ホバークラフト
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ホバークラフト(Hovercraft)は、浮上して航行する水陸両用の乗り物。
なお、ロシアの「ホバークラフト」は特別扱いでロシア語の「Экраноплан」に基づき「エクラノプラン」と書かれることが多い。
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[編集] 概説
下部の開いた艇体の下に圧縮した空気を押し込み浮上して、プロペラなどの推力を使って移動する。浮上しているため水面の抵抗を受けず高速に航行できる。また、平坦な場所であれば陸上でも使用できる。反面、悪天候に弱く、騒音も大きい。また、エアクッションを装備するという構造上、大型化が難しい。
1952年にイギリスのクリストファー・コッカレルが発明し、ワイト島で1号艇が造られた。
ホバークラフトは、英国のブリティッシュ・ホバークラフト社の商標であるが、同社が一般名称としての使用を認めているため「ホバークラフト」のまま使用されることが多い。正式にはAir-Cushion Vehicle(ACV=エアクッション艇) と呼ぶ。
日本では、大分ホーバーフェリー株式会社が空港アクセスの一つとして大分空港から別府湾をはさんだ大分市内までを結んでいる。最新式の三井造船MV-PP10型艇が4隻就航していて、陸路より移動時間を大幅に短縮している。現在では、日本唯一の旅客ホバー航路となった。
ベトナム戦争中には米海軍が水陸両用の新兵器として、一種の哨戒艇の扱いとして実戦に投入した。しかし、騒音が大きく(敵が事前に察知して逃走してしまう)、艇体が脆弱であること、さらには陸上運用も可能である事が米陸軍との確執を生んで評価は芳しくなかった。
このため、軍用においては現在は揚陸任務及び輸送任務に当たる事が大半であり、海上自衛隊や米海軍では、揚陸艇として装備している(LCAC)。
また、ロシア、ウクライナなどは独自の戦略を持って海軍において輸送用大型ホバークラフトを黒海やカスピ海で運用している。これらはLCACのケースとは異なり独立して揚陸輸送を行なうものであり、内海で既存の揚陸艦を用いるよりも上陸可能なホバークラフトを用いる方がコストに見合うという考え方からである。一部はギリシャにも輸出されている。この他に、イギリス製のホバークラフトが革命前のイランに輸出され、イラン海軍に配備された。革命後は支援途絶により非稼動とも考えられていたが、一部はイラン・イラク戦争当時から現在に至るまでペルシャ湾沿岸における同軍の哨戒・兵員輸送に活用されているという。
日本では「ホーバー」の呼称がよく使われたが、原語の発音では「ホバー」の方が近い。
[編集] 日本における歴史
荒天に弱いという性質から外洋に囲まれた日本では活躍の場が限られていた。
- 昭和40年代から、三井造船が建造したMV-PP5型を利用して日本各地で定期便運航が行われていた。
- 伊勢湾内ではかつて、名鉄海上観光が「はくちょう」という名で運航(すでに廃止)。
- 鹿児島ではかつて、空港ホーバークラフトが「エンゼル」という名で運航。市内から錦江湾を北上して旧鹿児島空港へのアクセスとしていた(空港の内陸移転で廃止)。
- 大阪・徳島間をかつて、日本ホーバーラインが「赤とんぼ」という名で運航(すでに廃止)。
- 沖縄八重山諸島をかつて、八重山観光フェリーが「蛟龍」という名で運航(現在も航路は残る。別のタイプの高速船に移行)。
- 国鉄~JR四国がかつて、宇高連絡船で急行便として運航(瀬戸大橋開通で廃止)。初代の「かもめ」と2代目の「とびうお」。特に宇野駅では、駅ホームの先端から乗船出来たので、列車からの乗り継ぎに便利だった。高松駅では駅の構造上、改札を一旦出て、駅舎脇の乗り場から乗降していた。
[編集] MV-PP5一覧
建造元の資料によると、PP5型は計19艇作られた。一部は海外へ輸出。
- はくちょう
- はくちょう2号
- はくちょう3号
- ほびー1号
- ほびー2号
- ほびー3号
- かもめ
- 蛟龍
- エンゼル1号
- エンゼル2号
- 赤とんぼ51号→ほびー6号
- 赤とんぼ52号
- エンゼル3号
- エンゼル4号
- エンゼル5号
- Hangchang No.1
- Hangchang No.2
- とびうお
- Hangchang No.3
PP5型はかつて、日本の代表的なホバークラフトだったが、最後まで残っていた大分でも、新しいPP10型に交代が進み、2003年を以て、全艇リタイアした。
[編集] ソ連の「エクラノプラン」
ソ連では、カスピ海において運用する「エクラノプラン」(ロシア語でホバークラフトのこと)が、軍民合わせて多数製作された。軍用のカスピ海の怪物に代表されるように「エクラノプラン」は奇妙な形をしたものが多かったが、それらは西側のものと違い地面効果(地面の近くは上空より揚力が強く働く)を利用するために航空機に近い形状をもつという共通点があった。それは、ホバークラフトというよりは「飛び上がれない飛行機」という印象を与えるものであった。