A君(17)の戦争
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『A君(17)の戦争』(えーくんじゅうななさいのせんそう)は、豪屋大介作のライトノベルである。富士見書房から刊行されている。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
目次 |
[編集] 概要
「現代の日本で生まれ育った何の取り柄もない少年が別の世界に召喚され、滅亡に瀕した国を救うために異種族の美少女たちを従えて活躍する。さらには世界そのものを創造する力を持った超越者が出現し、主人公は目の前の敵と戦うのと同時に、超越者との対決にも備えていかなければならなくなる」
……という風に書いてしまうとまるでステロタイプなライトファンタジー風ハーレムもののようだが、物語はそういったステロタイプ(作中の表現によれば「おファンタジア」)のお約束を適宜引用しては、それらを揶揄しつつ進行する。
戦闘は少数の勇者ではなく、多数の(つい最近まで普通の暮らしをしていた)兵士たちからなる軍隊によって行われる。おファンタジアな戦争では軽視されがちな兵站や戦争経済にまつわる問題もくどいほど描かれる。そして主人公の能力も個人的な武勇ではなく、作戦指揮や国家戦略といった部分でのみ発揮される。これらによって、あたかもファンタジー世界を舞台とした架空戦記であるかのようなストーリーが展開していく。なお、主人公の使命は「人族による侵略から魔族の国を守ること」である。
作中には建前上対象としているはずの読者(中高生)より10歳以上年長でなければ判らないようなネタがしばしば紛れ込んでいる。
先述した「揶揄」の対象は「おファンタジア」のみならず、それらを愛好し、女性キャラに萌えたり同人誌を作ったり設定の矛盾を見つけては悦に入ったりするオタクたちにも及ぶため、読者にとって(そしておそらくは作者にとっても)かなり自虐的な作品とも言える。
[編集] 登場勢力と主要登場人物
[編集] ブラントラント
主要な舞台となる世界。二つの太陽と四つの月がある。
- 魔王領
- ブラントラントで唯一、魔族(魔物という表現は差別用語なので使われない)と人族が共存する国。千年ほど前から数十年おきに異世界の人族が現れ、魔王として治めてきた。代々の魔王によって導入された異世界の文物や制度、文化などは多少の時間差を置いてブラントラント全土に広まっている。公用語は魔王によって伝えられた日本語。
- 小野寺剛士(おのでら ごうし)
- 天抜高校2年4組。容姿も体力も人並み以下の17歳。恩のある相手には可能な限り報いようとするし、怨みを晴らすためには手段を選ばない。「高速怨念増殖炉」と形容される、ギリギリまで追いつめられた時のみ作動する特殊な思考回路を持つ。次期魔王としてブラントラントに召喚され、現魔王の田中によって魔王領総帥に任命される。田中はまもなく戦闘中行方不明になってしまうが、剛士は彼が戦死したとは認めず(事実生きていた)総帥のまま魔王領の統治と戦争指導にあたる。
- スフィア
- 外見的には剛士と同年代の人族だが、その素性は不明。剛士の世話係兼医師兼カウンセラー(兼護衛)として傍に仕える少女。髪は浅黄色、なぜか天抜高校の制服に身を包み、腰に鈴を付け、巨大な鎌を携えている。ある強大な存在によって、剛士を魔王たらしめるために尽くすという「さだめ」を課せられているが、ただの少年としての彼を好ましく思い、責任の重圧に苦しみながらも統治者として彼女らの期待を越えた成長を遂げていくことに切なさを感じている。
- 田中和夫(たなか かずお)
- アーシュラ・ガス・アルカード・ドラクール
- リア・クァルトマイエル
- セシエ・ハイム
- ジョス・グレナム
- 人族。23歳ながら魔王領一の大魔導士であり、魔王軍の高級士官。かなり遊び慣れている。
- メイム・カスターリャ
- ダークエルフ。600歳を越える妖艶な美女。ジョスの魔法の師匠にして最初の女であり、今では彼の腹心の部下にして愛人(の筆頭)。
- 斎藤
- 1950年代に召喚された。広島原爆投下で妻子を失っている。セントール平野の共同入植計画を進めたが失敗に終わる。退位後は側近だったエルフと再婚し、平穏に暮らしていたが、剛士の要請でランバルトとの停戦交渉に関する全権使節団長に就任する。
- ランバルト王国
- 魔王領の東に隣接する人族至上主義の大国。とはいえ、かつては魔王領との国境地帯であるセントール平野に両国共同で入植地を拓こうとしたこともあった。ゴルソン大陸の中央に位置し、海に接していないため、貿易港を手に入れたいという経済的理由からも魔王領征服を図っている。
- フェラール三世
- 名将として知られる23歳の若き国王。実はすべてシレイラのおかげで、しかも同性愛者なのがばれているため彼女には頭が上がらない。田中とは敵味方ながら民を統べる者同士として、また一般的ではない趣味を持つ者同士として共感するものがあり、(彼にしては珍しくノーマルな)良き友人関係を築く。田中を奪還すべく行われた魔王軍の王都強襲に際し、外交交渉の窓口を作るために自らの意志で捕虜となる。
- シレイラ
- フェラールの妹。陰謀・戦争大好きな危ない15歳。彼女なりに王国や兄のために良かれと様々な作戦を立て、表向きは兄の功績ということにして深窓の姫君ぶりっこしていた。なぜか田中には猫被りが通用せず、天敵と認識している。フェラールが魔王軍に捕らわれたのを機に摂政となり、人族諸国の軍を糾合して魔王領へ侵攻する。
- ナサニア・トルガ・ゴローズ
- 男爵、29歳。ランバルト軍の中でも後ろ暗い任務を担当する特殊部隊「王立特務遊撃隊(ロイヤル・スペシャル・イレギュラーズ)」の指揮官。のちにはシレイラの軍師へ取りたてられる。脛に傷持つ者揃いの特務遊撃隊メンバーからも慕われる好漢。セントール平野の共同入植地の村で生まれ育ったが、その村は何者かに襲われて全滅し、以来襲撃者の正体を突き止めることに人生の大半を費やしてきた。当時彼を兄のように慕っていた幼い姉妹の片割れこそ、スフィアのかつての姿である。
- マヤ・ウラム
- 王国騎士、20歳前後。ゴローズの副官、のちには彼の後任の指揮官。騎士の家系の娘だが、父親の不名誉な行いが元で正規の騎士としての扱いを受けられず、特務遊撃隊に入る。ゴローズに想いを寄せており、彼の言葉を脳内で都合良く変換して一人で暴走することがあった。
- コレバーン連合
- ランバルトに隣接する国の一つ。国王の権威が弱く、大貴族たちと経済力のある臣民たちとの対立が続いている。証券市場が盛んで、魔王領・ランバルト双方の発行する戦時国債が人気商品となっている(貴族はランバルトの、臣民は魔王領の国債を買っている)。
- フィラ・マレル
- 連合王家第3王女、24歳。高い政治的才覚と臣民寄りな思想を持ち、行動派で思い込んだら一直線。シャレでクーデター計画を考えたところ周りが本気にしてしまい幽閉されていたが、大貴族たちがランバルトに懐柔されつつある状況を危惧し(魔王領を片付けたランバルトが次にコレバーンへ兵を向けることを恐れ)、政治亡命 & 押し掛け政略結婚のために魔王領へやってくる。
- アイデン・トルラウ
- フィラ王女お付きの爺や(侍従長)。元コレバーン軍天馬騎兵大佐。
- ノーリャ・マレル
- パライソ
- 魔王領、ランバルト両国の北に隣接する国。軍事的・経済的な力は小さいが、マスル教の総本山がある。礼拝はゴスペル・ロック風。
[編集] その他
- 朧野ほのか(おぼろの ほのか)
- 飯田(いいだ)
- 天抜高校で剛士を苛めていた同級生たちのリーダー。ほのかの作った世界では柔道部主将で剛士の親友。
- 須賀沼卓蔵(すがぬま たくぞう)
- ほのかの作った世界にある出版社の編集長。高校生作家の剛士を直接担当している。モデルになった人物は『レッドサン ブラッククロス 死戦の太平洋』の登場人物である菅沼拓三と同じ。
[編集] 既刊一覧
- A君(17)の戦争
- まもるべきもの(2001年11月)ISBN 4829113812
- かえらざるとき(2002年5月)ISBN 4829114304
- たたかいのさだめ(2002年7月)ISBN 4829114428
- かがやけるまぼろし(2002年11月)ISBN 4829114789
- すすむべきみち(2003年5月)ISBN 4829115165
- すべてはふるさとのために(2003年11月)ISBN 4829115475
- はたすべきちかい(2004年4月)ISBN 4829116072
- うしなうべきすべて(2005年4月)ISBN 4829116994
- われらがすばらしきとき(2006年1月)ISBN 4829117478
[編集] 余談
- 当初、表紙は伊東岳彦、挿絵は北野玲が手がけていたが、7巻で表紙も北野に交替した。さらに8巻から(北野が玲衣に改名したのと共に)画風が大きく変わり、既刊分もすべてイラストが差し替えられた新装版となった。
- ファンの中には豪屋大介の作風や文体が佐藤大輔と類似していると感じる者もおり、しばしば「両者は同一人物か否か」が話題となる。それを助長するかのように、4巻で剛士が放り込まれたもう一つの日本は『レッドサン ブラッククロス』の世界であった(公式には佐藤の許可を得て豪屋が借用したとされている)。
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