構造構成主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
構造構成主義(こうぞうこうせいしゅぎ、英語表記:structural-constructivism)とは、人間科学における信念対立を超克し、建設的コラボレーションを促進するために西條剛央によって体系化された最先端の現代思想である。構造構成主義の思想的源流には、フッサール−竹田青嗣の現象学、ソシュールの言語学、丸山圭三郎の記号論、池田清彦の構造主義科学論、ロムバッハの構造存在論などがある。
目次 |
[編集] 現象の尊重
構造構成主義は、信念対立を超克するために、絶対的明証性が確保された地点から論理を組み立てる。したがって、構造構成主義では人為的に構成された「構造」よりも、「現象」を第一義に尊重することになる。現象とは、経験を通して各人に立ち現れたすべての何かである。構造とは、同一性と同一性の関係形式とそれらの総体による存在論的な概念である。
構造は、現象を同一性で構造化したものであることから、原理的に懐疑の余地があり、修正したり、洗練したりする可能性に開かれている。しかし、現象はその中身に関係なく、疑いようなく立ち現れている。したがって、疑いようのある構造と疑いようのない現象とでは、現象が尊重されることになる。なお、構造構成主義では夢や錯覚も現象に包含される。
[編集] 構造構成主義に通底する概念と2つの構造構成
構造構成主義に通底する概念は、現象学的概念と構造主義科学論である。
現象学的概念は、関心相関性と信憑性からなる。関心相関性とは、存在・意味・価値は主体の身体・欲望・関心と相関的に規定されるという原理である。構造構成主義では、信念対立を解消し、建設的コラボレーションを実現するために、関心相関性を中核原理に位置づけている。したがって、この中核原理の意義を汲み取れるか否かが、構造構成主義の重要性を理解する程度に関わってくるといっても過言ではない。信憑性とは、疑い難い確信のことである。構造構成主義は、客観的真理は徹底した懐疑に耐えられない概念であることから、それを採用しない。それに代わって、信憑性という概念を導入している。
構造主義科学論とは、池田清彦によって体系化されたメタ科学論である。構造主義科学論は、主体とは独立自存する外部実在を仮定せずに、科学的営みを保証できる科学論である。構造主義科学論では、科学は同一性(構造や形式)を追求するものととらえる。構造構成主義では、構造主義科学論を帰納主義や反証主義といった従来の科学論の一段上位(下位)に位置づけることで、超認識論という認識次元を確保し、人間科学のあらゆる領域に妥当する科学論的基盤を整備している。
この現象学的概念と構造主義科学論は,次の哲学的構造構成と科学的構造構成に共通した概念として位置づけられている。
[編集] 哲学的構造構成
哲学的構造構成とは、疑い難い確信が成立する条件を解明する哲学的営みである。哲学的構造構成は、判断中止、還元といった現象学的思考法と、記号論的還元、科学論的還元といった記号論を包含している。哲学的構造構成は、信念対立を回避するための認識論的基盤となるものである。
[編集] 科学的構造構成
科学的構造構成とは、人間科学のあらゆる領域に妥当する科学的営みを保証する。科学的構造構成には、関心相関的選択、構造化に至る軌跡、関心相関的継承、アナロジー法といった人間科学の方法論が整備されている。科学的構造構成は信念対立に陥らないために、認識論的、方法論的多元主義の理論的基盤を有している。
[編集] 継承発展
構造構成主義の大きな特徴の1つとして、非常に優れた汎用性がある。構造構成主義は西條剛央によって体系化されるとほぼ同時に、心理統計学、質的研究、発達研究、知覚研究、医学、作業療法、古武術、認知運動療法、QOLといった領域に継承発展された。また、最近では歴史学や政治・経済といった領域への応用が検討され始めている。こうしたことから、提唱者である西條剛央の他にも構造構成主義者を自認する人びとが現われつつある。
[編集] 関連書籍
西條剛央:構造構成主義とは何か. 次世代人間科学の原理. 京都:北大路書房. 2005 ISBN 4762824275