フィンランド語
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フィンランド語 suomi / suomen kieli |
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話される国: | フィンランド、北西ロシア(カレリア共和国) | |
地域: | 北ヨーロッパ | |
総話者数: | 500万 | |
順位: | 100位以下 | |
言語系統: | ウラル語族 フィン・ウゴル語派 バルト・フィン諸語 フィンランド語 |
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公的地位 | ||
公用語: | フィンランド共和国 欧州連合(他の欧州連合の公用語と共に) |
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統制機関: | Kotimaisten kielten tutkimuskeskus [[1]] | |
言語コード | ||
ISO 639-1: | fi | |
ISO 639-2: | fin | |
ISO/FDIS 639-3: | fin | |
注意: この頁にはユニコードでIPA発音記号が含まれているかもしれません。 |
フィンランド語(フィンランドご、Suomi, suomen kieli)は、ウラル語族 - フィン・ウゴル語派のバルト・フィン諸語に属する。原語名称からスオミ語、またフィン語ともいう。この言語は膠着語であり、15格を有する。また同じバルト・フィン諸語にはエストニア語、サーミ語、カレリア語、マリ語、コミ語などがあげられる。ISO 639による言語コードは、2字がfi, 3字がfinで表される。
フィンランド語の表記方法はラテン文字を採用している。
約500万人の人々が同言語を話し、その内の93%がフィンランド国内の人々であるが、フィンランドのうちオーランド諸島と一部の地域ではスウェーデン語を用いているか、もしくはフィンランド語とスウェーデン語を併用している。国外では冬戦争・継続戦争で失った現カレリア共和国内(話者はおよそ7万人)などがある。
フィンランド語はウラル語族であるため、インド・ヨーロッパ語族のスウェーデン語やデンマーク語など他の北欧諸国の言語や英語やドイツ語などとはかなり違った言語である。綴りと発音がほぼ一致している、アクセントが常に第一音節に置かれる、名詞の性はない、冠詞はない、語順が比較的自由など、旅行先などでちょっと使うには楽な点が多い。特に発音は特殊な文字を除いてほぼローマ字読みなので日本人にはとても簡単。しかし本格的にフィンランド語を始めようとすると、単複別に15格ある名詞の格変化や動詞の複雑な活用、接辞などをひたすら覚えることになるので入りはかなり大変である。
目次 |
[編集] 名詞の活用
フィンランド語の名詞や形容詞は格変化する。格変化とは、例えば日本語で「家」という語に家で、家から、家へなどと助詞をつけるのと同じように、格語尾と呼ばれるものを単語の後ろにつけることだと考えられる。例えば talo 「家」という単語に語尾をつけて talosta とすると「家から」という意味になる。しかし格変化の際には母音調和、また子音階程交替という事柄を知っておくことが必要。
母音調和とは、あるグループの母音と別のグループの母音は同じ語の中に現れることが出来ないという法則。例えば Ä と A は別のグループに属するので、フィンランド語には tämä(これ)という単語はあるが、tamä という語はない。また子音階程交替とは、名詞や動詞が変化する時に単語の中の k・t・p という3つの文字の関連する音が変化をする現象。例えば kirkko(教会)という語に -ssa という語尾を付けて「教会の中に/で」という意味にすると kirkossa となり、語中の k は一つ減る。この kk → k の他、下表のとおり全部で17通りの子音階程交替がある。変化する前を強階程、変化後を弱階程という。
子音階程交代 | |||||||||||||||||
強階程 | pp | p | mp | tt | t | nt | ht | lt | rt | kk | k | nk | lke | rke | hke | uku | yky |
弱階程 | p | v | mm | t | d | nn | hd | ll | rr | k | 消失 | ng | lje | rje | hje | uvu | yvy |
格変化の内訳は主格(基本形)、属格、対格、分格、様格、変格、内格、出格、入格、所格、向格、離格、欠格、共格、具格の15種類だが、共格と具格は複数形にしか見られない。尚、この内弱階程の形を取るものは単数属格、単・複数対格、単・複数変格、単・複数内格、単・複数出格、単・複数接格、単・複数向格、単・複数奪格、単・複数欠格、複数主格、複数具格の19種類である。
格の名称 | 単数 | 複数 |
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主格 | katu | kadut |
属格 | kadun | katujen |
対格 | kadun(katu) | kadut |
分格 | katua | katuja |
様格 | katuna | katuina |
変格 | kaduksi | kaduiksi |
内格 | kadussa | kaduissa |
出格 | kadusta | kaduista |
入格 | katuun | katuihin |
所格(接格) | kadulla | kaduilla |
向格 | kadulle | kaduille |
離格(奪格) | kadulta | kaduilta |
欠格 | kadutta | kaduitta |
共格 | katuine | |
具格 | kaduin |
[編集] 動詞の活用
名詞の後ろに格語尾がつくのと同様、フィンランド語では動詞の後に主語を表す人称語尾が付く。例えば ostaa「買う」という動詞で、ostan は「私が買う」という意味だが、ostat は「あなたが買う」、ostamme は「私達が買う」という意味になる。単数と複数合わせて6つの人称を区別する(3人称の彼/彼女の区別はない)ので、6つの人称語尾を覚えることになる。動詞の形としては現在形、現在完了形、過去形、過去完了形、条件法現在形、条件法完了形、可能法現在形、可能法完了形に1~3人称までの単数・複数で6個ずつ形がある。その他受動態現在、受動態過去、受動態現在完了、受動態過去完了、受動態の条件法現在、受動態の条件法完了、受動態の可能法現在、受動態の可能法完了、命令形、第一不定詞長形、第二不定詞、第三不定詞、第四不定詞、現在分詞、過去分詞、行為者分詞、動名詞など全て合わせると一つの動詞に100以上の変化形があることになる。
人称 | 現在形 | 現在完了形 | 過去形 | 過去完了形 |
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1人称単数 | puhun | olen puhunut | puhuin | olin puhunut |
2人称単数 | puhut | olet puhunut | puhuit | olit puhunut |
3人称単数 | puhuu | on puhunut | puhui | oli puhunut |
1人称複数 | puhumme | olemme puhuneet | puhuimme | olimme puhuneet |
2人称複数 | puhutte | olette puhuneet | puhuitte | olitte puhuneet |
3人称複数 | puhuvat | ovat puhuneet | puhuivat | olivat puhuneet |
人称 | 現在形 | 完了形 |
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1人称単数 | puhuisin | olisin puhunut |
2人称単数 | puhuisit | olisit puhunut |
3人称単数 | puhuisi | olisi puhunut |
1人称複数 | puhuisimme | olisimme puhuneet |
2人称複数 | puhuisitte | olisitte puhuneet |
3人称複数 | puhuisivat | olisivat puhuneet |
人称 | 現在形 | 完了形 |
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1人称単数 | puhunen | lienen puhunut |
2人称単数 | puhunet | lienet puhunut |
3人称単数 | puhunee | lienee puhunut |
1人称複数 | puhunemme | lienemme puhuneet |
2人称複数 | puhunette | lienette puhuneet |
3人称複数 | puhunevat | lienevät puhuneet |
※他、受動態・命令法・第1~第4不定詞・分詞・動名詞は省略
[編集] 文字と発音
アルファベットの文字は A~Z までの26文字に Ä、Ö を加えた全28文字だが、 C・Q・W・X・Z はほとんど使用されない。
名詞のところで取り上げた母音は A・E・I・O・U・Y・Ä・Ö の8文字でこの内 A・O・U と Y・Ä・Ö はそれぞれ別のグループに属する。また E と I はどちらのグループとも一緒になることが出来る。š が使用されることもある。
尚、特殊文字が表記できないワープロソフトの場合、ドイツ語やスウェーデン語では、ä を ae と表記する事もあるが、フィンランド語においては ää のように連続して同じ母音が使用されることがあるので、このような措置は採られず、通常通り aa と表記して、単語や母音調和で読むときに判断する。
R は舌尖顫動音と呼ばれ、舌先を振動させて発音される。J はドイツ語などと同じく /j/ である。
フィンランド語アルファベット | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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A | B | C | D | E | F | G | H | I | J | K | L | M | N | O | P | Q | R | S | T | U | V | W | X | Y | Z | Å | Ä | Ö | |||||
a | b | c | d | e | f | g | h | i | j | k | l | m | n | o | p | q | r | s | t | u | v | w | x | y | z | å | ä | ö |
å はスウェーデン語のものを表す時稀に使われる程度である。
[編集] 外部リンク
[編集] 参考文献
- 青木エリナ著『旅の指差し会話帳 フィンランド』(情報センター出版局、ISBN 4795821534)
- 荻島崇著『フィンランド語日本語小事典』(大学書林、ISBN 4475000939)
- 荻島崇著『基礎フィンランド語文法』(大学書林)
- 尾崎義著『フィンランド語四週間』
- 小泉保著『フィンランド語文法読本』
- 山下泰文、吉田欣吾他著『北欧のことば』(東海大学出版会)