火渡り
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
火渡り(ひわたり)とは熱した石炭を敷き詰めたその上を裸足で歩くという行為である。適切に執り行われる限り、やけどを負う危険はない。忍耐力などの特異な精神力は必要とされないが、十分な知識のないままに行うと危険が伴う。
[編集] 儀式としての火渡り
火渡りは以下のようなときに実施される:
- 一部のスーフィーによって。
- アメリカの経営セミナーや自己開発のセミナーにおいて。
- ギリシャやブルガリアでは東方正教会の祝祭期間中の儀式として一部の信者が行っている。
- アフリカ生まれのヒンドゥー教徒は重要な宗教的祝祭の一部として火渡りを行う。
- カラハリ砂漠のブッシュマンはカン部族は、部族の始まりから火渡りを行ってきている。治癒の儀式として行われる。
- 日本の修験道や仏教の修行の一環として。
- 浄化、治療、通過儀礼、自己超越のための儀式として。
火渡りの運営者の中には、やけどしないためには瞑想や降霊などの超自然的な準備が必要であると説く者もある。
もっとも古い火渡りの記録は、4000年以上前のインドで行われたものである。放浪のバラモンと在所のバラモンとが、燃える石炭の上をどちらが遠くまで歩いていけるかの勝負を行い、放浪のバラモンが勝利したことが記録として今日まで残っている[要出典]。17世紀後半、イエズス会の神父ル・ジューヌは、北米インディアンたちが治癒の儀式として火渡りを行っているのを目撃したと上司にあてた手紙の中で記している。神父が目撃した病気の女性は、やけどを負うどころか、熱さを感じてすらいないかのように火の中を歩いていったという。30年ほど後、神父マルケッタがオタワのインディアンが同じように火渡りを行うことを報告している。また、ジョナサン・カーバーは、1802年の『北米旅行記』の中で、戦士たちが「裸足で火の中に入っていき……見たところ無傷であった」ことをもっとも仰天した光景のひとつとして書き記している。
[編集] 解説
温度の違う2つの物体が接触すると、より温度の高い物体は冷え、より温度の低い物体は温まる。接触が断たれるか、一定の温度に達するかすると、温度の変化は止まる。このときの温度と、そこに達するまでの時間は、2つの物体の熱力学的性質によって決まる。中でも重要なのは、温度、質量、比熱容量、熱伝導率である。
質量と比熱容量の積は熱容量と呼ばれ、その物体の温度を1度上げるのに必要な熱エネルギーの量をあらわす。より温度の低い物体からより温度の高い物体に熱が移動するため、最終的な温度はより熱容量の大きいほうの物体の温度に近くなる。
ここで問題となる物体は人間の足(主成分は水)と熱せられた石炭である。
次にあげる要因が相乗的に効果をあげ、足にやけどができるのを防いでいる:
- 水は非常に高い比熱容量 (4.18KJ/K・kg) を持つ。一方石炭の比熱容量は非常に低い。それゆえに、足に生じる温度変化は石炭と比べてかなり緩やかなものになる。
- 水は熱伝導率も高く、その上、伝わった熱は血液の循環により拡散していくため、効率的に温度の低い物体の質量を増やすことができる。その一方で、石炭は熱伝導率に乏しく、温度の高い物体として数えられるのは足に接触する付近だけである。
- 石炭の温度が下がり引火点を下回ると、燃焼は終わり、新たな熱が発生しなくなる。
- 石炭は、熱伝導性に乏しい灰に覆われることが多い。
- 石炭の表面は不均一で、実際に足と触れる面積はかなり小さい。
- 足が石炭の上で費やす時間は断続的で、各々の接触時間も短い。
火渡りが正しく行われなかった場合は危険が伴う:
- あまりにも長時間石炭の上に足をつけていた場合、石炭の熱伝導率に追いつかれ、やけどする。
- 石炭に不純物が含まれている場合もやけどの危険がある。金属類は高い熱伝導率を持つため、とくに危険である。
- 石炭を十分に時間をかけて燃焼させなかった場合、やけどを負うまでの時間を短くする要因となる。石炭には水分が含まれており、熱容量と熱伝導率を高める働きをする。火渡りを始める前に、水分を十分に蒸発させておく必要がある。
- 足が湿り気を帯びている場合、石炭に張り付いてしまい、接触時間を引き延ばすことがある。
火渡りが成功する理由として、熱い物体と冷たい物体の間にできる水蒸気の層によって生じるライデンフロスト効果の存在を主張する者もいるが、結論はでていない。一部の有識者の指摘によれば、ライデンフロスト効果が働くと仮定した場合、同時に摩擦力が大幅に減少するはずだが、石炭が滑りやすく感じるといった現象は観察されていない。
カテゴリ: 出典を必要とする記事 | 行法