マングローブ
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マングローブ(Mangrove)とは、熱帯地方の河口域などの塩性湿地に生育する森林のことである。日本では沖縄から九州南端まで生育地がある。
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[編集] 生育条件
マングローブは森林の型につけられた名であって、そのような名の植物があるわけではない。マングローブと呼ばれる森林は、マングローブ林とも言い、熱帯から亜熱帯の海水に浸る土地に生育する。波当たりのある場所では生育せず、主としてある程度以上の大きさの川の河口域に成立する。しかし、波当たりがなければ、たとえば内湾などでは普通の海岸でも生育する場所がある。
波当たりのない、遠浅で汽水の場所であるので、泥がたまりやすく、マングローブ林より海側の区域は干潟になる場合が多い。泥質に生育する樹木には往々に見られることであるが、泥質の中は酸素が不足がちになるため、呼吸根といわれる、地表に顔を出す根を発達させるものが多い。
マングローブ林の外縁(海側)のものは満潮時には幹や一部の葉まで海水に浸り、内側は塩分を含む泥質ではあるが、直接に海水を被ることはなく、そこから陸上の植生につながる。生育する植物の種は群落内の各地点で異なり、耐塩性の違いなどによって帯状分布を示す。
マングローブ林は、亜熱帯上部、たとえば九州ではせいぜい2mの高さのところもあるが、熱帯地域では30mに達するものがある。また、特有のつる植物もあり、場所によっては若干の草本も出現する。
[編集] マングローブ植物の特徴
マングローブ林を構成する植物は樹木が多く、それにつる植物や多少の草本が交じる。ニッパヤシもマングローブ周辺に出現する。
主要構成樹種の一つにヒルギ科の植物があり、日本にはオヒルギ・メヒルギ・ヤエヤマヒルギの3種がある。いずれもつやのある楕円形の葉をもつ。葉は分厚く、厚いクチクラ層におおわれる。呼吸根をもち、その形は種によってさまざまである。メヒルギはわずかに板根状になる。オヒルギのものは膝状に地表に顔を出す。ヤエヤマヒルギの場合、タコの足状に地表より上から斜めに根が伸び、幹を支えるようになるので支柱根とよぶ。
また、これらの植物は、果実が枝についている状態で、根が伸び始め、ある程度の大きさに達すると、その根の先端に新芽がついた状態で、果実から抜け落ちる。このように、親植物の上で子植物が育つので、このような種子を胎生種子と呼ぶ。親を離れた種子は、海流に乗って分散し、泥の表面に落ちつくと成長を始める。親植物からはなれた時、下の泥に根が突き刺さってそこで成長すると言われることもあるが、見かけで判断した俗説である。
他にも、マングローブ林を構成する木はいろいろあるが、海流に乗って分散する種子を作るものは数多い。
[編集] 生息する動物
マングローブ林は海水の影響のもとにある。海側は干潟に接し、陸側は海水の影響がなくなるところまでにあたる。主要な動物は海産動物である。
潮が引いた時には、多数のカニが出現する。干潟の近くではシオマネキ類やミナミコメツキガニなどが出現し、森の中にはアシハラガニ類やイワガニ類が多数生息している。潮が満ちると地面に掘った穴の中にもぐりこんでやり過ごすものが多いが、中には木に登って過ごすものもある。なお、潮が満ちるとガザミやノコギリガザミなど、大型のカニが姿を現す。
貝類では、キバウミニナやムシロガイなどの巻貝、ヒルギシジミなどの二枚貝がいる。これらの多くはマングローブ植物の落ち葉や種子を食べている。
魚類では、干潟や呼吸根の上でトビハゼ類が活動するが、潮が満ちると他の多くの海水魚が侵入する。木の呼吸根が複雑に入り組んだマングローブ地帯は身を隠すのに都合がよく、アイゴ類やハゼ類など、多くの小魚がみられ、さらにそれらを捕食するフエダイ類やオオウナギなどの大型魚もいる。
[編集] 日本のマングローブ
日本では、九州南端にメヒルギ群落があるのがマングローブの最北端といわれる。それ以北では、ハマボウの群落が時にマングローブに似た様子を見せるが、ほとんど広がりをもたない。
沖縄本島以北では、ほとんどメヒルギのみが見られ、それ以南では、次第に構成種が増える。国内では石垣島の宮良川河口のものが面積が最大だと言うことになっているが、西表島では、各地に大小さまざまなマングローブ林が発達している。
マングローブの樹種には帯状分布が見られる。 一番海側にはクマツヅラ科のヒルギダマシがまばらに出現する。低木で、根が泥の浅いところを這い、一定間隔でタケノコのように棒状の呼吸根を出す。満潮時には株全体が海水に没する場合がある。場所によってはハマザクロ科のマヤプシキがここに出現する。
それより陸側では北部ではメヒルギ、南ではヤエヤマヒルギが密な群落を作る。その内側にはオヒルギが生育する層がある。また、シイノキカズラなど、特有のつる植物をともなう場合がある。
さらに陸側の、ほとんど海水を被らないが、海水の影響を受ける区域には、サガリバナや、巨大な板根を作るサキシマスオウノキなどが生育している。西表にも生育が見られ、より南の海洋島にも広く分布するゴバンノアシもここに生育する。このあたりまでがマングローブ林であり、それより内陸へは、次第に陸の植生へと続く。
[編集] マングローブの破壊と再生
近年、世界各地でマングローブの破壊が問題になっている。東南アジアでは、木炭の材料とするための伐採と、海岸沿いの湿地をウシエビ(ブラックタイガー)などのエビ養殖場とするための開発が主な原因となっている。また、家畜の飼料とするための伐採も行われている。そのため、あちこちでマングローブが消滅しつつある。 熱帯雨林の破壊が地球温暖化とのかかわりで問題になったように、マングローブの破壊も同様な問題として注目されるようになった。また、マングローブが海の水質浄化にはたす役割が大きいことが知られるようになり、世界の湿地帯の価値の見直しとも連動し、その意味でも注目を受けつつある。
現在、あちこちでマングローブの再生を目指した試みが行われている。紅海では砂漠の沿岸でマングローブの形成が試みられた。砂浜では風と波のために生育が維持できないが、枯れ木などを使って柵を作り、水流を止めるようにすれば生育が始まり、群落が少し出来れば、それが波除けとなって次第に面積が広がると言う。
日本でもマングローブの浄化作用を利用しようとの目的で、マングローブ林形成を目指す事業が各地で行われている。沖縄県那覇市では漫湖周辺にマングローブ林が作られ、よく育っている。しかし、生活廃水の流入や廃棄物が原因という可能性もあるが、悪臭がするなどの苦情もあるという。
さらに、本州の太平洋岸地方でも、あちこちでマングローブを育てようとの試みが行われている。これらの地域は、本来の分布域ではなく、そのままでは生育させることが難しい。そこで、ビニールシート等をかけて保温する方法などもとられている。だが、本来根付かない植生を根付かせることは自然植生の撹乱であるとの意見もある。
[編集] 外部リンク
- 西表島ナダラ川河口付近のマングローブのライブ映像 - 環境省・インターネット自然研究所