タッチタイピング
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タッチタイピング (Touch typing) は、パソコンやワープロにキーボード入力を行う際に、キーボード面を見ることなく指先の感覚だけを頼りにしてキーを叩く技術。タッチタイプ、タッチメソッドとも。
日本では1980年代にはブラインドタッチという表現が使用されていたが、一部でブラインド(blind = 盲目)という表現が差別的だとの指摘がなされたこともあり(実際にはblindという単語自体に差別的ニュアンスはほとんどなく、ステレオタイプの言葉狩りとみなせる。また、「ブラインドタッチ」という言葉が和製英語であるからと説明されることもある)、1990年代半ば以降・現在ではタッチタイピングという言葉が一般的になりつつある。なお、中国語では現在でも「盲打」と呼ばれている。
日本でもタイプライターの打鍵法の教育用には、「触鍵法」と漢字熟語が使われていたが、ブラインドタッチに置き換わっていった。見ながら打つ方法を「視鍵法」と、触覚と視覚の対比となっていた。
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[編集] 利点
キーを視認してから打つのに比べて格段に入力速度が上がる(同じ分量の文字入力に要する時間を大幅に短縮することができる)。
タッチタイピングができない人よりも視点移動を少なく抑えることができるため、目が比較的疲れにくい。
チャットなどの思考した文章やテープ起こしなどの聞きとった文章を表現・記録するような場合には、常にディスプレイ(あるいは印字面)のみを注視すればよく視線の移動は必要ない。 既に文字としてある原稿を清書したり、参考文献を参照して文章を作成するの場合についても、常にディスプレイと資料との間のみで視点移動をすればすむため、同様に視点移動を抑えることができる。
[編集] 欠点
- タッチタイピングの習得までに多少の努力と時間を必要とする。
- 一旦サイトメソッドに慣れてしまった人は、タッチタイピングを習得するまでの間、一時的にかえって入力が遅くなってしまう場合がある。
[編集] 習得段階
タッチタイピングの習得は大きく二つの段階に分けられる。
- 初期 - キー配列の記憶と指の動きの習得
- 後期 - 打鍵の無意識化
「初期」の段階でもタッチタイピングと言って誤りではないが、速度が遅く疲労も激しいので、タッチタイピングの利点が享受できるのは後期の段階まで習得が進んでからである。打鍵の無意識化とは、入力すべき文字に対応するキーの位置や指の役割分担を思い浮かべることなく、即座に指が動くようになることである。また、頻出語や語尾は一連の指の動きとして塊として記憶されるようになる。
後記の段階では、例えばローマ字入力では、「た」の文字をTとAに分解し、指の役割分担を意識するということはなくなる。これは英字入力においても同様で、頻出する単語や慣用句については指がその流れを覚えるようになる。英字入力とかな入力はタッチタイピングができるが「ローマ字入力はローマ字の綴りを意識しないとできない」という人は、打鍵の無意識化がうまくできていない可能性が高い。
[編集] 具体的技術
以降は一般的なQWERTY配列の日本語キーボードでのタッチタイピングについて述べる。前節で触れた打鍵の無意識化には打鍵量をこなすしかないので、ここでは前節で初期と呼んだ段階について述べる。
タッチタイピングでは両手の指十本のうち、両親指を除いた八本の指を主に使用し、親指はスペースバー(および日本語キーボードでは変換 / 無変換キーなど周辺のキー)を押すときに使用する。
まず最初に、自分の左手人差指をキーボードの「F」のキーに、右手人差指を「J」のキーに置く。そして左手の中指、薬指、小指を「D」「S」「A」の位置、右手の中指、薬指、小指を「K」「L」「;」の位置へとそれぞれ置く。
つまり左手の小指からそれぞれ順番に「A」「S」「D」「F」「J」「K」「L」「;」の位置へ置く事になる。文面では難しく感じるが、人差指の「F」と「J」の位置だけ注意して指を置き、あとは自然に指を下ろせばこの位置にはまるようになっている。この指のポジションをホームポジションと呼ぶ(大抵のキーボードでは、左右の人差し指(あるいは中指)にあたる2つのキーに、ホームポジションを指先に知らせる小さな突起や窪みなどが付いている。慣れてくると、キーボードを見ずともキー表面の突起をたよりにホームポジションへ指をおくことができるようになる)。
ホームポジションを確定させたら、次は「キーの受け持ち」を理解すること。ある一本の指では決まったキーをいくつか受け持ってそれだけをタイプし、他の指を使わないことを徹底する。具体的な受け持ちキーは以下のような例が示されることが多い。
- 左手小指:「Q、A、Z、半角/全角、Tab、Caps Lock、Shift(左側)」
- 左手薬指:「W、S、X」
- 左手中指:「E、D、C」
- 左手人差指:「R、F、V、5、T、G、B」
- 右手人差指:「Y、H、N、7、U、J、M」
- 右手中指:「I、K、,」
- 右手薬指:「O、L、>」
- 右手小指:「P、;、/、-、@、:、\、^、[、]、Backspace、Enter、Shift(右側)」
最上段の数字・記号キーの割り当てについては様々な分担方法が提唱されている。 キーを左手・右手で分割したナチュラルキーボードでは、6のキーを左側とする例が多く見られる(これは一般的なキーボードのキーが段ごとにずれて配置されており、人差し指の担当をそれぞれ「45・67」ではなく「56・78」とする方が運指距離が短くなる事に由来している)。 一番長い中指の分担を増やす例もある。 日本語のローマ字入力を目的とした書籍や解説ではこの部分は重要視されてない。最上段の数字などを多用する場合は、同じく最上段をよく使うかな入力に関する書籍や解説が参考となる。
左右小指の受け持ちキーが少し多いが、キーの数が増えてきた歴史から止むを得ない。
視線は常にディスプレイに向け、キーを打ち終えたら指はホームポジションに戻すことを原則とし、新たにタイピングを開始する。
指先以外の部分をどうするかという打鍵姿勢には次の2つがある。前者はタイプライター時代からの伝統的な打鍵姿勢、後者は現代の軽い力で打てるキーボードで可能になった姿勢である。
- 指先以外の部分はキーボードにも机にも触れないようにする。つまり、肩の力で腕を持ち上げて宙に浮かすようにする。
- キーボードを机のやや奥のほうへ置き、ホームポジションに自然に指を置ける位置関係で手首のやや前腕寄りを机に置いて固定してしまう。
タッチタイピングではホームポジションを常に把握することが重要である。ホームポジションが分からなくなって目で確認したり指で探ったりしていてはタッチタイピングは成立しない。
- (1) の打鍵姿勢ではキーを打つ指以外をできるだけホームポジションから動かさないようにする。キーを打つ指以外は一切動かさないのが理想だが、それが無理ならばせめて人差し指か小指のどちらかをホームポジションに残すようにする。すなわち、人差し指か中指でキーを打つときは小指を、薬指か小指でキーを打つときは人差し指をホームポジションへ残すようにする。
- (2) の姿勢による場合は指の力を抜くことにより自然に指がホームポジションへ戻る。この場合はキーを打ち終わる都度ホームポジションへ指を戻すことにはそれほど拘らなくてもよい。なお、文字キーを操作することのない親指は他の指と比べれば動かす範囲が狭いので、親指位置にある機能キーを基準にして親指と他の指との間隔を覚えるという方法も可能ではある。
タッチタイピングの習得にかかる期間は個人差や練習方法の違いによる差が大きい。その日のうちに覚えられる人もいれば、一か月以上かかる人もいる。いずれにせよ習得には練習以外ない。
[編集] その他
反復練習を必要とする「手の業」であること、パソコンに関係する技術であることからタッチタイピング練習用ソフトは有料、無料を問わず数多く開発されている。オンライン上から簡単にダウンロードできるものも多い。
現在、いくつかのタイピング資格試験が存在している。
- キータッチ2000テスト(公的資格試験)
- パソコンスピード認定試験(公的資格試験)
- ビジネスキーボード認定試験(公的資格試験)
- イータイピング・マスター資格試験(民間資格)
など。
また、パソコン検定では4級以上にタイピングの実技試験が設定されている。
全国規模のタッチタイピング技術のコンクールとして、毎日新聞社/日本パソコン能力検定委員会の主催で、毎日パソコン入力コンクールが毎年開催されている。
打鍵練習をする順序は、練習用ソフトや練習方法により異なる。タッチタイピング練習用ソフトでは、忘却曲線を利用し間違えて入力したキーや単語を集中して出題するものがある。