ホンダ・トランザルプ
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ホンダ・トランザルプ (Honda XL600V TRANSALP) は、1987年に本田技研工業から発売された排気量600cc (PD06) 、現在は650cc (RD10, RD11) のオートバイ。日本国内でも限定販売された。その後も数度のモデルチェンジを経て、2006年現在も発売されるロングセラーモデルである。国内では免許制度に合わせた400cc(ND06)モデルも発売された。ペットネームはTRANS-ALPS(アルプス越え)に由来する。アルプスローダーの草分け的存在。オフロード車の方法論でデザインされたツーリングモデルである。燃料タンクと一体となったフルカウルボディは同社のデザートレーサーNXRに影響を受け、その後のアフリカツインやバラデロの元になった。また他メーカーのアルプスローダーにも多大な影響を与えた。
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[編集] 開発
系譜としては1983年のXLV750R (RD01) 、1985年のXL600Rファラオ (PHARAOH, PD04) の後継機種である。両車は共にラリーレイド用にリリースされたが、実際はツーリングマシンである。そこでツーリングマシンとしての性能を追求し、パワーユニットとウィンドプロテクションを向上させたモデルが開発された。当初はVT500の500ccのVツインユニットで開発が進められたが、テストの結果パワー不足とされ、600ccVツインユニットに改められた。またXLV750Rで冷却能力に不安要素があった空冷は見送られ、水冷ユニットが採用されたが、シリンダーには空冷エンジンの様なフィンが刻まれている。
特徴的なフルカウルは当初サイドパネルと大きめのメーターバイザーというデザインであったが、パリ・ダカールラリーで優勝を勝ち取ったレーサーNXRのデザインを取り入れて、初のタンク一体型フルカウルに改められた。そのNXRもトランザルプをベースに開発したと言われ、ラリーレイドマシンとのつながりは深い。
サスペンションは同社のオフロードモデルのものを踏襲しているが、本格的なオフロード走行を前提とした物ではなく、乗り心地優先のデザインで、石畳や未舗装路での快適な走行を目指した物である。ホイールはフロント21インチ、リア17インチというオフロード車のレイアウトだが、よりオンロード性能を追求したXL1000Vバラデロでは19インチに改められた。このことからもトランザルプがオンでもオフでも快適に走るマシンとしてデザインされた事が伺える。キャッチコピーに"Rally Touring"が用いられている事からもそれが裏付けられる。
またこれらのレイアウトから乗車姿勢は直立し、オフロード車のそれと似ており、座面が大きくクッションが効いたシートと相まって長距離の乗車でも疲れを知らない。まさにツーリング車となっている。また、欧州ではタンデムツーリングが当たり前なので、パッセンジャーも窮屈ではなく、疲れを知らないシートまわりとなっている。
ブレーキは当初フロント・シングルディスク、リア・ドラムブレーキで発売されたが、リアブレーキの容量不足が指摘され、すぐに前後ディスクブレーキに改められた。また、フロントブレーキもより確実な制動力のためにダブルディスクに改められた。
これらのデザインはよりラリーレイド志向の強いアフリカツイン(XRV650 (RD03), XRV750 (RD04) )にも引き継がれている。両車ともに外装やエンジンは異なるが、フレーム廻りはトランザルプとほぼ同一である(XRV750 (RD07) は新規フレームを使っている)。
[編集] モデル
モデル:トランザルプを大まかに分けると5つになる。
- 1987年~1993年に発売された600ccモデル(角目)
- 1994年~1999年 - マイナーチェンジし、フラッシュサーフェイス化された600ccモデル
- 2000年にフルモデルチェンジした現行型650cc
- 1992年型400cc(国内仕様)
- 1994年型400cc(国内仕様)
このうち国内で正規に販売された物は1987年型の600VH、1992年型の400VN、1994年型の400VRのみである。販売台数はそれぞれ300台(限定発売)、2460台、1413台である。このほかに輸入された600ccモデルが数十台あると言われている。国内では商業的に成功したモデルではないが、海外では20年近く販売が続くロングセラーモデルである。
1987年~1993年モデルではリアブレーキ、ウィンドスクリーンなどのマイーチェンジが行われている。1994年~1999年モデルではフロントブレーキ、リアキャリアなどのマイナーチェンジが行われている。2000年からのモデルではフレーム、リアサスペンションユニット、ヘッドライト、カウル、エンジンの変更、シート下の収納スペースと燃料計が新設されているほか、標準より3cm低いローダウンシートのオプションなどが追加されている。
生産:生産は当初国内生産であったが、1996年にイタリア(ホンダイタリア)へ生産移管され、2006年現在ではスペイン(モンテッサホンダ)で生産されている。
車体色:国内販売された600VHのパールクリスタルホワイト、400VNのグランドグリーンメタリック、400VRのパールアトランティスブルーの他、逆輸入車種のシルバー、ブラック、レッド、等がある。
ヨーロッパのいくつかの国では白バイとして使われている。
[編集] 動力性能
600ccモデル(エンジンはBROSのそれとほぼ同一のもの)は52PS/5.4Kg-m、400ccモデルは37PS/3.5Kg-m(いずれも国内モデル)と数値上の出力は大きくないが、低速からトルクが太く、扱いやすい特性である。
650ccモデルの代表的出力は53PS/5.6Kg-mで、排気量の増加は動力性能の向上ではなく、ヨーロッパの排気ガス規制(EURO3)への対応で、触媒その他の補器類による損失の補填という意味合いが強い。RD10型からRD11型への変更はEURO4への対処が主と思われる。
国内販売の不振は、ビッグオフロードという市場での理解と、ロードスポーツ車と比較して最大出力が低かったことが原因とされる。また海外モデルは諸国の事情、規制に合わせ数種類が存在する(例えば、スイス仕様では600ccで27馬力となっている)。