種子
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※仏教用語の「種子」(しゅじ)は種子 (仏教)を参照。
種子 (しゅし) とは種子植物で有性生殖によって形成される散布体である。一般には、単に種(たね)と呼ばれることが多い。種子は親植物の組織起源の種皮という皮に包まれ、その中には受精卵から発育した幼い植物体、すなわち胚が入っている。
種子は、一見何も構造がなくて単純な形なのに、そこから巨大な樹木すらもが発生してくることから、”災いの種”という風に、物事の何気ない始まりを種子や種という言葉を使う場合がある。また、農業上繁殖に用いられるものも、厳密には種子でなくとも、種もみ・種いも・種馬などと呼ばれる。
種子はめしべにある胚珠から発達する。
被子植物の場合、種子は子房につつまれていて、これがのちに果実となる。 裸子植物の場合、めしべの表面に乗っている。
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[編集] 種子の構造
たとえば、豆は様々なマメ科植物の種子である。これを例に、説明してみる。
- 豆は、普通、細長い鞘の中にいくつか並んで収まっている(アメリカデイゴの豆果) 。この鞘は、めしべの基部、子房がふくらんだものである。子房は胚種を中に収め、それが種子に発達してもそれを包んでいる。この構造を果実と言う。
- 個々の豆の表面は、薄い皮につつまれている。この皮を種皮と呼ぶ。
- 種皮をはがすと、中には大きく二つに割れる部分がある。半球形の2つの部分は、小さな出っ張りの部分でつながり、その間にはには小さな折り重なったような構造が見られる。半球形の部分は子葉(しよう)と言い、発芽すると双葉(ふたば)として地上に姿を現す(種子内にとどまるものもある)。丸くふくらんでいるのは、栄養が蓄えられているからである。
- 子葉をつなぐ出っ張りは、胚軸(はいじく)と言って、芽生えた苗の茎と根になる部分である。間に挟まった折り重なったものは、双葉の次の本葉が既にできているのが見えているものである。
このように、種子の中には、既にこれから発芽する苗が含まれている。 カキの種子では、中の様子がかなり異なっている。カキの種子を半分に切ると、幼い植物体は種子に比べてずっと小さく、種皮の中は半透明の固いものでつまっている。これは胚乳と言って、胚嚢の2つの極核と花粉管1つの精細胞の合計3つの核が受精したものに由来する。このような種子では、胚乳に栄養が蓄えられている。イネやムギなどの種子の場合、幼植物は種子の端っこ部分にあり、種子本体の大部分は胚乳である。
基本的に被子植物の種子は発生の出発点において極核と精細胞が受精した3倍体核に由来する胚乳を生じるが、一部の植物では二次的に胚乳が退化し、その代わりに子葉などに発芽のための栄養分を蓄える。また、ラン科(エビネの種子)など若干の植物は発芽のための蓄えを持たず、菌類との共生に依存するなどして発芽する。また、裸子植物の胚乳は1倍体の雌性配偶体自体に由来し、シダ植物の前葉体と相同の器官で、被子植物の胚乳とは異質な面がある。
種子は、幼植物が発芽するための栄養分を蓄えている。栄養分は子葉か胚乳に蓄えられている。そのため、動物から見れば種子は魅力的な食料である。人間の食物の中にも、種子は様々に用いられ、特にマメ科やイネ科のものは、主食の位置を占める。イネ科の主食に使われる種子を穀物と呼ぶ。蓄えられる栄養分は、でんぷんか油脂の形である場合が多い。
[編集] 種子の散布
植物は、基本的に移動能力がない。ある場所で種子が発芽をすれば、そこに一生とどまるのが基本である。したがって、種子が好適な場所に到達する事ができなければならない。現に親植物が生息している以上、親の足元は好適地であるから、親が自分の足元に種子を落とすのは一つの方法だが、それでは親子、あるいは子供同志で無意味な競争をせねばならない。また、分布拡大の意味からも、種子はある程度以上、遠くに運ばれる必要がある。
実際には、種子にも移動能力はないので、種子の散布は、何か外の力に頼らざるを得ない。そのために、それぞれの植物は、何かに頼って種子を散布するための方法を発達させて来た。なお、散布の単位として働くのは、種子そのものである場合と、果実ごと運ばれる場合がある。ここでは区別せず説明する。
- 風による散布は、物理的な力に頼るものとしては、よく見られるものの一つである。裸子植物のクロマツやアカマツでは、種子の一端が薄い膜状に伸びて、空中にでると、風を受けて、回転しながら飛んでゆく。同じような構造を発達させたものに、カエデ科のもの(モミジの仲間)やアオギリなどの果実がある。同じ風を利用するにも、キク科のタンポポ(セイヨウタンポポの痩果) などは、果実の一端から多数の毛を生じて、これが風を捉える方法を取っている。同様なものは、ガガイモ科のガガイモの種子、イネ科のススキの果実など、多くのものに見られる。
- 水による散布を行うものもある。水はものを運ぶ力が強いので、特別な適応がなくても勝手に運んでくれるので、多くの種がその恩恵をこうむっていると思われる。特に、水による運搬への適応を示しているので有名なものにラッカセイ(落花生・ピーナッツ)がある。豆の鞘が空気を含み、水に運ばれやすくなっている。スゲの仲間の果実は後述のアリによる種子散布に適応したものと水による種子散布に適応したものの2つに大別される。
- 海流による散布は、海岸性のごく限られた植物に見られる。陸上植物には、海水が有害なので、まず塩分に耐えられる事が前提になる。ハマユウやマングローブの胎生種子や、ゴバンノアシなど、熱帯の海岸性植物には、大きくふくらみ、海水に浮かぶ果実や種子をつけるものがあり、これらは海流による散布に適応したものである。ココヤシの果実は、遠く日本本土に流れつくので有名である。
- 動物による散布は、いくつかの型がある。
- 餌となる事による散布をめざすものは、種子や果実が動物の食料として選ばれ、この時に散布の手助けをして貰う事を期待するものである。
- いわゆる果物(くだもの)を多く含む漿果の果肉はそのために発達したものである。哺乳類や鳥類などに果物を食わせておき、同時に種子を丸呑みさせ、糞と一緒に排出され、そこで発芽する訳である。この場合、果肉は大きく柔らかく、糖分や脂肪を多く含む。それに対して種子は小さかったり、大きくて硬く、壊されにくい構造になる。ドリアンやレイシ、イチイのように果皮起源の果肉ではなく仮種皮を果肉として発達させるものも多い。
- ドングリの場合、食料になるのはでんぷんを多量に蓄積した種子そのもの(コナラの堅果) である。種子散布に寄与する動物はリスのように種子を集めて貯蔵する習性がある動物である。餌になるとその時点で種子としての役割を失うが、それでも絶滅することがないのは、壊されるのが子葉の一部に過ぎなければ充分発芽に役にたつという側面があるとともに、貯蔵種子の一部を忘れてしまったり、食べ余したもの種子散布に役立っていると考えられている。
- 種子そのものが食料になるのではなく、種子に餌をつけて運ばせるように進化したものがある。スミレ類やカタクリは種子に付属するエライオソームと呼ばれる脂質を多く含む肉質の部分を持つ(ニシキスミレの種子) 。これがアリの餌となってアリに運ばれる。
- 動物の体表面にくっつき、運んで貰うための種子を発達させたものもある。果実や種子の一部に粘着物質を出したり、棘や毛で絡み付いたりするようになっているものである。人間の衣服にもよくくっつき、日本では、秋の山野にでかければ、必ず何種類かの種子に絡み付かれ、後で取るのに苦労する、いわゆる”ひっつき虫”イガオナモミの「いが」がこれにあたる。
- 餌となる事による散布をめざすものは、種子や果実が動物の食料として選ばれ、この時に散布の手助けをして貰う事を期待するものである。
- 機械的に種子を飛ばす仕組みを発達させたものもある。有名なのはホウセンカで、果実が成熟すると、何かの刺激があると果実が割れ、皮が大きくゆがんで、中の種子を跳ね飛ばすようになっている。
[編集] 種子の休眠と発芽
種子は、好適な条件下で、種子の中にある幼い植物体が成長をはじめ、種皮を破って伸び、葉を地上に現す。これを発芽と言う。
それ以前には、多くの植物で、種子の中の植物体は休眠状態にあり、長く活動を停止して生き延びられる。生き延びられる期間には種によって様々であり、何年も保たないものもあれば、数十年にも渡って発芽力を維持するものもある。長生きで有名なのはハスで、弥生時代の遺跡から発掘された種子が発芽した例があり、”大賀ハス”として知られている。
いずれにせよ、発芽の条件がそろえば発芽する訳だが、この時、すべての種子が発芽するわけではなく、発芽せずに残るものがあると言う。これは、種子が休眠するには充分でも、発芽してみて、成長するには条件が悪ければ枯れるわけなので、全種子が死滅する危険を回避する意味があると言われる。
どの様な条件で、休眠が解除され、発芽が始まるかは、その種の性質により、様々である。
[編集] 種子の起源
最初に種子を形成した植物は、古生代末期のシダ種子植物である。シダ植物的な葉の表面に種子を並べた化石が発見されている。この仲間では、杯状の種皮の中に、雌性前葉体が閉じこめられている。
普通のシダ植物は、葉の上に胞子を形成し、放出された胞子は湿った地面で発芽して前葉体となる。前葉体の下面に造精器、生卵器を形成、受精が起こる。受精卵は前葉体の上で発生をはじめ、植物体が発達する。
進化の道筋としては、おそらく、そのような形から、精子のみを作る雄性前葉体と卵のみを作る雌性前葉体が分かれるものが現れたらしい。現在でも、水生シダなどに、そのようなものがあり、雌性配偶子になる大胞子と雄性配偶子になる小胞子を別々の胞子のうの中に作る。 さらに、大胞子が胞子のうから出る前に発生を始めるものが現れ、それを保護するための覆いが発達したのが種子の起源であると思われる。このようなことになったのは、陸上生活する維管束植物の生活史の中で、前葉体の時代が最も水に依存するからであろう。精子が卵の所まで泳がなければならない。そのためには水が必要になり、水がなければこの段階を超えられない。そこで、この段階を母植物の上で過ごしてしまう方向へ進化が進んだのであろう。精子を作る小胞子は種子のそばで発芽し、そこで精子を作れば、母植物の葉先の水滴だけで受精が可能になる。
種子の皮である種皮は、胞子のうの袋とそれを守る皮からできている。未発達の種子を胚珠と呼ぶ。
受精した卵は母植物から栄養をもらってその場で発生をはじめ、小さな植物体にまで発達して休眠状態となる。そして、種子が放出され、好適な場所に落ちるまでを待つことになる。
現生の裸子植物では、大胞子のうをつける胞子葉はごく簡単な形のものが多く、ソテツの雌花に少しだけ葉の形のおもかげが見られる。それ以外のものでは、鱗片状の形で、それが軸の周りに密に折り重なり、いわゆる松ぼっくりの形になっている。鱗片1枚を取り出すと、その上に左右1つづつの胚珠が並んでいる。
さらに、胚珠を胞子葉がつつむようになったのが被子植物である。胚珠は子房という袋状の部分におさまり、小胞子(花粉)は胞子葉(めしべ)の特定の部分(柱頭)に付着して、胚珠まで花粉管をのばすことになった。
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