱することが効果的である。
中毒になった場合、毒素の中和剤はウマ血清しかない。(ただし、乳児ボツリヌス症では致死率が低いこともあり、一般的に使われない)ワクチンは研究者用にボツリヌストキソイドが開発されているが、中毒になってから用いても効果がない。 また、米国においてボツリヌス免疫グロブリンが開発されている。
[編集] 中毒例
- 日本では、いずしなどのなれずし、きりこみなどによる中毒が北海道・東北地方を中心に報告されている(E型による)。
- 1984年、熊本県で製造された真空パックの辛子蓮根を食べた36人(1都12県)がボツリヌス菌(A形)に感染し、内11名が死亡した。原料のレンコンを加工する際に滅菌処理を怠り、なおかつ真空パックし常温で保管流通させたために、土の中に繁殖する嫌気性のボツリヌス菌がパック内で繁殖したことが判明した。
- 2006年12月8日厚生労働省は、井戸水の飲用から宮城県の0歳男児に乳児ボツリヌス症が発症したと発表。同省によれば、飲料水による同症が確認されたのは世界で初めてとのこと。乳児ボツリヌス症は、国内では1986年千葉県での初発例以来約20例(生後1~9ヶ月)の報告がある。しかし半数以上は、はちみつを食べて発症したケース。患者宅の井戸水から検出されたボツリヌス菌の汚染源は特定されていない。またどのような飲料水について、乳児ボツリヌス症の発症リスクが高いのかは必ずしも解明されていない。対象の井戸に亀裂があり、雨天時に水が濁っていたことから、この井戸固有の問題であり、全ての井戸・地下水が問題となっているものではない。
[編集] 兵器としての歴史
- 1995年、イラクにおいて20,000リットルのボツリヌス毒素が見つかり、廃棄された。
- オウム真理教(現アーレフ)も研究していた。1993年に東京・亀戸の新東京総本部(登記上の主たる事務所)で発生した悪臭騒動の原因とされる。
[編集] 検出
2006年7月12日、警察庁と産業技術総合研究所とでボツリヌス毒素を10分で検出する方法を共同開発した。(従来の方法では1-4日を要した。)新技術は糖とボツリヌス毒素を結合させ、レーザーで検出する。