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積分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

数学において積分(せきぶん、integral)あるいは積分法(せきぶんほう、integration)とは、図形の面積体積などといったものを求める方法である求積法の一種で、面積や体積などを微小な要素の集まりとして計算する方法である。積分法にはリーマン積分 (Riemann integral)、ルベーグ積分 (Lebesgue integral) などがあるが、本項では主にリーマン積分を中心に概説する。

目次

[編集] 定義

ここでは一変数の実関数についてのみ扱う。

[編集] 区分求積法

ここで、f(x) を区間 [a, b] で定義された実数値関数とする。簡単のため、f は非負値しかとらないと仮定する。すると、集合 S = Sf = {(x, y) | x ∈ [a, b], 0 ≤ yf(x)} は x-軸と f の間の領域となる。素朴な直感的な定義では、この集合 S の面積の大きさを f の積分といい

\int_a^b f(x) dx

と記す。この記法はライプニッツによるものであるが、この記法は以下に示すような区分求積の概念を端的に表しており、置換積分の公式などに見られるような優秀性を持っている。

集合 Sf の中に微小な短冊形の長方形を敷き詰め、その長方形の面積の総和によって Sf の面積

\int_a^b f(x) dx

を確定する方法を区分求積法という。

[編集] リーマン積分

区間 [a, b] の分割 Δ に対して、各微小区間 [xi-1, xi] から任意に点 ξi をとって作った和

\sum f(\xi_i)\delta_i

i = xi - xi-1) を、関数 f(x) の分割 Δ に関するリーマン和という。これは微小な長方形の総和である。このリーマン和が δ = max{xi+1 - xi} → 0 の極限で分割 Δ の取り方に依らずある一定の有限な値に収束するならば、その極限値を以って

\int_a^b f(x) dx

を定め、関数 f のリーマン積分と称する。またこのとき、f は(区間 [a, b] で)積分可能あるいはリーマン可積分であると云う。

このことをより精しくみるために、以下のようなことを考えよう。 次のような 2 つの長方形の集合を考える。

A = \{[p_{i},p_{i+1}]\times[0,M_{i}] \ | \ 0\le i \le n-1\} \quad (M_{i} = \sup\{f(x)|x\in [p_{i},p_{i+1}]\})
B = \{[p_{i},p_{i+1}]\times[0,m_{i}] \ | \ 0\le i \le n-1\} \quad (m_{i} = \inf\{f(x)|x\in [p_{i},p_{i+1}]\})

但し、p0 = a , pn = b , p0 < p1 < … < pn とする。この時、A, B に含まれる長方形の面積の総和は、明らかに

\sum^{n-1}_{i=0} M_i(p_{i+1}-p_{i}) \ , \ \sum^{n-1}_{i=0} m_i(p_{i+1}-p_{i})

となる。この時、A, B に対する総和の極限値が存在して(それぞれ上積分下積分ともいう)それらが相等しくなることは、リーマン積分が存在することの必要十分条件である。極限値が存在しなかったり、上からと下からの極限の値が異なったりするときは積分の値を決定できない。この場合、"リーマン積分不可能" という

ライプニッツの記号はリーマン和の ∑ を ∫ 、δ を dx と書き換えたものになっていると見ることができる。実際、∫ は総和 (Summation) の頭文字 S を変形させた記号である。

[編集] リーマン積分の例

次の積分

\int^{1}_{0} x^2 dx

を区分求積法により求めてみよう。まず x の動く範囲 [0, 1] を n 等分し、pi+1 - pi = 1 / n とする(積分の値が分割の仕方に依らないので、計算しやすいようにこのようにする)。 明らかに Δ = 1 / n であるから、x2 が積分範囲で単調増加であることと併せて、Mi = (i /n)2 , mi = ((i + 1)/n)2。従って、上積分・下積分は、それぞれ

\lim_{n \to \infin}\sum^{n-1}_{i=0}\frac{1}{n}\left(\frac{i}{n}\right)^2,\quad  \lim_{n \to \infin}\sum^{n-1}_{i=0}\frac{1}{n}\left(\frac{i+1}{n}\right)^2

となる。下積分が

\lim_{n \to \infin}\sum^{n-1}_{i=0}\frac{1}{n}\left(\frac{i+1}{n}\right)^2 = \lim_{n \to \infin}\sum^{n}_{i=1}\frac{1}{n}\left(\frac{i}{n}\right)^2

と書けることより、上積分と下積分の差は、

\lim_{n \to \infin}\left(\frac{1}{n}\left(\frac{0}{n}\right)^2 - \frac{1}{n}\left(\frac{n}{n}\right)^2\right) = \lim_{n \to \infin}(-\frac{1}{n}) = 0

となるから、両者の値は等しい。従ってリーマン積分可能である。この時、下積分だけ求めれば十分であるから、

\int^{1}_{0} x^2 dx = \lim_{n \to \infin}\sum^{n}_{i=1}\frac{1}{n}\left(\frac{i}{n}\right)^2 = \lim_{n \to \infin}\frac{2n^3+3n^2+n}{6n^3} = \frac{1}{3}

を得る。

[編集] リーマン積分不可能な関数

閉区間上で連続な関数は必ずリーマン積分を有する。積分を面積と捉えれば、有限個の不連続点しか持たない区分的に連続な関数もリーマン積分可能であるのは自然なことだろう。したがって、リーマン積分不能な関数は少なくとも無限個の不連続点を持たなければならない。 例えば、ディリクレの関数

d(x) =  \begin{cases} 1 \ (x \in \mathbb{Q})\\ 0 \ (x \ \not\in\  \mathbb{Q}) \end{cases}

は、リーマン積分不可能である。ここで、Q有理数全体の集合を表す。積分

\int^{1}_{0}d(x)dx

は積分範囲内にどのような点 pi を取っても、区間 [pi, pi+1] の中に有理数も無理数も必ず存在する。従って、恒等的に Mi = 1 , mi = 0 が成り立つから、上積分が 1 で下積分が 0 となってしまい、両者の値が異なることより、リーマン積分不可能となるのである。

しかしながら、当に積分のリーマンの定義によって初めて、不連続点を稠密に含みながら積分可能な関数、というものも同時に現れるのである。以下の例は、リーマン自身によるものである(前出の論文)。 関数 (x) の値を、x が丁度整数間の中央にある時には 1/2、それ以外では、x から最も近い整数から x を引いたもの、と定義する。このとき、関数 f

f(x)=\sum^\infin_{i=0}\frac{(nx)}{n^2}

で定義すると、この関数 f は、n を整数、p を奇数として x = p / 2n では不連続、従って無限個の不連続点を含んでいるが、積分可能な関数である。

[編集] 広義リーマン積分

無限区間における積分(無限積分)、無限大に発散する点を含む区間における積分(異常積分improper integral)など。極限により定まる。

\int_{a}^{\infty} f(x) dx := \lim_{r \to \infty} \int_{a}^{r} f(x)dx,
\int_{-\infty}^{\infty} f(x) dx :=    \lim_{s \to -\infty,\,r \to \infty} \int_{s}^{r} f(x)dx,
\int_{0}^{1} {dx \over x^2} :=    \lim_{\varepsilon \to +0} \int_{\varepsilon}^{1} {dx \over x^2}.

これらの極限値が有限値に定まるとき、広義リーマン積分可能であるという。一方、広義リーマン積分可能でなくとも極限のとり方を限定するとき極限値が有限確定に存在することがある。たとえば

\int_{-1}^{1} {1 \over x} =    \lim_{\varepsilon_1 \to -0}  \int_{-1}^{\varepsilon_1} {dx \over x} +    \lim_{\varepsilon_2 \to +0} \int_{\varepsilon_2}^{1} {dx \over x}

は -∞ + ∞ の形の不定形であり、ε1, ε2 の 0 への近づき方により値が異なるため、広義リーマン積分可能でない。しかしながら ε1 = ε2 という特殊な場合には

\mbox{p.v.}\int_{-1}^{1} {1 \over x} =    \lim_{\varepsilon \to +0}    \left(     \int_{-1}^{-\varepsilon} {dx \over x} + \int_{\varepsilon}^{1} {dx \over x}    \right)  = 0

となる。このように上下から同等の速さで特異点に近づける極限で現れる値をコーシーの主値principal value、略して p.v.)という。

(スタブ)

[編集] 積分法に関する公式

  • 置換積分法:(a = x(α), b = x(β) なる条件の下)
    \int_{a}^{b} f(x)dx = \int_{\alpha}^{\beta} f(x(t)) {dx \over dt} dt.
  • 部分積分法:
    \int_{a}^{b} f'(x)g(x) dx = [f(x)g(x)]_{a}^{b} - \int_{a}^{b} f(x)g'(x) dx.

[編集] その他の積分

[編集] リーマン・スティルチェス積分

有界変動の関数 φ によるリーマン和の変形から定まる積分:

\int_{a}^{b} f(x) d\varphi(x) = \lim \sum f(\xi)\delta\varphi.

リーマン・スティルチェス積分という。φ(x) = x のときは通常のリーマン積分。φ が可微分関数で φ' が連続なら、

\int_{a}^{b} f(x)d\varphi(x) = \int_{a}^{b} f(x)\varphi'(x)dx

で、これは密度を持つリーマン積分。

(スタブ)

[編集] ルベーグ積分

狭義には、ルベーグ測度による積分。この意味では可算無限個の不連続点をもつ至る所連続な関数は積分できる。リーマン積分ではジョルダン測度を用いているため、前述のディリクレ関数などを積分することができなかったが、ルベーグの意味では積分可能である。有理点のルベーグ測度は 0 であり、積分の結果は 0 になる。

広義には測度という汎関数を用いた積分作用素

\int_X f(x)\,d\mu(x).

測度論がやや抽象的なため取っ付きにくいが、その分積分自体は極限操作に秀でている。

詳しくはルベーグ積分を参照。


[編集] ルベーグ・スティルチェス積分

リーマン・スティルチェス積分の拡張。加法的集合関数の変動が定める測度に関するルベーグ積分。

\int_X f(x)\,d\Phi(x)

(スタブ)

[編集] リーマン型積分

通常のリーマン積分は、積分区間の分割の幅を一様に0に近づけたときの対応するリーマン和の極限として定義されるが、リーマン和の取り方や分割の幅の縮め方を変えることによってさまざまな積分を定義でき、このように定義される積分をリーマン型積分と言う。たとえば、マクシェイン積分(McShane integral)ヘンストック・カーツヴァイル積分(Henstock-Kurzweil integral)などのゲージ積分がリーマン型積分である。

[編集] 歴史

図形の面積や体積の求積法は、特殊なものに限れば古代からいくつも知られており、その起源は定かではないが、積分法の起源としては古代ギリシアの数学書ユークリッド原論にもある取り尽くし法(積尽法、窄出法、method of exhaustion)などの幾つかの技法に求めることができるだろう。取り尽くし法は放物線とある弦が囲む面積を無数の三角形で覆い尽くそうとするものである。実際にはいくらやっても覆い尽くすことはできないため、ここで無限和の計算をすることになるが、アルキメデス自身は今で言う ε-δ 式の論法によりこの問題を回避したようである。古代ギリシャでは、三角形を最も基本的な図形と捉えていたため、このような三角形による求積法が盛んであった。

時代が下り、17世紀になってライプニッツニュートンらにより微分法が発見されると、極めて技巧的な手段に頼っていた求積法は、原始関数と微分積分法の基本公式による一般的な方法で解かれることになる。18世紀にはベルヌーイらやオイラーなどによる無限小解析の発展・整備によって計算技巧は大いに発達したが、19世紀に入るとフーリエ級数の厳密な研究などを通して、初めて積分自体の意味を問わなければならない情況が生じるようになった。実際、積分の厳密な定義は、リーマンに因って論文「任意関数の三角級数による表現の可能性について」(1854年)の中で最初に与えられた。

20世紀に入ってすぐ、やはりフーリエ級数についてなど様々な解析学上の問題に刺激されて、ルベーグは、面積や体積とは何かということに就いて深く考察することにより測度論を展開し、現在ルベーグ積分論と呼ばれているものをつくった。リーマン積分可能な関数(但し広義積分は含めない)はルベーグ積分可能であるという意味では、ルベーグ積分はリーマンのそれの一般化になっている。ルベーグが測度論を用いて展開したルベーグ積分は、彼の測度論がもつ極限との親和性と抽象性から、確率論ヒルベルト空間論、調和解析など極めて広範な応用をもち、これらは物理学や工学などで基本的な道具として用いられることとなる。

ルベーグ積分以後も更なる一般化がされた積分法が幾つか存在する。

(かなりスタブ)

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

積分に関する教科書・参考書は膨大な量になるが、利用者の便を図り、レベル・内容別に有用と思われる文献を挙げる。

  • 入門者向け
    • 篠崎寿夫、松浦武信『ルベーグ積分と関数空間入門』現代工学社 1991年 ISBN 4-87472-149-4: 物理・工学系の学生向け
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