フッ素
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一般特性 | |||||||||||||
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名称, 記号, 番号 | フッ素, F, 9 | ||||||||||||
分類 | ハロゲン | ||||||||||||
族, 周期, ブロック | 17 (VIIB), 2 , p | ||||||||||||
密度, 硬度 | 1.696kg/m3 (273Kで), 不明 | ||||||||||||
色 | 淡黄褐色 | ||||||||||||
原子特性 | |||||||||||||
原子量 | 18.9984 amu | ||||||||||||
原子半径 (計測値) | 50 (42) pm | ||||||||||||
共有結合半径 | 71 pm | ||||||||||||
VDW半径 | 147 pm | ||||||||||||
電子配置 | [He]2s2 2p5 | ||||||||||||
電子殻 | 2, 7 | ||||||||||||
酸化数(酸化物) | -1(強酸性酸化物) | ||||||||||||
結晶構造 | 立方晶 | ||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||
相 | 気体(非磁性) | ||||||||||||
融点 | 53.53 K (-219.62℃) | ||||||||||||
沸点 | 85.03 K (-188.12℃) | ||||||||||||
モル体積 | 11.20 ×10-3 m3/mol | ||||||||||||
気化熱 | 3.2698 kJ/mol | ||||||||||||
融解熱 | 0.2552 kJ/mol | ||||||||||||
蒸気圧 | 不明 | ||||||||||||
音の伝わる速さ | 不明 | ||||||||||||
その他 | |||||||||||||
クラーク数 | 0.03 % | ||||||||||||
電気陰性度 | 3.98(ポーリング) | ||||||||||||
比熱容量 | 824 J/(kg*K) | ||||||||||||
導電率 | 不明 | ||||||||||||
熱伝導率 | 0.0279 W/(m*K) | ||||||||||||
第1イオン化エネルギー | 1681.0 kJ/mol | ||||||||||||
第2イオン化エネルギー | 3374.2 kJ/mol | ||||||||||||
第3イオン化エネルギー | 6050.4 kJ/mol | ||||||||||||
第4イオン化エネルギー | 8407.7 kJ/mol | ||||||||||||
第5イオン化エネルギー | 11022.7 kJ/mol | ||||||||||||
第6イオン化エネルギー | 15164.1 kJ/mol | ||||||||||||
第7イオン化エネルギー | 17868 kJ/mol | ||||||||||||
第8イオン化エネルギー | 92038.1 kJ/mol | ||||||||||||
第9イオン化エネルギー | 106434.3 kJ/mol | ||||||||||||
(比較的)安定同位体 | |||||||||||||
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注記がない限り 国際単位系使用及び標準状態下。 |
フッ素(フッそ、弗素、Fluorine)は原子番号 9 の元素。元素記号は F。最も軽いハロゲン元素。全元素中最も大きな電気陰性度をもち、化合物中では常に -1 の酸化数をとる。天然には、蛍石や氷晶石として存在する。
目次 |
[編集] 歴史
古くから製鉄などにおいて、蛍石が融剤として用いられた。蛍石に硫酸を加えると発生するフッ化水素は1771年、カール・シェーレが発見していた。
その後、蛍石(Fluorite)にちなみ、1812年にアンドレ・マリー・アンペールがフッ素(Fluorine)と命名した。しかし、単体のフッ素はその酸化力の高さゆえ単離は大変難航した。酸素を発見したラヴォアジェ(単離には至らず)、ゲイ=リュサック(フッ素により病気に罹る)、デーヴィー(漏れ出たフッ素で死亡)等、多くの化学者が挑むも失敗した。
ようやく1886年、アンリ・モアッサンがフッ化カリウム(KF)をフッ化水素(HF)に溶かした溶液を白金-イリジウム合金電極で電気分解することにより還元し、蛍石を捕集容器に使うことで単離に成功した。しかし彼も、単離方法を確立する過程で片目の視力を失った。
[編集] 性質
単体は通常2原子分子の F2 として存在する。常温常圧では淡黄褐色で特有の臭い(塩素のようとも、きな臭いとも称される)をもつ気体。非常に強い酸化作用があり、猛毒。 猛毒である反面、ほ乳類に取っては必須ミネラルの一つでもあるが欠乏と過剰になる量の範囲が非常に狭い栄養素であるためサプリメントにすることは難しい。主な摂取源は飲料水と動物の骨などである。 フッ素過剰症になると全身に骨硬化症、脂質代謝障害、糖質代謝障害などの症状が現れる。
融点 -223 ℃、沸点 -188 ℃、比重 1.11(沸点時、空気を1とする)。反応性が極めて高く、ヘリウム、ネオン、そしてアルゴン以外の殆んどの単体元素を酸化し化合物(フッ化物)を作る。
ガラスや白金さえも侵すためその性質上、単体で保存することはほとんどない。もっぱら単体よりも穏やかな化合物の状態で保存され、容器には化合物であっても侵されにくいポリエチレン製の瓶や、テフロンコーティングされた容器が用いられる。単体はフッ化水素(HF)を電解するか、フッ化水素カリウム(KHF2)を電解することで得られる。
単体フッ素は酸化力が強くほとんどの元素と反応する。
- 水素とは高温では光なしでも反応し、光の存在下では室温でも反応してフッ化水素HFを生成する。水素との1対1混合物を燃焼させると4300K程度まで達する。
- 酸素とは放電によりO2F2を生じ、液体酸素とは放電により、O3F2が得られる。
- 水酸化ナトリウム水溶液と反応して、OF2を生じる。
- アモルファス二酸化ケイ素(SiO2)はフッ素雰囲気下で燃焼し、四フッ化ケイ素(SiF4)と酸素O2になる。
- 鉄などとは即座に反応する。他の金属も室温~比較的低温で反応する。
- キセノンとは加熱あるいは光存在下に反応し、XeF2を生じる。大過剰のフッ素存在下に400℃で加熱すると、XeF2,XeF4,XeF6の混合物を生成する。クリプトンとは光存在下に反応しKrF2を生成する。
- フッ素の酸化還元電位は+2.89(V)で、他のハロゲン族元素に比べて非常に高い値である。酸素の+1.21 (V)より高い為、他のハロゲン化物塩水溶液と異なりフッ化物塩の水溶液を電気分解しても単体フッ素は得られず酸素が発生する。
[編集] 用途
その性質上、フッ素を単体で使う場面は少なく、フッ化カルシウムCaF2と硫酸H2SO4から生成するフッ化水素HFを介して利用されることが多い。235U濃縮のため、揮発性の高いフッ化ウランUF6を製造する目的で単体フッ素が利用されることは、特筆すべきことがらである。
フッ素を含む物質は、一般に非常に安定しており、長期間変質せずに使用できるという特徴を持つ。逆に言えば、この性質は環境中で分解されにくく、いつまでも残存するということを意味しており、その使用には注意が必要である。
- フッ素樹脂
- 一般的なポリマーは主に炭素と水素から構成されているが、水素をフッ素に置き換えると全く性質の異なるポリマーが得られる。代表的なフッ素化ポリマーであるテフロンは、撥水性・耐薬品性・耐熱性などに優れた材料として広範囲に使用されている。家庭ではフライパンの表面のコーティングに用いられている。また、フッ素化ポリマーは近赤外領域の透過性が高いため、光ファイバーの材料としても利用されつつある。
- フッ化化合物として、フロン(フレオン:商品名)があり、冷媒として広く使われていた。しかし、塩素原子を含む一部のフロンはオゾン層を破壊することが判明したため、塩素原子を含まない代替フロンやフロン以外の冷媒が使用されるようになった。
- 絶縁性気体
- 六フッ化硫黄が使われる。絶縁性能に優れ、主に容量の大きな電力機器で使われている。
- 屈折率の制御
- ウラン235と238の分離・濃縮
- フッ素はウラン235と238の混合物から、核物質として有用なウラン235を分離・濃縮する際に用いられる。マンハッタン計画などにおいては原子爆弾製造のため、より効率的なフッ素製造法の発見・確立に力が注がれた。
- ロケット
- 清掃
- 歯の強化
- 生体がフッ素を摂取すると一部が歯や骨格に蓄積されることから、これらの形成に影響を与える。フッ素は歯のヒドロキシアパタイトのOH-がF-と置換することで変化させ、酸に対する耐性が向上する。1940年代からアメリカなどでは、水道水に低濃度(1ppm程度)のフッ素を付加することが行われている。しかしながら高濃度のフッ素を長期間摂取すると、顎内で歯のエナメル質の成長異常により生じる斑状歯と呼ばれる歯の形態異常を引き起こすことが知られている(すでに生えた歯が斑状歯化するわけではない)。過去に一部地域で施行されたこともあったが、現在の日本においては水道水へのフッ素添加は行われていない。水道水への添加以外では、モノフルオロリン酸ナトリウム配合のハミガキ剤の使用、低濃度フッ化水素ナトリウム溶液による洗口(うがい)、歯科衛生士など専門家による2%フッ化水素ナトリウム溶液の塗布などが虫歯予防のために広く行われている。ただしフッ素の安全性とむし歯予防効果については古くから様々な議論がある。WHOをはじめ各国政府の専門機関、米国歯科医師会、日本歯科医師会などは低濃度のフッ化物の安全性とむし歯予防効果を公式に認めている。一方で歯の強化効果に疑問があり、フッ素の毒性を憂慮する意見も根強い(これについては外部リンク参照)。National Academy of Sciencesはフッ素に歯と骨の強化作用があることから人体必須のミネラルであるとするが、これに異議を唱える学者も少なくない。
[編集] フッ素の化合物
[編集] 金属のフッ化物
- フッ化アルミニウム (AlF3)
- フッ化カルシウム(CaF2)
- 蛍石(フッ化カルシウムの鉱石)
- フッ化水素(HF)
- フッ化ナトリウム(NaF)
- 六フッ化アルミニウムナトリウム
- 六フッ化ウラン(UF6)
[編集] 非金属のフッ化物
[編集] その他
- モノフルオロ酢酸(CH2FCOOH)
- テフロン
- ポリフッ化ビニル
- マジック酸(FSO2OH・SbF5)
- 六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)
[編集] フッ素のオキソ酸
フッ素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。
オキソ酸の名称 | 化学式 (酸化数) |
オキソ酸塩の名称 | 備考 | |
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次亜フッ素酸 (hypofluorous acid) |
HFO (-I) |
次亜フッ素酸塩 ( - hypofluorite) |
※オキソ酸塩名称の'-'にはカチオン種の名称が入る。