馬頭観音
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馬頭観音(ばとうかんのん)は、仏教における信仰対象である菩薩の一つ。サンスクリットではハヤグリーヴァ(Hayagriva)と言い、「馬の頭をもつもの」の意である。観音菩薩の変化身(へんげしん)の一つであり、六観音の一つにも数えられている。日本語では「馬頭観音菩薩」、「馬頭観世音菩薩」、「馬頭明王」などさまざまな呼称がある。衆生の無智・煩悩を排除し、諸悪を毀壊する菩薩である。
他の観音像が女性的で穏やかな表情で表わされるのに対し、馬頭観音のみは目尻を吊り上げ、怒髪天を衝き、牙を剥き出した忿怒(ふんぬ)相である。このため、「馬頭明王」と称し、菩薩部ではなく明王(みょうおう)部に分類されることもある。本来は馬頭人身の像容であったが、日本には伝えられていない。また「馬頭」という名称のゆえか、あらゆる畜生類を救う観音であるとも言う。
像様は前述のような忿怒相で、頭上に馬頭を戴き、三面三目八臂(額に縦に一目を有する)とする像が多い。一面二臂、一面四臂、三面二臂、三面六臂、四面八臂の像容も存在する。立像が多いが、坐像も散見される。頭上に馬頭を戴き、胸前で馬頭印と称する印相を示す。
石川の豊財院の木像が平安時代の後半にまで遡る作例である。福岡・観世音寺の木立像は高さ5メートルに及ぶ大作で、日本の馬頭観音像の代表例と言える。京都・浄瑠璃寺の木像は、鎌倉時代の南都仏師らの手になる作例である。
また近世以降は、馬が急死した路傍などに馬頭観音像を建てることが多くなった。この場合、像ではなく単なる石碑であったりする。
なお、現代の日本においては競馬場の近くに祀られていて、レース中に亡くなった馬などの供養に用いられている場合が多い。