風が吹けば桶屋が儲かる
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風が吹けば桶屋が儲かる(かぜがふけばおけやがもうかる 英:After wind's blowing, basinsmiths get money)とは日本のことわざで、あたかもバタフライ効果のように思わぬ所に思わぬ物事の影響が出ることの例えである。しかし現代では、その論証に用いられる例が突飛である故に、「あり得なくはない因果関係を無理矢理つなげて出来たトンデモ理論」も指すことが多い。
経済学においては、ある主体の支出が様々なプロセスを経て何倍もの支出になる乗数効果や、投資が投資を生む波及効果のたとえとして持ち出される場合がある。
[編集] 語源
江戸時代の浮世草子「世間学者気質(かたぎ)」だと言われている。この俚諺を展開すると、以下のような論証があると言う。
- 風で砂埃が舞い上がる。
- その風が目に入り、失明する人が増える。
- 当時、視覚障害者が就ける職業は三味線弾きぐらいだと思われていた。故に、三味線弾きが増える。
- 三味線に張る革を集めるため、ネコが大量に殺される。
- 天敵が減ったことによりネズミが大発生する。
- ネズミは桶を食害する。
- 桶の売り上げが上がる。
- 故に、桶屋が儲かる。
これを一つ一つ検証してみると、
- 砂埃で失明する人がそれほど大量にいるか? それほどの風であれば、家屋倒壊や農作物の損害の方が大きくなるはずである。
- 視覚障害者が大量に出たとしたら、その全員が三味線弾きとして糊口することは出来なくなるはずである。
- ネコが激減する前にその革の値段は高騰し、例えば(練習用三味線の革として使われる)イヌに取って代わられるはずである。
- ネズミが大発生したとしても、桶だけを食害するとは考えにくい。むしろヒトに噛みつく、伝染病を媒介すると言う問題の方が遙かに大きくなるはずである。
- こうして社会は大混乱に陥る。そのような状態で、人々が食害された桶を買いに走るとは考えにくく、桶屋(彼ら自身もその混乱に巻き込まれるに違いない)がこの事例でそれほど利益を得られるとは考えられない。
故に、これは広義のドミノ理論であると言える。個々の因果関係は「あり得なくもない」物であるが、実際にどれくらいの確率があるのか検証された事の無い、経験的に言っても「恐らく無いと言っていい」事象が5段階に渡って積み重ねられており、全体的な尤度は限りなく低い。その上、もし実際に起こったとしたら副次的な問題の方が大きい。
いわゆる「机上の空論」として批判される物は、多かれ少なかれこの俚諺のような要素を含んでいる。このような蓋然性を無視した議論に対し、実際の結果を元に論証しようとする態度が経験論であり、その代表がプラグマティズムである。