水質汚濁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
水質汚濁(すいしつおだく)とは、人間活動により工場や事業場などから排出される水(工業排水)や家庭などから出る排出水(家庭排水)などが、河川・湖沼・港湾・沿岸海域などの公共用水域に流され、その水が汚染・汚濁する/している現象のことを言う。通常この用語を用いる場合、その水の対象は表流水に限られている。
水質が汚濁することにより、直接/間接的に、人の健康や生活環境に悪影響を及ぼしたり、水産業などに被害が生じる。
地下水が汚染/汚濁する現象は、「地下水汚染」と言う。また不飽和帯中の土中水の汚染現象については、それを指す用語はないが、一般には「土壌汚染」にて包括的に用いられることが多い。さらにまた、廃棄物などの最終処分場内に含まれる水についてもそれのみを指す用語はないが、含まれる水のことを「保有水」と言うことから、「保有水が汚染している」と使う事が多い。
目次 |
[編集] 概要
水質汚濁は、内容的にはいくつかに分かれる。
もっとも普遍的なのは富栄養化である。これは、有機物や無機の窒素や硫黄などの化合物によるものである。一般の生活排水などはこの形を取る。 有機物や栄養塩類が大量に公共用水域に排出されると、藻類やプランクトンなどの繁殖により、水中の溶存酸素濃度が低下し、魚貝類をはじめとする好気性の水生生物が生存できなくなる。これがさらに進行した場合、嫌気性微生物しか生存できなくなり、硫化水素などの毒性物質が生成する。赤潮も水質汚濁が原因であり、プランクトンの異常増殖である。青潮は酸素欠乏による硫化物の生成による。上記のような原因でどこかに酸素に乏しい海水が生じる事で起きる。
有害物質の流入によるものもある。その場合、環境中の濃度が低くても生物濃縮により野生生物などに影響が出ることがある。そのため、環境への放出が特に厳しく規制されている。
また、粒子の小さい粘土が流水中に出た場合、底性生物を物理的に被うことで死に至らしめ、広い範囲で生物群の破壊をもたらすことがある。沖縄の赤土汚染などがその例である。
[編集] 汚染物質
水質汚濁の主な原因物質は、有機物や窒素・リンなどの栄養塩類、その他カドミウム・有機水銀などの重金属や揮発性有機化合物(VOC)などの物質である。 一般的には、産業排水、生活排水、自然排水からなる。 現在の水質汚濁の原因の7割近くは生活排水によるものである。
汚濁の種類と発生源
- 水の濁り : 土木工事、鉱業、自然災害(洪水)、窯業、製紙
- 色・匂い
- 有機物 : 家庭排水、工場廃水、畜産
- 栄養塩類 : 家庭排水(洗剤)、農業、畜産、化学・食品工業
- 微生物 : 医療施設、畜産、家庭排水、食品工業
- 油分 : 石油化学、食品・油脂工業
- 酸・アルカリ : 鉱業、金属精錬・加工、無機化学工業、酸性雨
- 無機化合物 : 無機化学工業、工業
- 重金属 : 鉱業、金属精錬・加工
- 有機化学物質 : 有機化学工業、半導体素子製造、農薬、廃棄物最終処分場
- シアン化合物 : メッキ、製鉄
- フッ素化合物 : アルミニウム精錬
[編集] 法的規制
日本では、環境基本法で定める環境基準によって環境上の達成目標を定め、水質汚濁防止法によって排出許容量を定めて環境基準の達成を図っている。また、被害の回復を原因者負担で行うこととなっている。
[編集] 日本における水質汚濁
江戸時代からの足尾鉱毒事件が最初といわれる。
1950年代からの水俣病、1960年代のイタイイタイ病など、人体に深刻な影響を与える公害病が発生した。また、高度成長期に工場排水や家庭排水の不十分な処理のままの放流により、多くの河川や湖沼で魚類等が絶滅・衰退するなど影響がでた。
多くの法令による規制や環境に対する意識の変化などにより、河川のBOD・海域のCODの数値は徐々に改善されつつあり、2003年には全体の環境基準達成率は過去最高を記録した。 しかし、都市中小河川ではBOD・広域的閉鎖性水域ではCODの環境基準達成率は2000年代でも依然として低い。
新たな問題として土壌汚染と関連した水質汚染の例の発生も見受けられるようになった。2003年には、茨城県神栖市(当時は神栖町)で不法投棄による砒素化合物が原因と考えられる水質汚染が発生し、住民に被害が出ている。
[編集] 海外の水質汚濁
- 1986年、スイスの化学薬品工場が爆発。大量の化学物質がライン川に流入し、ドイツなど下流の国々に大きな影響を与えた。以前より「世界一汚い河川」と呼ばれていたライン川の水質に、とどめを刺す事態となった。
- 1980年代、ソ連のチェルノブイリ原子力発電所の爆発により飛散した放射性物質により、広範囲なエリアが汚染された。
[編集] 関連項目
- 環境基本法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法
- 汚染者負担原則、無過失責任
- 土壌汚染、地下水汚染、底質
- 水俣病、イタイイタイ病
- 公害防止管理者
- 環境基準
- 生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質量(SS)、溶存酸素量(DO)、全リン(T-P)、全窒素(T-N)、大腸菌群数
- 亜鉛、シアン、カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、アルキル水銀、揮発性有機塩素化合物、農薬類