質権
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質権(しちけん)は、担保物権の一類型であり、民法に規定のある典型担保物権(民法342条)。債権の担保として債務者または第三者から受け取った物(質物:不動産でも動産でもよい)を占有し、その物については他の債権者を差し置いて優先的に弁済を受けることができる。つまり、弁済しなければ債務者は当該物の所有権を失う。この心理的圧迫によって弁済を強制することを留置的効力という。また、質物を競売して換価し、その競売代金から優先弁済を受けることができ、これを優先弁済権という。目的としては抵当権と共通する。しかし、占有の移転が要件となる点で抵当権と異なる。
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[編集] 概要
[編集] 質権の種類
- 動産質権
動産に設定できる典型担保物権はこの質権のみであるが、実務的要請に応えきれず、譲渡担保などの非典型担保物権が生み出されている。
動産質権の対抗要件は占有の継続である(民法352条)。
- 不動産質権
- 権利質
有体物ではない財産権(たとえば著作権、特許権などの知的財産権、債権)の上にも質権を設定することができる(民法362条1項)。 権利質においては債権質権者が自己の名において債務者に履行を請求できるというメリットがある(民法367条、現在は削除)。取り立てた債権が金銭債権であれば、そのまま自己の債権の弁済に充当することもできる。 実務上、最も多く利用されるのは、建物に抵当権の設定を受けるときに、抵当権者がその建物に付された火災保険の保険金請求権に債権質を設定を受け、抵当権の目的たる建物が滅失しても、火災保険の保険料から優先弁済を受けるというケースである。
[編集] 対抗要件
権利質の対抗要件は債権の種類によって異なる。
指名債権については債権譲渡と同様に、債務者対抗要件は第三債務者(質権の目的たる債権の債務者)への通知または第三債務者の承諾であり、第三者対抗要件は確定日付ある証書による第三債務者への通知または第三債務者の承諾である(民法364条)。この他、法人の有する債権については、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法)による登記により、対抗要件を備えることもできる。
指図証券については裏書である(民法366条)。ただし、手形、小切手、倉庫証券、船荷証券等の有価証券については、裏書は効力要件である。