社会 (生物)
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この項では生物学における社会（しゃかい）の考え方についてのべる。
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[編集] 生物の社会
一般に社会と言えば、人間がそこに生活するものである。個人や家族から構成され、それぞれに特定の役割をもって、全体として構成者や集団の生活が維持されるようになっているものである。
それを生物の世界に見いだす場合、古くはそれぞれの動物を職業の違いに見立てた動物社会というような見方もあったが、科学的なものではない。いずれにせよ、生物の習性や行動にかかわる問題になるので、生態学の分野の問題である。
植物に関しては、陸上の植物はほとんど常に複数種が群落を形成して、明らかに互いに関わりをもって生活している。そこでこれを一つの社会と見なし、その構造や構成を研究対象とするのが植物社会学である。これは、植物における群集生態学のひとつの見方を代表するもである。
[編集] 社会性
より丁寧に考えた場合、人間の社会に当たるものを生物に当てはめようとすれば、それは同一種の集団で考えるべきである。つまり、同種個体が多数集まって群れを作り、それなりの構造がその中にあるようなものを社会と考えることができる。そのような集団を構成する性質を社会性という。
このような観点から社会性の動物を探せば、ボスや見張りがいる順位制に基づく集団をもつサルの群れや、家族が集まって大きな集団を作るオオカミの群れ、あるいは女王や働き蜂・蟻があるハチ・アリ・シロアリがその例に挙げられよう。シマウマなどの群れにおいても見張りがあるなど、それなりに役割分担がある。
他方、イワシやマグロも大きな群れを作るが、これらの群れに構造があるようには見えない。
普段は集団を作らずに生活している動物にも、繁殖期など特定の時期に大集団を形成するものもある。ゾウアザラシなどでは強い雄を中心に多数の雌からなる集団をつくる。しかし、海鳥の集団営倉地では、やはりその内部の構造があるとは思えない。むしろ、集まってはいるものの、互いに一定の距離を置き、互いに反発しているように見える場合も多い。あるいはテントウムシの越冬集団など、ただただ集まっている、としか言えそうにない。
このように、動物の作る群れには、はっきりとした構造を持つものから、それが見られないものまでさまざまである。その中で、社会と見なす範囲を定めるのは難しいが、典型的なものではいかにも人の社会に相当するものであるように見える。これらの社会においては、興味深い行動として、利他的行動がある。例えばシマウマの見張りは、真っ先に敵を見つけるや、仲間に警報を発する。これは敵に目立ちやすい行動であろう。ボスザルは、先頭に立って敵に向き合う。ハチやアリの働き蜂（働きアリ）は、自らは産卵せず、女王の子、つまり自分の妹の世話をする。このような行動は、一見では自己に不利であるように考えられ、進化論とは相容れないように思われる。そのため、このような行動がどのようにして進化したかについては多くの議論があった。
古くは、そのような行動が種の存続に有利であるため、とする、いわゆる群淘汰の考えがあったが、これはその群れの内部に造反するものが出現することを押さえられない。そこで、新たな考え方として、例えば見張りなどは交替で行うので、一個体だけが危険を冒すわけではなく、また、交替しながらもそれを行うことで群れの生存が高まれば個体にも有利になるとする、互恵的利他主義の考え方や、ゲーム理論を応用して各種戦略の共存を論ずる進化的に安定な戦略論等が考えられた。
アリやハチなど、いわゆる社会性昆虫に関しては、血縁選択説による説明が行われ、現在では上記の社会性とは異なった意味での特殊な社会性、いわゆる真社会性として認められている。
これらの問題は、先の血縁選択説を契機として、社会生物学という分野の興隆をもたらすものとなった。なお、この項に関しては社会的動物も参照のこと。
[編集] より一般化された概念
先にも述べたように、哺乳類の社会的と思われるものにも、その内容に多様性がある。集まって暮らすにせよ、その構造はさまざまで、一概には論じられない。他方、集まらずに暮らしている種について見ると、単独生活をおこなっているものでは、個体間に関係がないかというと、必ずしもそうでもない。実は互いに意識的に距離を置くことで成立する場合、例えば縄張りなどを持つものも多い。そうして見ると、個体間に関係を持って暮らすやり方として、集団を作らないやり方もあり得ることが分かる。そこで、これをも種の社会のあり方と見なす考え方もあり得る。そこまで拡張すれば、繁殖期以外は互いに無関係でいることも、その種の社会の特徴と見なすことも可能であろう。
このような見方に立てば、すべての生物は種ごとに社会を持っている。これを種社会と呼ぶ。それは具体的存在としては、その種の個体群であり、その構造は個体群を構成する個体間の関係に基づくものである。その関係のあり方によって、個体群内部の個体の分布様式にもそれが反映される。
もし、その種がサルのように先の意味での社会的集団を持つものに対して、この考え方を適用すれば、その種の社会を解明するには、集団内部の構造に加えて、集団間の関係やその間の個体の行き来のあり方までも、その種の社会構造として考えなければならないことがわかる。実際、そのような観点からも研究は進められる。
[編集] 今西の生物社会論
今西錦司は住み分け理論の発展を元に、独自の生物社会論を論じている。彼はすべての生物が種社会を持つと考えた。彼はこれをスペシアと名付け、それを構成する要素をスペシオンと呼んだ。具体的にはこれは個体である。しかし、スペシオンが複数個体の集まりと見なすべき場合もあり、ハチなどでは群れがこれに当たる。そのような複数個体がスペシオンと見なされる場合、これをゼニアと呼び、その構成個体をゼニオンと名付けた。この辺りの用語には、時期によっても多少の出入りがある。
彼は生物は種によってそれぞれの個体がさまざまな外界とのやり取りを持つが、それは同種であれば個体が異なっても同じようなものであるから、これを通じて他個体との間に一定の関係を生じるものと考えていた。そこで同種個体間には種社会を支えるような関係を生じる。他方で、種が異なっている場合、類縁関係が遠いほど、そのような個体間の関係性は保ちにくくなる。例えば同じ場所に生活していても、哺乳類間のやり取りは、昆虫間のやり取りとは全く異なる。その結果、哺乳類と昆虫とでは、個体間の関係が定まりにくく、同じ場所にそれらが混じって生活している場合にも、昆虫同士、ほ乳類同士の方がより濃厚な関係を結びやすいとする。つまり、比較的類縁の近いもの同士では、種内より希薄ではあってもそこに一定の社会的関係が生じると考え、これを同位社会と呼んだ。つまり、一つの環境には、さまざまな分類群ごとの多様な同位社会が重なり合っている。
特に、系統的にごく近縁な種同士では、互いの要求がとても近くなるので、ここに緊張関係が生まれる。そこで、互いに場所を分け合うことで、これを回避する現象が生じる。これが彼の考える住み分けである。
