浅井えり子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

浅井えり子（あさいえりこ、1959年 10月20日 - ）は東京都足立区出身、日本女子の陸上競技選手で、主な競技種目は女子マラソンである。

[編集] 経歴

東京都立足立高等学校卒。文教大学3年生だった1980年11月の第2回東京国際女子マラソンが初マラソンだった。大学卒業後の1982年、佐々木功監督の率いる日本電気ホームエレクトロニクス（NEC-HE）に入社してから、マラソンでメキメキと頭角を現す。ロサンゼルスオリンピックの選考レースだった1984年3月の名古屋女子マラソン（現・名古屋国際女子マラソン）では、2時間38分台のタイムで日本人最高の4位となるが、増田明美・佐々木七恵とは力の差があるとして、ロス五輪代表の選からは漏れた。

ロス五輪後の1984年11月、東京国際女子マラソンではドイツ（当時東独）のカトリン・ドーレに次ぐ2位に入賞、当時日本歴代2位となる2時間33分台の好タイムを記録した。直後に増田・佐々木が相次いで一線を退いたため、浅井らが日本の第一人者となる。その後、1986年10月のソウルアジア大会で優勝、1987年8月の世界陸上選手権ローマ大会（26位）等、数々のビッグレースに出場する。この間、日本女子初の2時間30分突破が期待されたが、記録面では1984年の東京国際を上回れない状況が続いた。

1988年1月の大阪国際女子マラソンには、ソウルオリンピック代表の座と日本最高記録をかけての出場となった。レース後半の30Km手前で、浅井は宮原美佐子と激しいデッドヒートを展開するが、35km過ぎで宮原のスパートを許して突き放され、41km過ぎでは荒木久美にもかわされて4位に落ち、最後は精魂尽き果ててゴール手前でよろけて転倒するほどであった（宮原は日本人初の2時間30分突破を達成、2位宮原と3位荒木の二人が五輪代表即内定となる）。しかし念願だったソウル五輪代表には、同年3月の理事会でなんとか3番目で選出された。

それから半年経った、1988年9月のソウルオリンピック女子マラソンの本番レースでは、国内選考レースとは逆に浅井が日本人トップでゴールした。しかし優勝争いには殆ど絡めないまま、結局浅井は25位（荒木28位、宮原29位）という成績に終わる。浅井も含めて日本女子の三選手は、改めて世界との大きな壁を痛感する事となった。

その後、30歳前後の頃スランプに陥っていた時期が続き、1992年1月の大阪国際女子マラソンで13位と完敗、バルセロナオリンピックの出場を逃した辺りから、自己ベストを更新し始める。1993年3月の名古屋国際女子マラソンでは、30回目のマラソンで目標だった2時間30分台を切る、2時間28分台の自己最高記録でゴール。その後も、同年7月のゴールドコーストマラソンでは2時間29分台の大会新記録（当時）で優勝。そして翌1994年3月の名古屋国際女子マラソンでは、日本女子国内3大マラソン（東京、大阪、名古屋）で悲願の初優勝を果たす。この時、浅井は34歳となっていた。

しかし、それから間もなく浅井に悲運が訪れる。約13年の間、浅井をずっと叱咤激励し続けてきた佐々木功監督が皮膚のガンに蝕まれ、東京都狛江市の慈恵医科大学病院へ入院、その後数か月の余命と診断された。それをきっかけに1994年9月、二人は入籍し結婚式を挙げる。佐々木はその後抗がん剤の効果も有り一時は好転して退院、同年12月には浅井と一緒にホノルルマラソンに行ける程までに回復したが、奇跡は起きなかった。佐々木の病状は翌1995年1月に悪化して再入院、浅井の必死の看病も空しく、同年3月13日に52歳の若さで夭逝した。浅井の名古屋初優勝から、わずか1年後の悲劇だった。

佐々木功監督が亡くなってから10年以上経ったが、その後も浅井は毎年ホノルルマラソンに出走するなど、今でも現役のマラソンランナーとして走り続けている。現在47歳、市民ランナーの多くから尊敬され、又目標とされる存在の一人である。

[編集] 亡き佐々木功監督のスローガン、L･S･D理論を継承

監督として浅井えり子を13年間指導し続けた佐々木功は、生前日本マラソン界に「時間をかけて、ゆっくりと、長い距離を」走る「L･S･D（long slow distance）」を紹介した。そのL･S･D理論とは、身体の末端の眠っている毛細血管を目覚めさせ、競技能力を向上させることが可能となるというもので、「ゆっくり走れば速くなる」をスローガンに、数多くの市民ランナー達に多大な影響を与えた理論である。そして佐々木監督の没後、浅井は佐々木の意志を受け継ぎL･S･D理論を継承し、現在ではランニング教室でL･S･D理論を中心にした指導、講演活動などを行っている。