時計じかけのオレンジ
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時計じかけのオレンジ | |
監督 | スタンリー・キューブリック |
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製作 | スタンリー・キューブリック |
脚本 | スタンリー・キューブリック |
出演者 | マルコム・マクダウェル パトリック・マギー マイケル・ベイツ |
音楽 | ウォルター・カーロス |
撮影 | ジョン・オルコット |
編集 | ビル・バトラー |
配給 | ワーナー・ブラザーズ |
公開 | 1971年12月19日 アメリカ |
上映時間 | 136分 |
製作国 | イギリス |
言語 | 英語 |
制作費 | $2,200,000 |
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『時計じかけのオレンジ』(A Clockwork Orange)は、イギリスの小説家アンソニー・バージェスによるディストピア小説。1962年発表。又は、アンソニー・バージェスの原作からスタンリー・キューブリックにより映画化されたイギリス映画。1971年公開。日本での公開は1972年4月。本項では主に映画について記す。
暴力やセックスなど、欲望の限りを尽くす荒廃した自由放任と、管理された全体主義社会とのジレンマを描いた、サタイア(風刺)的作品。説話上は近未来を舞台設定にしているが、あくまでも普遍的な社会をモチーフにしており、キューブリックの大胆さと繊細さによって、人間の持つ非人間性を悪の舞踊劇ともいうべき作品に昇華させている。原作同様、映画も主人公である不良少年の一人称の物語であり、ロシア語と英語のスラングで組み合わされた「ナッドサット言葉」が使用されている。
※本作品は皮肉の利いた鮮烈なサタイア(風刺)だが、ごく一部には暴力を誘発する作品であるという誤解や、この作品から間違った触発を受けて犯罪を起こした者もいる。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] ストーリー
近未来のロンドン。クラシック音楽を愛する15歳のアレックス・デラージ(Alex DeLarge)をリーダーとする少年4人組は、今夜もコロヴァ・ミルク・バーでドラッグ入りミルクを飲みながら「ウルトラヴァイオレンス」の計画をし、街に繰り出しては暴力行為にふけっていた。ホームレスの老人を袋叩きにし、他の不良グループ(ビリーボーイズ)も叩きのめし、マスクを被ってある作家の家に押し入り『雨に唄えば』を歌いながら暴力を振るった上にその妻を犯す。翌日、学校をサボった彼は、レコード店で引っかけた女の子2人と自宅でセックスをする。その夜、一軒家に侵入して老婦人を撲殺した後、仲間の裏切りに遭ったアレックスは、1人警察に逮捕され、懲役14年の実刑判決を言い渡された。
収監されて2年。内務大臣の視察をきっかけに、アレックスは悪人を善人にするという「ルドヴィコ療法(the Ludovico technique)」の被験者に選ばれた。14年の獄中生活から逃れるため、彼はこれを志願した。
直ちに治療が実施された。椅子に縛り付けられたアレックスは、クリップで目蓋をこじ開けられて、残虐描写に満ち満ちた映像をひたすら見せられた。映像のBGMに使われていたのは、彼が好んで聴いていたベートーヴェンの第九であった。
治療は成功し、以後彼は、性行為や暴力行為に及ぼうとすると吐き気を催すほどの嫌悪感を身体に植え付けられる。『時計じかけのオレンジ』となったのである。それは、愛好していたはずの第九を聴いたときですら同様であった。
暴力を振るえない善人となって出所したアレックスだが、家に帰ると両親のもとにはアレックスと同じくらいの年齢の男が居候し親子同然の関係を築いていて、居場所をなくして家から飛び出す。そして以前リンチをしたホームレスの老人に他のホームレス老人と一緒に周りを囲まれてリンチされるなどこれまでの悪行の仕返しを受ける。彼は反抗しようとするが暴力が振るえないため抵抗できない。彼は警察を呼ぶが、来たのは今や警官になったかつての仲間やビリーボーイズたちであった。アレックスは連れ去られ、警官たちから容赦のない暴力を受け放置される。
身も心もぼろぼろのアレックスは自分でも気づかないまま、以前に押し入った作家の家にたどり着く。すると作家は以前の事件がきっかけで車椅子でしか生活できない身体に、レイプした婦人はそのことが原因で死んでいたことが判明する。その代わりに筋肉質の男性が主人の世話をしている。作家は暴力事件を生み出した政府や社会を打倒することに取り付かれていた。
作家は当初、政府に人生を破壊されたアレックスに同情し、さらに治療の実態を聞いて深くショックを受ける。彼はこれをマスメディアに流して今の政府を倒そうと考えた。しかし、アレックスが『雨に唄えば』を歌った瞬間、作家は彼こそがかつて自分達夫婦を襲ったマスクの少年であることに気付き、復讐を決意する。インタビューと称して彼から治療のことを聞きだし、さらに「第九」を聞くと死にたくなるということを聞き出すのにも成功する。アレックスはそこまで言い終えた後、睡眠薬のような物を口にしたために意識を失う。意識を取り戻すと部屋の中に閉じ込められていてそこで大音量の「第九」を聞いて激しい嫌悪感に襲われ、死ぬつもりで窓から飛び降りる。
目を覚ますと、そこは病院の中で全身に包帯を巻いている。ある程度回復すると看護婦からシチュエーションにあったセリフに答えるテストを受ける。このテストでアレックスは性行為や暴力行為にもはや何の抵抗もなく受け答えをする。完全に元に戻ったのだ。
その後特別な部屋に移されてしばらくたったある日、彼に治療を施すのを決定した張本人である内務大臣がアレックスのもとを訪れる。内務大臣はアレックスに施した治療が原因で下がった政府の支持率を上げるために彼に協力を求め、アレックスはそれを快諾する。すると一斉に大勢のカメラマンが彼らのいる部屋にやってきて、にこやかに握手をするふたりの写真を撮る。同時に彼のいる部屋に、2台の大きなスピーカーが運ばれ「第九」が大音量で流され、彼は恍惚の表情を浮かべる。
[編集] 削除された章
小説は21章から構成されるが、アメリカ合衆国で最初に出版された際、バージェスの意図に反し最終章である第21章が削除されて出版され、キューブリックによる映画も本来的の最終章を削除された版を元に作られた。映画化に際して一部のエピソードを省略したり複数のエピソードをまとめたりすることはよくあることだが、第21章があるか否かにより小説の印象は相当異なる。このため、映画版は原作者であるバージェスが意図しない終わり方をしている。
その後、アメリカでも第21章は復活して出版されるようになったが、日本語翻訳版ではバージェスの意図に反し第21章が省略されたままとなっている。
第21章では元に戻ったアレックスが再び新しい仲間たちとつるむ生活に戻るが、ある日かつての仲間の一人と再会し結婚して子供も生まれたことを聞く。アレックスは自分も18歳になったことだしそろそろ女でもつくり落ち着こうと考え、暴力から卒業しようと決意する。しかし一方で、かつて犯した犯罪は全部若気の至りだと総括し、子供時代にはだれでも避けられない道だろう、おれの子供にもいつか若い頃の話をするだろうけど暴力の道に進むことを止めることはできないだろう、とうそぶく。
[編集] スタッフ
- 製作・監督・脚本:スタンリー・キューブリック
- 撮影:ジョン・オルコット
- プロダクション・デザイン:ジョン・バリー
[編集] 出演
- マルコム・マクダウェル
- パトリック・マギー
- アドリエンヌ・コリ
- ウォーレン・クラーク
- ジェームズ・マーカス
- マイケル・ターン
- ミリアム・カーリン
- スティーブン・バーコフ
[編集] 映画の中で用いられる音楽
映画では、クラシック好きのアレックスの設定を存分に生かした選曲がなされている。音楽を担当したのはウォルター・カーロス(現:ウェンディ・カーロス)で、シンセサイザーを用いたベートーヴェンの『交響曲第9番』の演奏にヴォコーダーで加工した合唱が加わる斬新なものと、オーケストラの演奏による同曲、エルガーの『威風堂々』、ロッシーニの『泥棒かささぎ』など両方がふんだんに使われている。 また、冒頭のレイプシーンでは、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』を高らかに歌いながらのレイプがきわめて印象的である。
なお、タイトル音楽として使われている楽曲は、カーロスのオリジナルと誤解されることがあるが、原曲は、パーセル作曲の『メアリー女王の葬送音楽』である。(編曲に織り交ぜられたグレゴリオ聖歌「怒りの日」は同監督の『シャイニング』にも登場する)
使用された音楽は以下のとおり。
- 交響曲第9番ニ短調(作曲:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)
- 『泥棒かささぎ』序曲、『ウィリアム・テル』序曲(作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ)
- 『威風堂々』第1番、第4番(作曲:エドワード・エルガー)
- 『メアリー女王の葬送音楽』(作曲=ヘンリー・パーセル)
- 『太陽への序曲』(作曲=テリー・タッカー)
- 『灯台守と結婚したい』(作曲=エリカ・エイゲン)
- 『雨に唄えば』(作詞=ナシオ・ハーブ・ブラウン、作曲=アーサー・フリード、歌=ジーン・ケリー)
- 『シェヘラザード』(作曲=ニコライ・リムスキー=コルサコフ)
電子音楽作曲・編曲・演奏=ウォルター・カーロス(後にウェンディ・カーロス)
[編集] こぼれ話
- 映画中にある新療法の実験シーンの際、アレックス役のマルコム・マクダウェルが機械でまぶたを固定される場面があるが、この時彼は目を失明しかけたと言われている。
- 『雨に唄えば』が印象的な挿入歌として用いられているが、これはマルコム・マグダウェルがそらで歌えるのがこの曲だけだったため。
- この映画は、史上初めてドルビー研究所が開発したドルビーノイズリダクションシステムを使用し、ステレオ録音された映画である(但し劇場公開用のフィルムはモノラルである)。キューブリックが次にステレオ音響を使ったのは意外にも遺作となった『アイズ ワイド シャット』である。
- 英国では1973年キューブリックの強い意向もあり、全ての上映が禁止された。英国での再上映が始まったのは、キューブリックの死後1999年になってからである。
[編集] 外部リンク
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