不定積分
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連続関数の不定積分とは、ある関数が与えられているとき、微分すると与えられた関数に一致するような新たな関数(原始関数)を求める操作のこと、およびその原始関数の(任意の)ひとつ。
不定積分の重要性は、微分積分学の基本定理を用いて積分の計算から(リーマン和と言われる)複雑な極限操作を取り除くことができるようになるところにある。このことを逆手に取り、日本の数学教育においては(1970年代以降(?)の教科書で)、積分概念の導入に当たって、微分の逆操作としての不定積分を基礎に据えた論理展開をはかるように構成されている。しかしこれは、本来面積を求めるためのものである積分概念の本質が見えにくく、積分概念の獲得という面からは大きな障害をもたらす危険性を孕んでいる。
また、後述するように、一般には不定積分は原始関数とは関連性のない概念であるが、連続関数に対してはほぼ一致する概念であるため、しばしば混同して用いられる。本項でもしばらく、「不定積分」という言葉を冒頭で述べた意味で用いて話を進める。また、不定積分と原始関数という言葉を、以下の定義に従って使い分けることにする。
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[編集] 定義
関数 f(x) が与えられたとき、微分方程式 (dF / dx)(x) = f(x) の解となる関数 F(x) を f(x) の原始関数といい、一般解 F(x) を f(x) の不定積分という。
定義から、不定積分は一つの関数を表すものではないことに注意すべきである(実際、一階の微分方程式の一般解なのであるから、少なくとも一つの積分定数とも呼ばれる任意定数を含む)。実用上は任意定数の値を決めるごとに原始関数が一つ現れるから、あたかも一つの関数であるかのように扱うことができる。
関数 f(x) の不定積分は、端点を指定しないリーマン積分の記法(ライプニッツの記法)を用いて
のように表される。
[編集] 定積分との関係
不定積分と積分(定積分)は、その定義こそ大きく異なるものの、非常に密接な関係がある。実際、f(x) を連続関数とすると、定数 c を一つ決めるとき
が成り立つから、
は原始関数のひとつで、F(c) = 0 を満たすものである。さらに、f(x) の他の原始関数 G(x) をとると、
- F(x) = G(x) - G(c)
が G の取り方によらずに成り立つ(二つの原始関数は定数の違いしか持たない)。ゆえに f(x) の不定積分は任意定数 C を与えることにより
と書くことができる。ここで任意定数 C は通常、積分定数と呼ばれる。あるいは C の任意性は上で固定した定数 c の任意性に読み替えることもできる。つまり、c を x とは無関係の任意の値をとりうる定数と思うときの
が不定積分と呼ばれるものの実体であり、これが不定積分を
と記す根拠であるとも言える。 また、逆に、f(x) の原始関数 F(x) が与えられれば、
が言える。これを、微分積分学の基本公式という。積分を、定義から直接にリーマン和(微小長方形の面積の総和)の極限として求めるのは非常に困難であるが、不定積分を用いると非常に計算が楽になる。
[編集] 性質
[編集] 一般公式
- (部分積分法)
- (置換積分法)
[編集] 有名な関数に対する公式
[編集] 一般化
[編集] 不連続関数の不定積分
一般に連続とは限らない関数 f(x) に対しても、c を x とは無関係の任意の値をとりうる定数と思うときの
を f(x) の不定積分と呼ぶ。これは c の値をとめるごとに、x の連続関数を与えるが、必ずしも微分可能ではない。また、微分可能となるとしても、導関数が f(x) に一致するとは限らない。すなわち、一般には原始関数と不定積分は異なる概念である。
[編集] ルベーグ積分論における不定積分
ある集合 X 上でルベーグ可積分な関数 f(x) に対して、E ⊂ X なる集合を変数とする集合関数
を f(x) の不定積分と呼ぶ。
[編集] 関連項目
- 積分(定積分)