ファイトケミカル
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ファイトケミカル (phytochemical) は植物栄養素(しょくぶつえいようそ、phytonutrient)とも呼ばれ、広義には植物由来の化合物や栄養素を指す。一般的にはより狭い意味で用いられる語で、植物から得られ、通常の身体機能維持には必要とされないが、健康に恩恵をもたらしたり病気からの回復に効果をあらわす化合物を指す。すなわち、伝統的に「栄養素」と呼ばれてきたものとは異なり、通常の代謝には必要ではなく、摂取しなくとも欠乏症が起こることはない(少なくとも欠乏症が通常発生するような期間において)。工業化された国家に住まう人々に見られる多くの病気は、食事にファイトケミカルが不足しているためだ、と主張する者も少数存在する。論を待たないとされるのは、ファイトケミカルは健康に良い機能を多く持っているという点である。例えば、免疫系の機能を向上させたり、バクテリアやウイルスに対して作用したり、炎症を抑えたり、がんや循環器疾患などに対して治療もしくは抑制効果があるとされる。
ファイトケミカルの多くは果物や野菜の色素であり、抗酸化剤として作用する。例えばルテインはトウモロコシの黄色、リコピンはトマトの赤、カロテンはニンジンのオレンジ色、アントシアニンはブルーベリーの青のもとである。色素や抗酸化剤としての機能は共役した炭素−炭素二重結合によるものである。疫学的研究により、果物や野菜に含まれるファイトケミカルはがんの危険性を減少させるという証拠が得られている。しかし、喫煙者がβ-カロテンを多量に摂取した場合はがんのリスクが増すことが示されており、これはβ-カロテンの分解生成物が血漿中のビタミンAを減少させ、喫煙によって誘発される肺の細胞の増殖を悪化させるためではないかと考えられている。
[編集] 種別
以下にファイトケミカルの分類、およびそれらを含む一般的な植物を示す。
分類 | 含む植物 |
---|---|
フラボノイド | ベリー類、ハーブ、野菜 |
イソフラボン(植物エストロゲン) | オオムギ、亜麻、ダイズ |
イソチオシアン酸エステル | アブラナ科の野菜 |
モノテルペン | カンキツ類の皮や精油 |
有機硫黄化合物 | チャイブ、ニンニク、タマネギ |
サポニン | 豆類、穀物、ハーブ |
カプサイシン | 唐辛子 |
植物ステロール | 植物油 |
[編集] 食物の加工法
多くのファイトケミカルは、近代的な加工法・調理法を用いた場合には分解されるか失われてしまうと考えられている。このため工業的に加工された食物は生の物に比べて健康への恩恵(ファイトケミカルの含有量)が乏しいと信じられている。ファイトケミカルは現代社会における上記のような病気の予防や治療に役立つものであり、その欠乏は罹患率の上昇を招くとされる。
しかしながら、トマトに含まれるリコペンはスパゲッティソースやケチャップのような加工食品中では濃縮され、生のトマトよりも多く含まれることが知られている。