倍音
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倍音(ばいおん)とは、楽音において、周波数が基音に対して2以上の整数倍になっている音。一方、1倍である音(元の音)を基音(きおん)という。
弦楽器や管楽器の音を正弦波(サインウェーブ) に分解すると、耳に聞こえる周波数の音の他に、その倍音が含まれている。このような倍音を英語でハーモニックオーバートーン(harmonic overtone)と呼ぶ。
また、管楽器や弦楽器では、同じ管や弦の長さでも、奏法によって、倍音を聞こえさせることができる。特に金管楽器ではその出される音のほとんどは倍音である。このような倍音を英語でオーバーブロー(overblow(管楽器))、フラジオレット(flageolet(弦楽器))と呼ぶ。
なお、英語のハーモニクス(harmonics)はハーモニックオーバートーンの意味やフラジオレットの意味に使われる言葉である。
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[編集] 歴史的な背景
古来合唱などにおいて、本来聞こえるはずのない高い声がしばしば聞かれる現象が知られており、「天使の声」などと呼ばれて神秘的に語られていた。これらは倍音を聴取していたものだと現在では考えられている。
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[編集] 科学的な背景
倍音は、数学者のマラン・メルセンヌによって1636年に発見された。
1753年、ダニエル・ベルヌーイは、波動方程式の解として三角関数を想定することにより、弦の振動は基本周波数とその整数倍の周波数の成分(倍音)の重ね合わせとして表せることを発見した。
この概念は、19世紀の数学者ジョゼフ・フーリエの見出したフーリエ級数によって体系的に理論化された。フーリエ級数とは、周期関数 f(t) を正弦波(三角関数)の重ね合わせとして表現するものであり、オイラーの公式を用いれば以下のように表現できる。なお、T は f(t) の周期であり、f(t − T) = f(t)を満たす。
- ただし、 とする。
第1の式は、周波数 f = n / T の正弦波 e2nπit / T = cos(2nπt / T) + isin(2nπt / T) を cn 倍したものを全ての整数 n に関して重ね合わせると元の波動 f(t) に等しくなることを意味している。(なお、cnの値は一般には複素数であり、その絶対値が各倍音の振幅となって現れ、偏角が各倍音の位相のずれとなって現れる。虚数成分はnの正負を足し合わせると消えてしまう。右の式ではその点を考慮して、実数のみによって表示している。)
ここで、n = ± 1 のものが基音であり、その周波数は f = 1 / T である。
次に、n = ± 2 に対応するものを考えると、その周波数は n / T = 2 / T = 2f であり、これは基音の第「2倍」音になる。同様に、n = ± 3, ± 4, ± 5…についても、その周波数はそれぞれ 3f, 4f, 5fになる。このようにして、周期的な波形を持つ音は基音と倍音の重ね合わせとして表せることが保証されている。
ただし、この手法では基本周波数が既知であることが仮定されるほか、倍音以外の上音を含むと正常に検出できないなどの欠点があるため、実際の音声処理ではフーリエ級数を発展させたフーリエ変換と呼ばれる手法が利用されている。ただし、フーリエ変換にも実用上の難点が多いため、実際には離散フーリエ変換、短時間フーリエ変換などといった手法が使用されている。(詳細はリンク先を参照)
[編集] 音の分類
[編集] 上音
音を正弦波に分解したときに、いちばん低い周波数を基音と言い、それ以外を上音(じょうおん、overtone)という。この上音には倍音でない音も含まれる。ハーモニックオーバートーンは、基音の(2以上の)整数倍の周波数を持つ上音であると言い換えることができる。
[編集] 楽音
正弦波に分解したときに基音と倍音だけから成っている音を楽音(がくおん)という。人の耳は、楽音やそれに近い音に音の高さを感じる。このとき、基音の高さで感じる。すなわち、楽音の基音の周波数を、その楽音の周波数と感じる。このように、楽音の倍音は人間の耳にそのまま意識されることは通常ない。しかし倍音の構成の違いは音色の違いとして意識される。歌うときの人声や、管楽器、弦楽器の音は、楽音(に近い音)である。
[編集] 純音
楽音のうちで、倍音を含まない音を純音(じゅんおん)という。純音とは正弦波による音のことである。
[編集] 噪音
倍音以外の上音を持つ音を噪音(そうおん)という。打楽器の音のほとんどは噪音である。打楽器の中でも木琴、鉄琴やティンパニのように音の高さを感じる楽器は、上音があまり出ないようにして音を純音に近づけてある(木琴、鉄琴)か、上音を倍音列に近づけて(ティンパニ)いるのである。
[編集] 差音
基音を欠き、倍音だけから成る音でも、その(理論上の)基音に音の高さを感じることがある。これを、差音(さおん)と呼ぶ。
[編集] 各倍音
もとになる音のn倍の周波数を持つ倍音を第n倍音と呼ぶ。
- 第1倍音はすなわち、元の音のことである。通常第1倍音は倍音に含めない。楽音に含まれる倍音の第1倍音を基音と呼ぶことがある。
以下、各倍音が元の音よりどの程度高いかの音程を記す。また、c音の倍音を例としてしてあげる。音名は、オクターブ表記をしたドイツ音名で記したものである。 - 第2倍音はオクターブ上の音であり、c1になる。
- 第3倍音は1オクターブと完全5度上の音であり、g1になる。ただし、平均律のその音よりもごくわずかに高い。
- 第4倍音は2オクターブ上の音であり、c2になる。
- 第5倍音は2オクターブと長3度上の音であり、e2になる。ただし、平均律のその音よりも幾分低い。
- 第6倍音は2オクターブと完全5度上の音であり、g2になる。ただし、平均律のその音よりもごくわずかに高い。
- 第7倍音は2オクターブと短7度上の音であり、b2になる。ただし、平均律のその音よりもかなり低い。
- 第8倍音は3オクターブ上の音であり、c3である。
- 第9倍音は3オクターブと長2度上の音であり、d3になる。ただし、平均律のその音よりもわずかに高い。
- 第10倍音は3オクターブと長3度上の音であり、e3になる。ただし、平均律のその音よりも幾分低い。
- 第11倍音は3オクターブと増4度上の音であり、fis3になる。ただし、平均律のその音よりもかなり低い。
- 第12倍音は3オクターブと完全5度上の音であり、g3になる。ただし、平均律のその音よりもごくわずかに高い。
- 第13倍音は3オクターブと長6度上の音であり、a3になる。ただし、平均律のその音よりもかなり低い。
- 第14倍音は3オクターブと短7度上の音であり、b3になる。ただし、平均律のその音よりもかなり低い。
- 第15倍音は3オクターブと長7度上の音であり、h3になる。ただし、平均律のその音よりも幾分低い。
- 第16倍音は4オクターブ上の音であり、c4である。
第14倍音からは半音階になっている
このような倍音の並びを倍音列と呼ぶことがある。
[編集] オーバーブロー/フラジオレット
管楽器や弦楽器では管の振動や弦の振動が用いられるが、オーバーブローやフラジオレットが演奏に用いられることがある。なお、第n倍音の音を出す状態を、第n次モードと呼ぶことがある。
- 管楽器においては、オーバーブローと呼ばれる。
- 木管楽器においては、最低音よりもオクターブ以上高い音を出すときに、第2倍音以降が用いられる。ただし、クラリネットにあっては偶数倍音が得られないので、1オクターブと完全5度以上の音を出すときに第3倍音以降の奇数倍音が用いられる。しばしば倍音を出しやすくするために、側孔を用いる。フルートでは、指使いを変えずに第3倍音を出す技法をハーモニクスと呼ぶ。
- 金管楽器にあっては、スライドを持ったトロンボーンを除き、バルブが実用化されるまではオーバーブローのみが音を変える手段であった。金管楽器では第2倍音以降が常用され、「ペダルノート」と呼ばれる第1倍音はトロンボーン、ホルン、チューバなどでたまに用いられるだけである。
- 弦楽器においては、ハーモニクスまたはフラジオレットと呼ばれ、振動する弦の1/nの所に軽く触れることによって第n倍音を得る。
[編集] ハーモニックオーバートーン
[編集] 鋸歯状波の音の倍音
楽音の中でもっとも基本になるのは、鋸歯状波で、波形が鋸の歯のようになっているので、この名がある。ヴァイオリンや金管楽器の波形はこれに近い。鋸歯状波には基音とすべての倍音を含む。高い倍音ほど振幅(音量)が漸減し、第n倍音の振幅は基音の振幅の1/nである。
[編集] 矩形波の音の倍音
波形が「己」の字を横にしたような形をしているのが矩形波である。クラリネットの波形はこれに近い。基音と奇数倍音だけが含まれ、第n倍音の音波の振幅は1/nである。
[編集] 三角波の音の倍音
波形がV字型をしているのが三角波である。基音と奇数倍音だけが含まれ、第n倍音の音波の振幅は1/n²である。
[編集] 関連項目
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