アルテミア
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アルテミア属 | ||||||||||||||||
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Artemia salina |
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分類 | ||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||
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アルテミア(Artemia)は、節足動物甲殻綱鰓脚亜綱無甲目に属する小型の動物である。 ブラインシュリンプ(Brine shrimp)あるいはシーモンキー(Sea monkey)の名で市販されている。
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[編集] 特徴
日本の水田に生息するホウネンエビによく似た姿をしている。ヨーロッパ、北アメリカの内陸塩水湖に生息する。日本でも塩田に発生した例があるが、持ち込まれたものと思われる。
体は細長く、弱々しい。全体に白っぽく透明感がある。頭部からは、左右に一対の複眼が突き出している。第一触角は糸状に突き出す。第二触角は雌では小さく、雄では雌を把握するために発達する。その形はクワガタムシの大顎を胸の上に折り畳んだようなものである。頭の幅より広く左右後方に突き出し、それから胸の方に曲がっている。
頭に続く体は、細長く、多数の鰓脚がつく胸部と、鰓脚のない腹部に分かれる。胸部は十対以上あって各節に一対の鰓脚があるが、前のものが一番長く、後方ほど短くなる。鰓脚の最後の部分に卵の入る保育のうがある。腹部は細長く、最後に一対の尾叉がある。
常に鰓脚を動かし、水中を泳いで生活している。基本的な姿勢は腹面を上に向けたものであるが、ホウネンエビのように常にその姿勢を保つのではなく、比較的自由に水中を縦横に移動し、姿勢も縦横にゆっくりと変える。
[編集] 生活史
卵から産まれたものはノープリウス幼生で、二対の触角と一対の大顎をもち、一個の単眼がある。体は前が幅広い三角っぽい形で、体長は約1mm足らず、全身が朱色っぽい赤である。ノープリウス幼生は次第に体が長く伸び、胸部の鰓脚を増やして行き、それに連れて第二触角は小さくなる。
繁殖の時には雄は雌を追尾し、頭部の把握器で雌の体を後ろ下側から把握する。しばらくの間、雄雌はつながったままで泳いでいる。
通常の卵はそのまま孵化するが、耐久卵は乾燥に耐え、長期にわたって休眠することができる。
[編集] 利用
[編集] ブラインシュリンプ
乾燥耐久卵は保存が効き、塩水に戻すと12時間から24時間程度で幼生が孵化する。これを利用して、必要な時に動物性プランクトンを一度に手に入れる為の方法として用いられるようになった。その目的として最も重要なのは、稚魚の飼料とするものである。熱帯魚や海水魚の繁殖を行う場合、初期の稚魚のための餌には苦労することが多い。ごく小さな顆粒で、魚が喜んで食うものを、しかも大量に見つけるのは難しい。そのための手段としてアルテミア(多くは Artemia salina)の卵が用いられるようになったのである。この方面でのアルテミアの通称はブラインシュリンプである。ブラインシュリンプは稚魚だけでなく、タツノオトシゴのような小型動物しか食べない魚や、クラゲ、イソギンチャクなどの餌にも用いられる。
日本の場合、主にアメリカ、タイ、中国などから輸入している。2002年の財務省貿易統計によると、アメリカからの輸入が65,298kgで最も多く、タイからの3,664kg、中国からの3,500kgと続く。アメリカでの主な産地はユタ州のグレートソルト湖である。
なお、もっと小さい餌が必要な場合には、海水魚用にはシオミズツボワムシが用いられる。
[編集] シーモンキー
他方、その飼いやすさとその姿のおもしろさに着目して、A. salina を愛玩用・観賞用に改良した品種が Artemia nyos である。nyosとはこの品種を作り出した研究所の名称"New York Ocean Science"のアクロニムだと言われている。ただし、いくら改良されたとはいえ人為的な品種を新種とすることはあり得ず、命名規約に則った正式な発表も恐らく為されていないので、Artemia nyos は正式な学名ではなくあくまで学名の体裁をとった品種名、もしくは商標と考えるべきだと思われる(ちなみにU.S. Patent # 3,673,986ではA. salina の卵と記述されている)。商品名として、一般にはシーモンキーと呼ばれている。小さなプラスチック水槽に卵を含む培養液の2種類の乾燥粉末と餌のセットとして販売された。不思議な水生生物で、猿に似た動物だ、というので、箱にはアルテミアの形の胴体に手足があって、その上にマンガの人の顔がのった妙なイラストがついており、子供の関心を引いたものである。アメリカではより非人間的な、しかし人類っぽいイラストが使われた。培養液には薄く青い色がついていた。最初に販売されたのはアメリカで、日本には株式会社テンヨーにより1971年5月に持ち込まれ[1]、通信販売等で販売され、ちょっとしたブームを巻き起こした。その後はそれほど持て囃されはしないものの、現在も販売されている。シーモンキーの孵化は1剤粉末を水に溶かし、その24時間後に2剤粉末を溶かすと、1時間ほどで卵から孵化すると解説されおり、そのためにインスタント・ライフと称している。しかし、実際には1剤の中に少量の卵が含まれており、1剤を溶解した時点から24から36時間でこれらが孵化する。そのころを見計らって溶解する2剤粉末に含まれる薄青い染料で孵化した幼生が見えやすくなるだけであり、1時間で孵化しているわけではない。(U.S. Patent # 3,673,986の解説による)
[編集] おばけえびなど
Artemia nyos(シーモンキー)ほどは丈夫ではないが、Artemia salina も比較的飼育が容易であるため、科学教材として用いられることがある。「おばけえび」、「エビゾーくん」、「生きた化石 ジュラ伝説」といった名称で市販されている。