ケッテンクラート
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ケッテンクラート(独:Kettenkrad)は、第二次世界大戦期にドイツが開発した最も小型の半装軌車である。オートバイの後輪を車輪でなくキャタピラとしたような、独特の形状が特徴。制式名称はクライネス・ケッテンクラフトラート Kleines Kettenkraftrad で、逐語訳すると「小型装軌式オートバイ」である( 制式番号: Sd.Kfz.2)。ケッテン Ketten とは、鎖、つまり履帯を意味し、クラフトラート Kraftrad とは、オートバイに対する前大戦当時の言い回しである。兵語としては更にクラート Krad と略される。 現代ドイツ語の Motorrad を指す。運転手の他、その後に進行方向とは反対向きに2名を乗せることもできる。
[編集] 概要
本来は無反動砲の牽引などを目的とした降下猟兵向け車輌として開発されたが、東部戦線の泥濘の中で従来のバイクやサイドカーが使用できなくなったことから、陸軍や武装SSでも使用されることとなった。また、空軍基地でも飛行機などの牽引用トラクターとしての任務に就いていた。
80km/h近い速度で走行することができたが、音が非常にやかましいこともあり、快適に走行するためには50km/h程度が適切であった。動力には、当時の代表的な量産型乗用車であるオペル・オリンピア1938年式のガソリンエンジン(水冷直列4気筒OHV・1488cc 36HP/3,500rpm)を用いた。本来のオリンピア・エンジンとの違いはオイルパンのみである。
重量は1,250kgである。この重い車輌を操縦するための工夫として、ステアリングハンドルは小さい8度角で取り付けられ、クローラは平行四辺形に設計された。このため、初期型から迷彩塗装を施された後期型に至るまで、走行には安定性があった。
曲がる際に大きくステアリングを切ると、カーブに対して内側の履帯の速度が落ちるようになっている(ディファレンシャルの外側に取り付けられたドラムブレーキによる)。このため、動力は常に倍速で供給された。これらの機構は、二つの履帯を逆に回転させる超信地旋回を不可能にした。駆動輪には両側に連動してブレーキをかけることができた。以上のことから前輪は無くても操行できるが、 前輪があると舗装路面では接地抵抗がクローラとタイヤに分散されわずかだが最高速度と燃料効率を上げることが出来る、ハーフトラックの前輪も同様の効果を持つが一輪だけでどの程度の効果があったかは謎であるため、実質超壕用にリーチを稼ぐための物とも考えられる。
派生型として、電線敷設用の Sd Kfz 2/1 と、重電線敷設用の Sd Kfz 2/2 が存在する。
[編集] 生産状況
ケッテンクラートは、NSU社のNeckarsulm工場で、1940年から試験型が500輌、量産型が7,500輌製造された。また、1943年からは、Stoewer社のStettin工場で1,300輌がライセンス生産されている。さらに1944年夏に、生産体制を強化するため、フランスに3番目の工場を建設する予定であったが、戦局の悪化により実現しなかった。
戦後、NSU社が再建され、既存の部品を使用して1948年に550輌が生産された。これらのケッテンクラートは、農業や林業に頻繁に使用された。
[編集] 登場するメディア
- 戦争映画プライベート・ライアンの終盤シーンで、捕獲したケッテンクラートを敵戦車を引きつけるための囮(おとり)として使用した。映画の中ではラビットと呼ばれているが、単にティーガー戦車に対する囮という意味である。