空想歴史読本
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『空想歴史読本』(くうそうれきしどくほん)とは、円道祥之(えんどう・まさゆき)のSF科学の歴史的考察本である。1999年にメディアファクトリーから刊行され、後に文庫化されている。
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[編集] 内容
盛田栄一著『空想法律読本』と同様、柳田理科雄著『空想科学読本』の文系(社会科学)版といえるもので、アニメや漫画、特撮で描かれてきた様々な「物語の舞台となった歴史」の設定を集めて一つの「空想歴史」としてまとめたもの。
「過去編」、「現代編」、「未来編」に別れ、1999年に書かれたので、2003年の鉄腕アトム誕生は「未来編」に入る。
歴史教科書のように、巻頭ではカラーの4ページで絵入りの解説がある。
『マグマ大使』で述べられた「地球はアースという個人(神に近い存在)によって作られた」という46億年前の地球誕生から始まり、『猿の軍団』で予言される「西暦3713年に人類は猿によって滅ぼされる」という遥か未来、さらに西暦1万年以上先の未来に宇宙から人類が帰還する『トップをねらえ!』の話までを歴史物語として描く。
特徴は、複数の作品で語られる歴史を一つの世界観としてまとめていることである。
現実の歴史に存在しない「伝説のムー大陸」については、異なる作品で5通りの描写があるので「ムー大陸にはムー帝国が5つもあった」という結論を出しており、また、『日本沈没』の映画版とテレビ版を同じ世界と見なして「日本は2度も沈没した」と書いており、さらに『世界大戦争』、『北斗の拳』、『未来少年コナン』、『サイボーグ009』などを合わせて、「人類は4度も滅んだ(戦争で滅びかけた)」という話にしている。
また、2015年には「ジェッターマルス」と「エヴァンゲリオン」という2種類のロボットが発明されることになっており、著者は「この2種類のロボットは20世紀製造のマジンガーZや2003年製造の鉄腕アトムなどから全く進歩しておらず、エヴァは逆に退化している」と述べ、「そのあと百数十年たって宇宙戦艦ヤマトに搭載されるロボット・アナライザーもあまり人間らしくない姿」などと述べ、「人間型ロボット開発は衰退していく」と結論付けている。
また、22世紀の前半にドラえもんのようなロボットやタイムマシンが家庭に普及しながら、その22世紀の末にはガミラスによって人類は絶滅寸前に追い込まれ、宇宙戦艦ヤマトが一隻で敵を撃破して地球を救い、23世紀初頭には爆沈したあとも復活して旅に出るという話に発展し、またヤマトの乗務員が日本人だけであることと、『トップをねらえ!』で描かれた「日本による世界統一」を重ねあわせて紹介している。
モリナガ・ヨウがイラストなどを担当し、空想歴史にもとづく「肖像画」、「写真」、「商品」、「瓦版」などを文中に挿絵として挿入し、「大魔神を描いた庄屋の日記」、「西洋妖怪の人相書き」、「ゴジラやラドンの到来を報ずる新聞記事」など、どれも非常にうまくできている。
ただし、年表とグラフでは間違いが見受けられる。例えば巻頭の年表では本来「6500万年前」の箇所に書くべき「恐竜絶滅」が、その前の「1億3千万年前」の箇所に書かれてある。本文中の小さい年表でも、現実の歴史で2008年開催のオリンピック(本書出版当時は開催地が北京と決まっておらず、「大阪が立候補の第29回オリンピック」となっていた)について、「2005年」の箇所に書かれてあったり、空想歴史で猿の数が人間の数を超えるのが「西暦2900年前後の人間と猿の100年戦争」の初めなのにグラフでは戦争の終わりの年だったりする。また、エヴァンゲリオンの「アンビリカルケーブル」(背中の電源コード)なしでの活動限界は「5分」なのに、本書では「3分程度」としているなど、細かい間違いもある。
第一部 過去編
- 第1章 地球誕生 - 46億年前、地球はアース様という個人の手で作られた!
- 第2章 超古代の文明 - 魚類さえいなかった時代に、超文明が成立していた!
- 第3章 大恐竜時代 - 繁栄したといわれる恐竜。実は哀れな弱者だった!
- 第4章 恐竜の滅亡 - 恐竜は絶滅しなかった。地下に帝国を築いて大繁栄!
- 第5章 人類の起源 - 人類の祖先は猿ではない。それは未来の人類だった!
- 第6章 氷河期到来 - トリと怪獣が作った氷河期によって、人類は救われた!
- 第7章 大いなる眠りの時代 - 寝すぎて「ヒーロー第1号」の栄誉を逃したヤツがいた!
- コラム - 侵略者はなぜ眠ってしまったのか?
- 第8章 沈む大陸の伝説 - ムー大陸には、ムー帝国がなんと5つもあった!
- 第9章 日本統一 - 聖徳太子は法隆寺と同時に、ロボットを建造していた!
- 第10章 戦国時代とヒーローの誕生 - 忍者・赤影は、比叡山焼き打ちの年に信長に仕えた!
- 第11章 江戸時代の三大侵略事件 - 徳川幕府は、遥かサソリ座からの侵略を受けていた!
- 第12章 狙われる江戸の有名人 - 大岡越前は、ヒーローを踏み台にして大出世した!
- 第13章 フランス大革命 - 王妃マリー・アントワネットには、第三身分の妹がいた!
- 第14章 第二次世界大戦 - サイパン島では、透明人間の特攻隊が玉砕していた!
- コラム - ナチスの財宝を捨てたのはコイツだ!
第二部 現代編
- 第15章 核の時代と怪獣 - 核実験の影響で、怪獣・怪人が5年連続出現した!
- 第16章 シビリアンコントロールの崩壊 - 60年代の日本は、核武装した軍事大国になっていた!
- 第17章 危機を呼ぶ冷戦構造 - 1962年、人類は第三次世界大戦で滅亡していた!
- 第18章 東京タワーの破壊と復興 - 東京タワーは、建設直後の9年間に6回も壊された!
- 第19章 ウルトラマンのいた頃 - ウルトラセブンは今でも地球にいる可能性が高い!
- 第20章 アポロの秘密 - 人類で初めて月に降り立ったのは、日本人だった!
- 第21章 日本征服運動 - 70年代の日本は、無数の秘密結社に狙われた!
- 第22章 ヒーローラッシュと防衛ブーム - ヒーローでなければ生きられない時代が到来した!
- コラム - 東京が正義の組織に占領される日!
- 第23章 日本沈没 - 70年代中盤の日本は、実は2度も沈没していた!
- 第24章 天体交差点 - わずか20年間に、7つもの天体が地球に大接近した!
- コラム - 「アルマゲドン」は、江戸時代にもあった!
- 第25章 恐怖の大王、降臨! - 1999年7月、「恐怖の大王」はやってこなかった!
第三章 未来編
- 第26章 新世紀の景観 - 鉄腕アトムの原型となる少年は、すでに生まれている!
- 第27章 大惨事世界大戦(「大惨事」は原文まま) - アトムから5年後、日米は開戦し、世界を戦禍が襲う!
- 第28章 ロボット時代の黄昏 - 日本の人間型ロボットの開発熱は、急速に冷めていく!
- 第29章 宇宙開拓時代のあけぼの - 宇宙進出時代、地球の平和は一家族によって守られる!
- コラム - 「宇宙世紀」という、もう一つの空想歴史!
- 第30章 地獄から天国へ - ロボットやタイムマシンが子どもにも気楽に買える時代!
- 第31章 ヤマトは日本のために! - 宇宙戦艦の孤軍奮闘が、日本の超大国化をもたらす!
- 第32章 閉じていく時の輪 - 4度目の第三次世界大戦勃発!人類は過去へ・・・・・・!
- コラム - コンピュータは進化せず、ただ暴走するのみ!
- 第33章 人類滅亡 - そして3713年、人類は猿によって滅ぼされる!!
[編集] 扱っている主な作品と扱っていない作品
基本的に日本で放送されたアニメ・特撮、または時代劇でも主人公が変身したり怪人、怪獣が登場するものを扱っている。
日本の普通の時代劇で取り上げたのは『暴れん坊将軍IX』のみ、海外のSF作品では『サンダーバード』のみで、ほかは基本的に除外されている。例えば『猿の軍団』はあるが『猿の惑星』は紹介されていない。
それでもさすがに1冊の本にまとめるには限界があり、全ての空想歴史を扱うことはできていない。巻頭の「空想歴史年表」では多くの作品を扱っているが、本文で言及していないのも一部あり、また、2006年までの時点で続編も出版されていない。
『ウルトラマン』で語られた「3億5000年前(=300005000年前)の地球に古代人がいた」という話や『アイアンキング』での「2000年前の大和政権」の話があるが、『大長編ドラえもん』で3億年前に犬と猫が文明を創った「のび太のワンニャン時空伝」や数万年前の日本人の祖先を描いた「のび太の日本誕生」は言及されていない。
6500万年前に恐竜が絶滅したあと、「実は恐竜たちは地下などで生き延びた」というフィクションについて、本書では『ゲッターロボ』と『恐竜大戦争アイゼンボーグ』の例を挙げているが、『大長編ドラえもん』の「のび太と竜の騎士」でも同様の設定があることに言及していない。また、彗星衝突のあと、一部の恐竜がオアシスに逃れたディズニー映画『ダイナソー(Dinosaur)』も海外の作品ということか除外されている。
飛鳥時代では『世界忍者戦ジライヤ』の「聖徳太子が巨大ロボットを作った」という空想歴史を取り上げているが、それから戦国時代の『快傑ライオン丸』に続き、著者は奈良時代から室町時代までを「空想歴史の大空白期」とし、その間を扱った作品が「存在しない」と断定している。もちろん、この本で取り上げられていない作品で、飛鳥、奈良から室町、戦国までの時代を描いたものは、いくらでも存在する。
例えば、聖徳太子の若年期を描いた『日出処の天子』や主に7世紀を舞台にした『西遊記』(『大長編ドラえもん』の「のび太のパラレル西遊記」、『タイムボカン』、手塚治虫のアニメ『悟空の大冒険』、『ぼくの孫悟空』など)、平安時代を描いた『陰陽師(おんみょうじ)』などは言及されていない。『竹取物語』は冒頭の年表にあるだけで本文での言及はない。
また、平安時代末期の牛若丸と武蔵坊弁慶の対決(『タイムボカン』、『うる星やつら』など)、室町時代が舞台と思われる『桃太郎』(『大長編ドラえもん』の「ぼく、桃太郎のなんなのさ」)、『一休さん』なども省かれている。
また、空想歴史なら「時代劇」を無視できないが、この本ではもっぱら「特撮ヒーロー時代劇」を扱っており、信長の時代から江戸初期までを「やはり作品がなく、空想科学がまた素通りしてしまった」と述べており、江戸時代については「作品が少なく、空想歴史の中だるみの時期」と見なしている。
この本では、戦国時代では『快傑~風雲ライオン丸』、『仮面の忍者赤影』、江戸時代では『妖術武芸帖』、『魔人ハンターミツルギ』、『変身忍者嵐』、『白獅子仮面』、そして『キカイダー01』で01たちがタイムトンネルで平賀源内の時代に向かった話が紹介されている。
一方、上記のようにこの『歴史読本』で扱った「普通の時代劇」は『暴れん坊将軍IX』(享保)の彗星衝突の話だけで、それも「過去編」の江戸時代の章でなく「現代編」(20世紀後半)の天体接近の章の合間に余話のように取り上げているだけである。大岡越前については『白獅子仮面』を取り上げているだけで、挿絵の大岡越前の似顔絵が加藤剛に似せて描かれているが、加藤剛版の『大岡越前』は取り上げられていない。また、元禄の『水戸黄門』も、やはり巻頭の年表にあるだけで本文では言及がない。
例えば『戦国自衛隊』(川中島~関が原)のようなSF的な作品までもが除外されている。白土三平の『忍者武芸帳』(織田信長の時代から本能寺の変を経て豊臣秀吉の刀狩りまで)と『サスケ』(江戸初期が舞台)、『カムイ伝』(江戸時代)も全く取り上げられていない。
一方、柳田理科雄の『空想科学読本3』では上記『暴れん坊将軍IX』の「彗星衝突」を科学面で検証しなおしたほか、『必殺仕事人』の「勇次の三味線糸」を検証、さらに同『4』で『水戸黄門』の「弥七の風車」、『木枯し紋次郎』の「楊枝」にも触れているが、『歴史読本』では『必殺シリーズ』や『紋次郎』には言及していない。
これは、『忠臣蔵』や『遠山の金さん』のような「普通の時代劇」を扱うと特に戦国から幕末まで扱う作品が膨大になるので、著者が意図的に避けた可能性がある。本書では江戸時代でも天保から幕末までが抜けており、近代でも明治と大正を扱った作品が欠けている。
18世紀末のフランス革命前後を描いた『ベルサイユのばら』と『ラ・セーヌの星』を扱った章があるが、その後はいきなり20世紀半ばの第二次世界大戦以降を描いた『海底軍艦』や『鉄人28号』などに話がとんでおり、おそらくは19世紀が舞台の『赤胴鈴之助』(主役は千葉周作門下)や『るろうに剣心』(明治時代初期)も全く取り上げられておらず、20世紀初頭の第一次世界大戦前後を描いた『キャンディ・キャンディ』と『はいからさんが通る』も全く無視されている。
20世紀の60年代以降は、怪獣、怪人、ロボット、SFものがほとんどであり、ほかはアクションもので『北斗の拳』や『ワイルド7』があるくらいで、東京オリンピック(1964年)や川上巨人V9(1965年~1973年)以降を舞台にしたスポーツ漫画は取り上げられていない。
また、古代から未来までを描いた手塚治虫の『火の鳥』も扱われていない。
上述の「何度も起きた人類滅亡」についても、『デビルマン』で描かれた「デーモン出現から20年後のデビルマンとサタンの最終戦争(連載とテレビ放送は1972年~1973年ごろだが、単行本で「ヒマラヤで198X年にデーモン出現」が追加されたので、最終戦争は西暦2000年ごろ)」には触れていない。本書では『デビルマン』に関しては氷河期にデーモンが眠りについた話と20世紀にデビルマンがデーモンと戦った「歴史」だけが紹介され、不動明と飛鳥了が過去にタイムスリップした話は省かれている。
また、『ドラえもん』については22世紀の「ドラえもん製造」が紹介されているだけで、上記のようにドラえもんとのび太の個別の時間旅行については描かれていない。
更に西暦に直すと10000年代を舞台としている『宇宙一の無責任男(無責任艦長タイラー)』などの地球に根拠を維持しながらも宇宙に進出したスペースオペラ系SF作品に関する記述も殆どない。
[編集] 関連書籍
空想科学読本シリーズ
- 空想科学読本シリーズ - 柳田理科雄 著
- 空想科学映画読本シリーズ - 柳田理科雄 著
- 空想科学漫画読本シリーズ - 柳田理科雄 著
- 空想科学日本昔話読本 - 柳田理科雄 著
- 空想科学論争! - 柳田理科雄・円道祥之 著
- 空想法律読本 - 盛田栄一 著
- 空想非科学大全 - 柳田理科雄 著
- 空想英語読本 - Matthew Fargo 著
- 空想科学大戦!シリーズ(漫画作品) - 柳田理科雄 原作