相互確証破壊
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相互確証破壊(そうごかくしょうはかい, Mutual Assured Destruction, MAD)とは、核戦略の重要な概念。
核兵器を保有して対立する陣営のどちらか一方が相手に対し戦略核兵器を使用した際に、もう一方の陣営がそれを確実に察知し、報復を行う事により、一方が核兵器を使えば最終的にお互いが必ず破滅する、という状態のことを指し、互いに核兵器の使用をためらわせる。
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[編集] 観測から報復まで
核兵器の発射は主に早期警戒衛星で観測する。平時の情報収集により敵方のミサイルサイロの位置はマークされているため、早期警戒衛星はそのような場所から発射に伴う爆発炎など兆候を監視している。相互確証破壊を成立させる上では、相手方による発射を検出してから、それらが着弾するまでに応酬用の核兵器を発射できる態勢を整えねばならない。一般的に、射程距離が10000キロメートル級のICBMでは、発射から着弾までの時間は30分程度とされている。地上に設営されたミサイルサイロではなく、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の場合は、発射の検出に時間がかかるため、事態はいっそう切迫する。このわずかな時間内に意思決定を行い、ミサイルサイロに指示を伝達し、発射にかかるすべての作業を完了させなければならない。相互確証破壊を実現するには、数や威力の上で核武装を充実させることが大切ではあるが、それ以上に即応性が求められる。即応性を向上させるために様々なシステムが考案された。
[編集] 旧ソビエト連邦の自動報復システム
旧ソビエト連邦およびロシアでは、米国の先制核攻撃により司令部が壊滅した場合に備え、自動的に報復攻撃を行えるよう「dead hand(死の手)」と呼ばれるシステムが稼動している。
これはロシア西部山中の基地に1984年から設置されているもので、ロシアの司令部が壊滅した場合、特殊な通信用ロケットが打ち上げられ、残存している核ミサイルに対し発射信号を送ることで米国に報復するものである。(映画「復活の日」で、Automatic Revenge System―全自動報復装置として描かれた ストーリー中ではアメリカにも同様のシステムがある事になっている)
[編集] 冷戦期を振り返ると
米ソおよび双方の同盟国における冷戦期において両陣営がこの状態を維持した結果、核兵器が使われず、平和を保つことができたとする核抑止説がある。しかし、ひとたび使えば確実かつ完全に報復されてしまう、全く使える見込みのない核兵器のために巨額の資金や労力を注入しつづけたことにどれほどの意味があったのかと疑問視する考えもある。
何度かの戦略核兵器の削減交渉が行われ、ミサイルの配備数を減じる要求を相互に提示した。しかし双方とも相互確証破壊の維持を大前提とし、この状態を崩す削減要求は受け入れないか、名目上の同意だけで実質的な削減を行わなかった。
[編集] 核拡散の時代において
米ソ間の冷戦が終結し、これらに関わった国家では核兵器の廃棄が進むのに対し、新たに核武装を行う国家が現れた。新たに核武装を行い加えて増強する理由についても、相互確証破壊の考えがあり、想定する敵対国の核攻撃に対して確実な応酬ができるようにすることを掲げ、ミサイル技術などの諸分野に注力している。