弦楽器
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弦楽器(げんがっき)(絃楽器と書かれることもあった)とは、弦に何らかの刺激を与えることによって得られる弦の振動を音とする楽器の総称である。弦の振動を得るために、弦とそれを張力をもって張っておく装置を備え、多くの場合は得られた音を共鳴させて音を拡大するるための装置を持つ。
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[編集] 音の出し方
弦をはじく、または弓のつるで弦をこする、または弦を叩くことによって、弦に刺激を与えると、弦が振動して音が得られる。刺激の与え方により、撥弦楽器、擦弦楽器、打弦楽器に分類される。
- 撥弦楽器 弦をはじく。はじくには、指、爪、またはそれに変わるもの(義甲、プレクトラムという)を使う。箏、ギター、チェンバロなどがこうして音を出す。
- 擦弦楽器 弦を弓のつるでこする。ヴァイオリンの仲間や、胡弓の仲間、モリンホール(馬頭琴)の仲間などがこうして音を出す。弓のつるは馬の尾の毛のような摩擦の大きいものを使い、さらに松脂などによって摩擦を大きくする。韓国の牙箏(アジェン)のように、弓ではなく木の棒で擦るものもある。
- 打弦楽器 弦を打つ。ピアノ、一部の打楽器や、和楽器の一部もこれに入る。弦を打つのは、ハンマー、ばちなどである。
ただし、これらの奏法は必ずしも楽器ごとに固定しているわけではなく、例えば擦弦楽器であるヴァイオリン属の楽器には弦を撥弦楽器のように弾いて音を出すピチカートという奏法があり(コントラバスをポピュラー音楽で使う場合にはむしろその方が一般的である)、撥弦楽器である箏には弦を叩いて音を出す打ち爪という奏法がある。その他三味線の撥音には弦だけでなく皮の振動音も複合されており打楽器的な効果もあり、ギターの胴を手で叩いて打楽器的効果を出したり、三味線,箏には「すり手」「すり爪」といって、爪で弦をこすって「ズー」という効果音的な音色を出す技法がある。但し、チェンバロ、ピアノ等は普通弦楽器ではなく、鍵盤楽器に分類される。
[編集] さまざまな高さの音を得る仕組み
弦楽器では、共鳴体によって音の高さが決まる管楽器と違い、発音体たる弦の振動数(周波数)によって音の高さが決まる。弦の振動は一般には非線形現象だが、多くの弦楽器では以下のような1次元の波動方程式によって十分に近似できる。
また、多くの弦楽器では弦の両端は固定されているため、以下のような境界条件を満たさなければならない。
- u(0,t) = u(l,t) = 0
この偏微分方程式の解は一般に、
- ただし、であり、Cn,φnは初期条件に依存する定数。
で表される。この解のうち音として現れるのはcosの部分である。これは振動数 の波の和になり、n=1の波が基音、n=2,3,…の波がそれぞれ第2倍音、第3倍音に相当する。これらの倍音の比率は弦楽器の音色を決定する要素となる。弦の基本振動数は次の式によって得られる。
このように、振動数は弦の長さ、弦の張力、弦の単位長さあたりの質量(弦の太さ、弦の密度)によって変わるので、複数の高さの音を得るためにはこれらを変更すればいいことになる。そのために次のような工夫がされる。
- 弦の振動する長さを変更する。
- 弦の張力を変更する。
- 得られる音の高さの異なる複数の弦を張る。
多くの弦楽器は、これらの中から1つ以上の方法によって音の高さを変更している。例えば、エレクトリックギターでは、異なる高さの弦を6本張り、弦の振動する長さを短くするために指板やフレットと呼ばれる装置を備え、さらに演奏にあたって弦を横に引くこと(チョーキング)により張力を変える。
[編集] 共鳴の仕組み
弦楽器に限らず、多くの楽器では音は発音されるだけでは十分に空中に振動が伝わらないので、共鳴の仕組みを持って振動を拡大する。管楽器では発音体が安定した音高を持ちにくいのに対し、弦楽器では発音体である弦が安定した音高を持つので、弦楽器においては一般に幅のある高さの音に共鳴する共鳴体を持つのが普通である。すなわち、中空の箱であって、この箱の中の空気が共鳴する。このため共鳴体は共鳴胴と呼ばれることが多い。共鳴胴は一般に、特定の高さの音に突出して共鳴することを避けるため、曲面が多く用いられる。たとえばリュートやウードにあっては一面は平面であるが他面は半球であり、ギターにあっては表裏の板は平面であるが側板は曲面である。希に裏板が平面であるコントラバスが存在するが、これはヴィオール属の名残であり、現在は多くが曲面である。
共鳴胴の材質は木の板や組み木を板状にしたものが多く、三味線のように一部に動物のなめし革を使ったものがある。共鳴胴の最初は太鼓であっただろうと考えられている。
[編集] 分類
楽器分類学的には、共鳴胴を中心とした楽器の構造で分類される。それぞれに含まれる楽器は後述。
- 楽弓 - 湾曲した弓状の棒の両端に弦を結びつけて張ったもの。
- チター属 - 共鳴胴の上に(自由な振動ができる程度に共鳴胴から離して)弦を張ったもの。
- リラ属 - 共鳴胴に2本の柱を立て、柱の間に横木を渡して、共鳴胴と横木の間に弦を張ったもの。柱が共鳴胴となっているものや、全体が共鳴胴と一体となっているものもある。
- ハープ属 - 長細い共鳴胴の端に、くの字に棒を付け、共鳴胴と棒の間に弦を張ったもの。支持するためにくの字の両端に支持棒を付けて三角形とすることが多い。
- リュート属 - 共鳴胴に棹を取り付け、棹の上に弦を張ったもの。弦の一端を棹の先に、もう一端を共鳴胴に結びつけるものが多い。棹の上に弦を張ることで、音高を変えるために弦を押さえやすくなる。なお、有棹弦楽器と呼ぶことがある。
[編集] 構造
ヴァイオリンの糸巻
ヴァイオリンの糸巻
クラシックギターの糸巻
フォークギターの糸巻
コントラバスの糸巻
ヴァイオリンの駒、上駒、と弦の振動部
ヴァイオリンの駒
ギターの駒
ギターのフレット
ギターのフレット
コントラバスの魂柱
[編集] 弦
弦 (本来は「絃」) は、金属、合成繊維、絹糸、羊腸(ガット)などを材料に作られる。和楽器においては「糸」と呼ばれる。
[編集] コース、ユニゾン、復弦
弦が複数張られる時、必ずしもすべて違う音の高さに張る必要はない。2,3本ずつ並べて同じ高さの音に張り、まとめて演奏することもある。このひと組をユニゾンといい、ユニゾンの数によって何コースの楽器と呼ぶ。たとえばマンドリンは2本ずつ4コース8弦の楽器である。ピアノは鍵盤の数(普通88)だけコースがあるが、低音域を除いて3弦1コースである。
これは音量を増したり、2本を同時にはじこうとすると少しずれて2度鳴ることなどを目的とする。
[編集] 共鳴弦
多くは演奏弦と表板の間に張られ、直接弾かれることはないが、演奏弦の特定の音に共鳴して響きを豊かにし残響を持たせる。シタール、サロッド、サーランギなど、インドの楽器に特に発達しており、また中央アジアの楽器にも多いが、西洋楽器にもヴィオラダモーレなど共鳴弦を持つ楽器がいくつかが知られている。また共鳴弦を持たない楽器でも、演奏弦の解放弦は共鳴弦と同じ働きをする。
[編集] 緒留め、糸巻き
弦の端を楽器に固定するために、結びつける部分を緒留めという。三味線、胡弓では根緒(音緒)という。さらに、棒に巻き付けて、棒を回すことにより張力を変えられるようにしたものを糸巻きという。和楽器では糸巻きのほか、ねじ、転手(てんじゅ)、転軫(てんじん)などとも呼ぶ。楽器によっては機械式のものもある。
[編集] 駒、柱(箏)
弦の途中で弦を押さえ(実際には下から押し上げるような形になる)、弦の振動長を限定する部品を駒という。駒は、緒留めや糸巻きの手前に付けられる。特に共鳴胴の上に付けられる駒は、弦の振動を駒に伝える重要な働きを持つ。また、箏では演奏の合間に簡単に移動できる駒を持っているが、これを
[編集] 指板
弦の振動長を自由に短くするためには、指や爪やそれに変わるもので弦を押さえるが、弦を押さえつける板を指板という。リュート属の楽器では、棹と指板とが一体化しているものも多い。
[編集] フレット、柱(琵琶)
指板に指で弦を押さえつけると、指が弦の振動を吸収する。これは高音の撥弦で著しい。このため、指が弦の振動に直接当たらないように、指板上に駒状のものを取り付けることが行われる。これをフレットといい、ギターなどで備えている。フレットのある楽器では、フレットを挟んで振動しない側の弦を指で押さえる。琵琶では
[編集] 響口、f字孔
共鳴胴に穿った通気口を
[編集] 魂柱
ヴァイオリン属の楽器では、表板と裏板の間に魂柱という柱が立っていて、駒から伝えられた弦の振動を裏板に伝える。
[編集] サワリ
琵琶(楽琵琶を除く)、三味線、シタール、タンブーラなどでは、楽器、フレット、駒などに、弦が振動したときに一部が触れて「ビーン」という音が出るしくみがある。これを日本では「さわり」、インドでは「ジャワリ」「ジュワリ」という。
[編集] 用語
[編集] 開放弦
指で弦を押さえて音を変える楽器において、指で押さえていない状態を開放弦という。ヴァイオリン属の楽器のようにフレットのない楽器では他の(指で振動が吸収される)音と音色が違ったり、ヴィブラートがかけづらかったりするので、使用が控えられることがある。 逆に三味線などの和楽器は、開放弦に音階上の主要音を設定し多用することが多い。こうすることにより、演奏をしやすくしたり、共鳴を豊かにする効果がある。同様の例は、西洋楽器でもヴィオールなどにみられる。
[編集] 調弦、チューニング
糸巻きで弦の張力を変えるなどして、(開放弦の)音の高さを設定すること。
作曲者の指示などにより、楽器本来の調弦法と違う音に合わせることを、スコルダトゥーラという。ヴァイオリン族、ギターではたいていどんな曲でも、いつもひとつの調弦で奏されるが、三味線や箏にはたくさんの調弦の種類がある。また途中で調弦を変える曲も非常に多い。
[編集] チョーキング、押し手
弦の張力を変えて音の高さを変える奏法。楽器によって、弦を横に引いたり、縦に押し込んだりする。
[編集] ピチカート
(撥弦楽器でない楽器で、)弦をはじく奏法。 撥弦楽器であるギターでは、ブリッジ上またはその近くの弦上に手の平の小指側を置き、弦の振動を制限することにより、濁ったポツポツをいう音にする奏法のこと。
[編集] ヴィブラート
音を揺らす奏法。弦を押さえる指などを揺らして、弦長、張力、弓の当たり方、楽器全体の位置を変えることにより、音高、音色、音強、響き方を小刻みに変化させる。ヴィブラートは耳には音色の変化として捉えられることが多い。ヴィブラートの使用により、音に響きが与えられ、ピチカート奏法ではいくらか音の持続時間が長くできる。また、音高に幅ができるため、音程が合わない不快さが軽減される。和楽器では意味のニュアンスは若干異なるが「揺り」という。
[編集] 弱音器
ヴァイオリン属の楽器では、駒に弱音器を付けて、音色を和らげ、音強を弱めることがある。三味線には「忍び駒」という弱音用の駒がある。
[編集] 地域ごとの弦楽器とその大まかな歴史
[編集] 西洋
- チター属
- ハープ属
- リュート属
[編集] 東洋
[編集] 日本
- チター属
- リュート属
[編集] 中国
[編集] モンゴル
- チター属
- 洋琴
- リュート属
- モリンホール(馬頭琴)
[編集] インド亜大陸
[編集] 中東
- リュート属
- ウード - ラバーブ
[編集] 弦楽合奏
弦楽合奏(ストリングス・オーケストラ)とは、弦楽器の合奏形態あるいはその形態で演奏される楽曲のことを指す。ここでいう弦とは、ヴァイオリン属の楽器のことをさす。すなわち、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスで編成される。
弦楽器の合奏形態は他にギターオーケストラ、マンドリンオーケストラなどがある。
[編集] 三曲合奏
江戸時代、当道座に属する盲人音楽家が専門とした三種の弦楽器である地歌三味線、箏、胡弓を総称して三曲と呼び、またこれらの音楽のことも指した。また三曲による合奏を三曲合奏と呼ぶ。幕末、明治以降尺八が参入し、現在は三味線,箏、尺八の編成で行なわれることが多いが、本来の胡弓入り合奏も行なわれている。