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カロリーネ・フォン・アンスバッハ - Wikipedia

カロリーネ・フォン・アンスバッハ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カロリーネ・フォン・アンスバッハ(Caroline von Ansbach, 1683年3月1日 - 1737年11月20日)は、ブランデンブルク=アンスバッハ辺境伯ヨハン・フリードリヒの娘。イギリス国王ジョージ2世の王妃。英語名はキャロライン・オブ・アーンズパック(Caroline of Ansbach)。

カロリーネ・フォン・アンスバッハ
カロリーネ・フォン・アンスバッハ

目次

[編集] 生涯

[編集] ハノーファー選帝侯家との縁組

カロリーネは1683年に、ブランデンブルク=アンスバッハ辺境伯ヨハン・フリードリヒの娘としてブランデンブルクで生まれた。

ある日、年頃になった彼女の姿を、プロイセンフリードリヒ1世の館で、ハノーファー選帝侯エルンスト・アウグストの妃ゾフィア・フォン・デァ・プファルツが見かけた。カロリーネを見たゾフィアは一目で気に入り、孫のゲオルク・アウグスト(後のジョージ2世)の将来の嫁候補にと考えるようになった。ゲオルクの母ゾフィア・ドロテアは、アールデン城に幽閉されていたため、ゲオルクの養育と教育は彼女に一任されていたのだった。

しかし、才色兼備だった彼女には、既にザクセン=ゴータ家のフリードリヒ2世や、オーストリア大公カール(後の神聖ローマ皇帝カール6世との縁談も来ていた。カロリーネとカールとの縁談話は、7年間も続き、その隙を突いてゾフィアが、なんとしても彼女を孫の嫁にと執拗に働きかけ、そのために、オーストリア大公家とハノーファー選帝侯家との間に険悪な空気が流れる程であった。結局カロリーネとカールとの縁組は、プロテスタントであったカロリーネがカトリックに改宗するという条件が問題になり、破談となった。また、ゾフィアのねばりも効を奏し、カロリーネとゲオルクの縁組が成立した。

1705年9月2日、ハノーファーでゲオルク・アウグストとカロリーネの盛大な結婚式が挙げられた。当時、ハノーファー選帝侯家はステュアート王家の血を引く唯一のプロテスタントの家系として、王位継承法によりイギリス王位を継承する事がほぼ確定し、アン女王の没後はゾフィアにイギリスの王冠が回ってくる見通しであった。この事は、ゾフィアの長男ゲオルク・ルートヴィヒ(後のジョージ1世)や孫のゲオルク・アウグストに王位が回ってくる事を意味していた。聡明だったゾフィアはその事を見越し、カロリーネを将来のイギリス王妃として教育する事にした。カロリーネは既に母国で申し分ない教養と礼儀作法を身に付け、あと必要なのは英語くらいであったが、たちまち彼女は英語も習得してしまった。主に彼女は、ゾフィアの政治顧問ライプニッツから、王妃と国政の関係について学ぶ事になった。

[編集] ヘンリエッタ・ハワード

カロリーネは将来はイギリス王妃の地位が約束されていたが、父親と同じく女好きだったゲオルク・アウグストは、1705年にサフォーク伯爵夫人ヘンリエッタ・ハワードを寵愛するようになった。これ以降も、次々とゲオルクは新しい女性を寵愛するようになっていくが、寛大だったカロリーネは、夫の浮気に特別嫉妬を表わす事はなかったという。また、ヘンリエッタは聡明な女性で、他の国王達の寵姫達のように、国王の寵愛をいい事に出しゃばったり好き放題するような事もなく、自分の立場をわきまえ、王太子妃であるカロリーネを立てた。カロリーネもそんな彼女を信頼するようになったのか、ヘンリエッタはやがてカロリーネ付きの女官、後にカロリーネが王妃になると王妃付き女官となった。ヘンリエッタは宮廷内の諸事にわたりカロリーネの指示通りに動き、時にはカロリーネの相談相手になる事もあった。ゲオルク・アウグストがジョージ2世として即位した後に新しい寵姫にした、娘達の家庭教師デラレインが、国王の寵愛をいい事に宮廷内の裏方の実権を握ろうとした時には、カロリーネとヘンリエッタが協力してこれを未然に防いだ。ヘンリエッタとジョージ2世の関係は、彼女の夫のサフォーク伯爵が死去した1733年に終わり、彼女は自ら願い出て、カロリーネ付き女官の地位を辞した。

[編集] 子供たち

カロリーネは1707年フレデリック・ルイスジョージ3世の父)を、1709年にアンを、1711年にアマリエ・ソフィア・エレノアを、1713年にキャロラインを、1717年にジョージ・ウィリアムを、1721年ウィリアム・オーガスタス(カンバーランド公爵)を、1723年にマリーを、1729年にルイザを生んだ。

[編集] イギリス王太子妃

1714年、6月8日に母ゾフィーが、8月1日にアン女王が相次いで死去した。そのため義父のゲオルク・ルートヴィヒがイギリス国王として即位する事が決まり、夫のゲオルク・アウグストはプリンス・オブ・ウェールズに叙爵される事が決まった。8月31日にゲオルク・フリードリヒとゲオルク・アウグストは100人の随員と共にロンドンに旅立った。カロリーネは彼らに一足遅れて3人の娘達と共に旅立ったが、長男のフレデリックだけはハノーファーに残していく事になった。これは、ロンドンでのステュアート王家支持派(ジャコバイト)による暴動、襲撃の万一の場合を考えての措置だった。10月11日、ケントのマーギトに到着したカロリーネは国民の熱烈な歓迎を受け、彼らからの「プリンセス・オブ・ウェールズ・キャロライン!」の叫び声が絶える事はなかったという。この歓迎に感激したカロリーネだったが、間もなく義父と夫との不仲に悩まされる事となった。母のゾフィアをとても愛していたゲオルク・アウグストは、母に対する父の理不尽な仕打ちを恨み、父のジョージ1世に激しい敵意を抱いていた。また、父のジョージ1世もこの息子を嫌い、息子の友人達を反国王派として出入りを禁止したり、議会が皇太子用として決めた宮廷費用を極端に削減するなどの嫌がらせを度々行なった。

間に立って悩むカロリーネの窮状を見かねた宰相ロバート・ウォルポールは、何度も国王父子の間の仲裁に入ったが、全く効果はなかった。1717年の11月に、カロリーネに次男のジョージがセント・ジェームズ宮廷で生まれた時、その洗礼式にジョージ1世は、息子の嫌っていたニューカースル公爵トマス・ペラム・ホーリスを、孫の名付け親にするべきであると勝手に決めてしまい、強引に出席させてしまった。突然のニューカースル公爵の出席に激怒したアウグストは、彼を罵りながら殴って追い出してしまった。この報告を聞いた国王は、アウグストをセント・ジェームズ宮殿に閉じ込め、再三の陳謝にも関わらず息子を許そうとしなかった。結局ウォルポールのとりなしにより、アウグスト一家は宮殿を出てレスター・ハウスに移り住む事になった。この間ウォルポールは、父子の仲裁に立つカロリーネの優れた資質を見抜き、やがてアウグストが即位した時には彼女に賭ける決心をしたという。

[編集] イギリス王妃

1727年6月11日にジョージ1世が死去した。同年の11月10日、国王ジョージ2世と王妃カロリーネはウェストミンスター寺院で戴冠式を行なった。カロリーネがこの日にまとっていた衣装や宝石は、総額200万ポンドにも上る豪華な物であったが、そのほとんどは裕福な貴族やユダヤ人の宝石商から借りたものであった。慌しい即位という事情もあったが、王家の財産として残されたアン女王の宝石や衣装を、ジョージ1世が自分の寵姫だったエーレンガルト・メルジナやシャルロッテ・キールマンゼッゲに与えてしまったからでもあった。カロリーネとジョージ1世との関係は決して悪くはなかったが、息子の嫁にアン女王の宝石や衣装を渡したくはなかったのであった。しかし、カロリーネは借り物ずくめの正装を全く気にしなかったという。

カロリーネは公私に渡りウォルポールを相談役にし、また重要政務の国王への根回し役を買って出た。また、イギリスの政治情勢について疎く、廷臣に対する好き嫌いが激しく、ヨーロッパの政治情勢には詳しいものの好戦的なジョージ2世は、内政・外交を混乱させるおそれがあるとウォルポールも考えており、カロリーネなら自分の政務の手助け役、国王の諌め役として適任だと考えた。カロリーネは政治に携わるといえども、決して夫のジョージ2世を無視して表に出ると言う事はなく、夫にウォルポールの意図を伝えるという形で統治に携わった。またジョージ2世も、そんなカロリーネを信頼し、しばしば政治に関する助言を求めた。当時の戯れ歌に、「小粋なジョージ、いばっているのはよいけれど、それは全て無駄だろう。治めているのはあんたじゃないよ、本当は王妃のキャロライン」というものがあり、国民のカロリーネに対する敬愛が表れている。

カロリーネは、度々ハノーファーに出向いて国王が不在の間は摂政を務め、文芸・科学両方に渡りパトロンを務めた。哲学者のサミュエル・クラーク、倫理学者・神学者のジョゼフ・バトラー、物理学者数学者アイザック・ニュートンなどが彼女の保護を受けていた。カロリーネは当時の女性としては珍しく、科学についても深い理解を示す、極めて進歩的な女性であった。これもまた当時の進歩的な女性として知られているキングストン公の娘ウァートリー・モンタギュー夫人メアリーと彼女は親しく、ある日、メアリーがコンスタンティノープル天然痘予防接種が考えられているという話を聞かされ、大変に興味を示し、夫にこの接種の開発研究をするように薦めている。当時はまだジェンナーも生まれておらず、彼が予防接種を始めた時でさえ、迷信と非難された事から考えると、いかにカロリーネが進歩的な女性だったのかがわかる。

日頃は、夫の浮気に寛大だったカロリーネだが、夫が1735年にヴァルモーデン伯爵夫人アメリー・ウォール・モーデンを新たに寵姫にした時には、さすがに怒り、ウォルポールにその悩みを告白した。アメリーは、1735年にジョージ2世が、王太子フレデリックの嫁を探すためにハノーファーを訪れ、ザクセン=ゴータ=アルテンブルク公フリードリヒ2世の娘アウグステを選んだ際に見つけ、寵姫にした女性だった。カロリーネは、息子の嫁を捜すためにハノーファーを訪れた夫が、そのついでに新しい寵姫を見つけてきたのが情けなかったのであった。

[編集]

1736年にフレデリックの結婚式が済んだ後、カロリーネはヘルニアによる体の不調に気づいた。しかし、彼女は夫のジョージ2世には病気の事を秘密にし、1736年6月から翌年1月まで3度目の摂政職を務めた。1月に帰国したジョージ2世は、カロリーネの病気を知ると宮廷医を総動員して治療に当たらせた。しかしその甲斐もなく、彼女の病状は良くなかった。彼女は臨終の際に、夫に向かって自分が死んだ後はなるべく早く再婚するようにと勧めた。しかしジョージ2世は、寵姫は作っても再婚はしないと約束した。カロリーネは1737年に死去した。この約束通り、ジョージ2世は寵姫は作っても再婚する事はなかった。また、1760年に死去する際には、彼はカロリーネの埋葬されているウェストミンスター寺院に自分も埋葬し、自分の棺とカロリーネの棺の向かい合う片側をそれぞれ取り除き、2人の遺体を直接並び合わせるよう遺言した。

[編集] 参考文献

  • 森護 『英国王妃物語』 河出書房新社、1994年、237頁。
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